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風のきらめき

私は鈴木柚菜。

高校2年のバスケ部員。


強豪校でもないし、漫画のようなドラマなんてない。

だけど、打ち込めることがあることはいい事だ。


10月のある朝。

朝練が終わった後の体育館。

バッシュが床を擦る音、ボールが弾む音。

少しだけ埃っぽい体育館の匂いが、私は好きだった。


「鈴木先輩。」


体育館を出ようとしたところで、

聞き覚えのある声に呼び止められた。

 

男子バスケ部の1年、浅見樹。


「あの、ちょっと時間……良いっすか。」


努力家でクールな印象がある彼は、

私と同じスモールフォワードとして、頭角を表していた。


「どしたー?」


「先輩、SFっすよね。自分、昨日の試合見てたっす。

動きのコツ教えて欲しいっす。」


ああ……そっか―

ウチみたいな平凡な高校のバスケ部って、

参考にできそうな先輩少ないから

女子からノウハウを得ようとするのか……


「あ、じゃあ今日、放課後の自主練の時にコッチ来てよ。」


「うす。あざす。」


――放課後 自主練の時間。


蛍光灯の白い光の中、

私は浅見くんに自分の持ち味である、

クイックネスを活かした動きを見せた。


「スモールフォワードって、フィジカルが必要じゃん?

