それぞれのモテ事情【シュシュ】
「シュシュちゃんは可愛いからねえ」
クレイス様が振った話題に、何故かルルちゃんが自慢げに胸を張る。評価してくれるのは嬉しいけれど、本当に面白いことなど何もない。
作り声でズルをするのを辞めてから、それまで行動を共にしていたフォンス以外の男子は次第に私から離れていった。その中の一人、デリックはこの前のライブでユリーシア様のファンに転身したと聞く。
同担ならば再び仲良くなれるかも、と淡い期待は抱いたけれど、元はといえば私がきっかけで今の推しに酷い態度を取ってしまったようなもの。そんな私が、推しと仲良くしているのを見て良い気分になれるわけなどなく。フォンスやクレイス様がフォローしてくれているのだろうが、すれ違ってもあまり良い感情を向けられていないことには気付いていた。
「今はもうフォンスとしか喋らないよ」
「そうじゃなくて。小僧ども以外にもシュシュちゃんの魅力に気付く子なんてたくさん居るでしょ」
また、『小僧』と言っている。確かにあの頃の皆は少し幼いところがあったけれど、言葉を選ばずに口に出してしまうあたり、ルルちゃんも大概子どもっぽいところがある。ああ、でもクレイス様はこんなところも好きなんだろうな。愛おしそうに見つめている。
元から大して恋愛に興味が無かった私だけれど、親友カップルがこんなに幸せそうなところを見ると更にハードルが上がってしまう。果たして自分が恋愛などしたところで、目の前のこの二人のようにお互いを思いやることが出来るのかと。
「男爵家と子爵家の嫡男から交際を申し込まれたと聞いたが」
「なんでクレイス様が知ってるんですか」
「クレイスくんクレイスくん。そういうの、本人の許可なしに言ったら駄目なんですよ。私はシュシュちゃんが話してくれるのを待ってたんですからね」
別に隠していたわけでもないけれど、どちらも断ったので会話が拡がるような話題でもない。
「シュシュ嬢、気を悪くしたならすまない」
「えっ、いえ、そんな、頭を上げてくださいっ」
それよりも、いくら友人とはいえ男爵令嬢でしかない私に公爵家のご子息が頭を下げているこの状況のほうが問題だ。ルルちゃんに、どうにかして、と批難を込めた視線を送る。
「クレイスくんクレイスくん、ごめんね。大丈夫だったみたい。えっと……、好き!」
私とクレイス様に悪いことをしてしまったと思ったのだろう。フォローの仕方が下手すぎるが、クレイス様には効果絶大だ。
「謝罪をしている男が好きなのか?」
「違うっ。やめて毎日謝罪会見とかしないで! 何してても格好良いなあって思っただけですっ。ほら、でも頭を上げていた方がその格好良いお顔がよく見えるでしょっ」
「そうですよ。ほら、顔を上げた方がルルちゃんの可愛いお顔も見られますしっ」
「……ルルの顔が見られないのは困る」
そう言って頭は上げてくれたが、相変わらずクレイス様という人はよく分からない。一見気難しそうに見えて、ルルちゃんのことに関してはとんでもなくストレートなのだ。
「別に、告白されたのとか隠してないですよ。気になるなら聞いてもらって良いですし。……ただ、その人たちについてはお断りを入れました。もし恋愛をするならって考えた時に一番身近にある見本が、どうにも未来の自分の姿と重ならなくて」
この二人がちょっと特殊なのは分かっている。十年前に一目惚れして、それから接触も無かったのにずぅっとルルちゃん一筋で想い続けてきたクレイス様。そして、塞ぎ込んでいた幼いクレイス様にたった一曲で光を与えてしまったルルちゃん。この二人のような恋愛をしたいというのは高望みだし、何もそこまでを期待しているわけではない。
積極的に恋愛をしたいわけでもない。推し活の方が忙しい。公爵様から料理の依頼を頂いているので、このまま順調にいけばだけれど、結婚相手にガチガチの条件を求める必要も無いし。けれど、ウィゼル男爵家には子どもが私しか居ないので、いつかは相手を見つけなければならないだろうし、だからこそ、もし交際をするのなら好きあった相手が良いなとは思うようになってしまった。
「シュシュちゃん、クレイスくんはね。大変だよ、ツッコミ疲れるよっ」
「ルルも時折心配になるようなことをする。最近は頼ってくれるから良いんだが」
「いや、まるきりお二人と同じ恋愛がしたいわけじゃないです。お互い顔も好みど真ん中で性格の相性も良くて、なんてなかなか難しいのは分かってますし。ただ、どうせなら仲良く過ごせる相手が良いっていうのはあって……、好意は有難いですけれどよく知らない方とお付き合いできる気もしなくて」
「……コゴイでは駄目なのか」
フォンスのことは嫌いではない。私のことを好きで居てくれるし、私も彼のことは掛け替えの無い友人だと認識している。
ライブが終わった今でこそ平穏に過ごせているが、相手の好意を増幅させる力を使わなくなり、地声で話しはじめた当時は居た堪れなかった。自業自得だったのだけれど。
作り声を出さなくなった最初の頃は、この野太い声を出す私を敬遠する人も少なからず居た。声のことだけじゃなく、それまで男子を侍らすように行動していた私を見て遠巻きにする人たちも居た。
それでもクラスの女子の何人かは気にせず接してくれたのでなんとか過ごすことが出来たけれど。
そんなことを思い返して、この声も受け入れて好きだと伝えてくれるフォンスの存在はとても有難く感じている。気も合うのだと思う。どうせなら恋愛結婚が良いという私の個人的な願望を差し引けば、伯爵家という立派な家柄の彼は、素晴らしい相手だ。
それでも、やっぱり、フォンスを交際相手として考えることは出来ない。
「フォンスはオタ活仲間ですから。それに、フォンスと居るからこそ思うことがあって」
「あっ、そっか」
クレイス様は首を傾げているけれど、ルルちゃんは得心を得たというように頷いている。
「そうだよね、分かるよ、うんうん」
「そうでしょ? だって、だって」
「なんの話だ」
この気持ちは、クレイス様にはきっと分からないだろう。だって。
「あんなユリーシア様を見てしまったら、他の男の子になんてときめけないんです!」
「ねー!!」
読んでくださってありがとうございます!
本筋は完結していますが、その中で書ききれなかった部分の補完も兼ねていたりします。
新作の投稿も始めたのですが、こちらの方が書くペースが早くてどうしましょう。
次回はクレイスの予定です!




