信頼が生む成果
研修の頃から、高城祐樹は目立つ人だった。
声を荒げないし、否定もしない。
誰かが仕事で詰まれば、自然と横に立つ。
私はすぐに横に立とうとする彼に疑問を抱いていた。
「それは、主任だからですか?高城先輩だからですか?」
そう言ったとき、彼は少し困ったように笑った。
あの笑い方を、今井 真凜はよく覚えていた。
二年目社員。
結果は出している。
新規も取るし、成績も悪くない。
中堅のオジサン共にも数字では負けない――
だから多少ツンとしていても許される立場だと、
真凜自身も分かっていた。
――園田 茜は違う。
真面目で、よく失敗して、でも素直だった
ミスをすると、決まって高城がフォローに入る。
「大丈夫、最初は誰でもあるから」
その言葉を、茜は信じきった顔で受け取る。
部内では、二人はお似合いだと噂されていた。
真凜にとっては、どうでもいい話のはずだった。
――ただ、気に障った。
大口の契約を取ったのは真凜だった。
ライバル社を出し抜いて、条件を付けて、決め切った。
二年目にしては、快挙だと騒がれた。
ようやく騒ぎが収まったある日。
出荷直前で、受注数と発注数の不一致が発覚した。
不足分が埋まらない。
普段なら、即座に手を打つ。
でもその日は、椅子に座ったまま動けなかった…。
自分が取った契約なのに悔しかった。
パソコンの画面が滲んでいく。
「どうした?今井」
声をかけてきたのは、高城だった。
状況を聞き、眉を寄せ、すぐに選択肢を並べる高城。
先方への連絡、納期調整、代替提案。
一緒に電話をかけ、頭を下げてくれた。
高城先輩のお陰で、
なんとか納期は一週間延ばして頂けた。
電話を切ったあと、真凜は深く息を吐き胸を撫で下ろした。
ほんの十数分の出来事が何時間にも感じていた。
終わったあとの顔は、
自分でも驚くほど緩んでいたのを、あとで思い出す。
「……すみません。本っっ当に、助かりました。」
涙が出そうになって、慌てて目を伏せる。
高城は一瞬、言葉を失った。
そして、少しだけ視線を逸らして答えてくれた。
「いや。任せてくれてよかった」
――その声は、私にもちゃんと優しかった。
それからは高城の視線が、
時々こちらに来るようになった。
私が食事に誘ったのは、自然な流れだった。
感謝のつもりだと言えば、断られる理由はない。
仕事の話。研修の時の思い出話。
高城は私の話をずっと聞いてくれた。
「高城先輩だから、優しいんですね――」
その言葉に、彼は少しだけ眉をひそめて言う。
「違うよ、君を信頼してるだけだよ。」
彼の顔が熱を帯びている事は見て分かる。
その答えを聞いたとき、真凜は内心で頷いた。
――そう。だから来る。
仕事で弱みを見せると高城は来ると、分かっていた。
付き合うことになったのは、すぐだった。
部内の空気が変わり、噂は形を変えた。
茜は私たちから距離を取るようになった。
高城は、人を信頼できる優しい人だった。
そして、信じることが彼の弱さ。
——だから、あの数を一つずらした。
高城は思ったより早く懐いた。
二年目にしては、悪くない成果だった。
次は、もう少し大口がいいかな。