でも、私達はクイックネスで勝負するタイプ。

だから相手がどう動くか先読みしてっ、隙間を突く――。


重心を低くして視界も落として、相手の足元とか、

視線の動きを見るといいよ。」


浅見くんは真剣な顔で頷いていた。

額の汗が一筋、顎のラインを伝って落ちる。


「あと、ボール持ってない時の動きが大事。


オフェンスの時、どこに走るか、どこで止まるか。

それだけで相手のディフェンスって崩せるから。」


「なるほど……っす。」


その真剣な眼差しが、なんだか眩しかった。


――


自主練が終わって、

帰ろうとする時に、また樹が話しかけてくる。


「今日は、あざした……。

ちょっと話しながら帰れませんか?」


「いいよ。」


二人は街の灯りがほんのり照らす道を、

自転車を押しながら帰った。


秋の夜は思ったより冷える。

自転車のハンドルが冷たい。


「先輩、バスケ部なのに髪切ってないんすね。」


「ウチは厳しくないから……

短くしろって言われないし。」


「かっこいいと思うっす。」


恥ずかしそうに言う樹。

横顔が街灯に照らされて、

少しだけ赤くなっているのが見えた。


「あはは、なんか照れるな。」


笑って誤魔化す私。

でも、胸の奥が少しだけ温かくなった。


「――先輩。」


空気が変わった。


彼が自転車を止めた。

私も止まる。


街灯の下、長く伸びる彼の影


「俺、一目惚れっす。

先輩かっこよくて可愛くて……。


明日の練習試合…俺がSFで活躍したら――


その、もし良かったら…付き合ってください。」


その言葉だけを

真っ直ぐに残し、

「じゃ……俺行きます。」

とだけ言って自転車に乗る。


私は呆然とした。


心臓の音が、やけにうるさい。


秋の冷たい風が頬を撫でる。

彼の背中が遠ざかっていく。


予想外すぎる動きと、言動。


ああ……あの子のこういう所が

プレーにも出てるんだな、と何故か納得した。


――


翌日。


部内の1年生ミックスでの

試合形式の練習があった。

樹はスモールフォワード。


私はベンチに座って、

男子バスケの練習試合を見ていた。


試合が始まる。


樹は、私が教えた動きを実践しようとしていた。

オフボール…相手の視線を読んで動こうとする。

ディフェンスの足元を見て、隙間を突こうとする。


足音が体育館に響く。

ボールが弾む音。

彼の動きを、私は目で追っていた。


でも――身体が追いつかない。

男子バスケのフィジカルの壁は

想像しているより厚かった。


先輩たちは容赦なく詰めてくる。


樹は何度もボールを奪われ、

シュートを打てないまま、試合は終わった。


――だけど。


試合の時の真剣な顔つき。


私が言ったアドバイスを守ろうとして、

慣れない動きをしようと模索する姿。


汗で濡れた髪、必死に走る足、諦めない目。


私は自然と彼を目で追いかけていた。


いつの間にか、

胸の奥がキュッと締め付けられるような感覚があった。

頑張れ、と心の中で呟いていた。


――


体育館の隅で俯いて座っている彼に、

私は声をかけた。


「ふふ……ダメだったね。見てたよ。」


「先輩……ムズいっす。」


帰ってきた返答が、告白の事ではなくて―

試合内容だったことが、私は嬉しかった。


「男子はフィジカル必要だからなー…。

でも良かったと思うよ。」


と言うと、彼は悔しそうに言う。


「フィジカルで勝てないから、

先輩のような早さを活かして回りたかったっす。」


唇を噛んで、拳を握りしめていた。

本当に悔しそうな顔で――


胸が跳ねる。

ああ、この顔好きだ。


真剣な顔、諦めない目、

不器用なくらい真っ直ぐな姿。


---


試合は女子バスケへ移行。


1年生には負けられない。

そう自分を奮い立たせ、コートに立つ。


部長の掛け声。

床を蹴る感触と、鳴るシューズ。

ボールが弾む音が体育館を埋める。


――試合中盤。


私は樹に見せつけるように点を取りたかった。


無理な姿勢からでもいい、点が欲しくて

スリーポイントを狙いに行く。


フェイントを混ぜ、

相手のディフェンスの隙をつき、

シューティングスタンスを作り出す。


高く跳躍するつもりで

踏ん張ったとき——


足首に鋭い痛みが走った。


「っ!!!」


視界が傾き、床が迫る。

身体が倒れ込む瞬間、

足首をひねったのが分かった。


痛みよりも悔しさで、

視界が一瞬、白く染まった。


――


軽く手当を受けて、部活が終わる。


足首にテーピングを巻いて、

親の迎えを待っていると、樹がやってきた。

「大丈夫っすか…先輩。」


「うんっ、問題ないって先生が言ってたよ。」

――樹に笑ってみせる。


 

「すみません、俺…。

かっこいいところ見せたかったんすけどダメでした。」


「しかも先輩、怪我しちゃって……

俺、なんて言っていいか。」


彼の声が、

少しだけ震えているのが分かった。


「浅見くんは優しいね、ありがとう。」


「いや、そんなんじゃ……ねえーちゃんから、

女の子には優しくしろって言われてるっす。」


照れる樹。

耳まで赤くなっている。


「――なにそれっ。」

思わず笑ってしまう。


「ねえねえ、浅見くんのお姉さんって可愛い?」


「なんすかそれ、可愛くねえっすよ。」


「ふふふ、なんでもない。」


樹は少し困ったような顔をして、

それでも笑った。


その笑顔が、

なんだかすごく眩しくて、

私はほんの少し胸が苦しくなった。


「先輩、次の試合……また教えてくれますか?」


「うん、いいよ。」


私は自然と笑顔になっていた。


――


遠くで親の車の

ヘッドライトが見えた。


「じゃあ、また明日。」


「うす。お大事にっす。」


樹は一礼して小さく手を振り、

自転車に乗って帰っていく。


その背中を見送りながら、

私は少しだけ胸が温かくなった。


風のように流れていく私たちの時間。


まだ答えなんて出ていないけど…。


秋の夜風が、私の髪を揺らす。

体育館からは、まだバスケの音が聞こえてくる。


私は、もう一度、

樹の背中を目で追う。


きっと、次の試合も見る。

彼が活躍できなくても……

それでもいい。


ただ、彼の真剣な顔が見たいから――

バスケやったことなくて(ᐢ. ̯.ᐢ)

ポジションあるのかなとか、専門用語あるのかなとか。

調べながら書いててたのしかったです!


あと、私の作品で久しぶりに解毒されたエピソードでした!

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