それぞれのモテ事情【ルルシア】
「ルルシア様、好きです!」
ライブから数日後、私は非常にモテていた。クレイスくんのあの態度からして、気持ちを伝えに来てくれる人たちの殆どは私に恋人がいるということは知っていると思うのだけれど。他者から好意を向けていただけるというのはとてもありがたいし、勿論嬉しい。だって、告白というのはとても勇気のいるもの。
だけど、折角伝えてくれた気持ちには応えられないので、嬉しさよりも申し訳なさの方が勝ってしまうのだ。
あと、なんというか。
「や、やっぱりだめですよね。ルルシア様にはクレイス様がいらっしゃるし。あのっ、後悔しないように気持ちを伝えたかっただけなんです。それに……、女の子同士ですしっ」
そう。女の子から告白されるようになってしまったのだ。
「そりゃあまあ、あのライブ見たらねー。格好良かったよ。あっ、もちろん私の最推しはユリーシア様だけどね!」
「嬉しいけど、申し訳なさで胃がキリキリするんだよ……」
中庭すみっこの隠れ家で、シュシュちゃんの作ってくれたお弁当をつつきながら会話をする。褒めてくれるのは嬉しいんだけど、私は結構真面目に悩んでいるのに、あまり深刻さが伝わっていないようである。
恋愛相手として応えられないのは勿論、もうステージに上がるつもりもないのでアイドルとして彼女たちの期待に沿うことも出来ない。
「良いんじゃない。もうアイドルしないっていうのはあの時に宣言してるんだし、恋愛対象としてだってクレイス様との仲に入り込めるなんて皆思ってないよ。記念告白みたいなもんでしょ。っていうか、男の子からは告白されないの? 今までクレイス様以外にされたこともないの? 家柄も良くて可愛いんだからいっぱいあるよね?」
「直接はないけど、婚約しませんかってお話がお父様を通して来たことはあったよ。それを思い出して更にキリキリするんだよ……」
いっぱい、かはわからない。侯爵家三女の可憐なルルシア嬢。そう評してくれる人は結構居る。居る……、けど、なにせ一部界隈からは妖怪令嬢扱いされてきたのがこの私だ。
それでも、学園入学前まで交際のお申込みは時折あった。後から知ったのだが、その内何件かは私の元ファン。所謂ガチ恋勢からのお話だったらしい。誇らしいことだが彼らは民度が良いので、自分を認知していない私に近付くよりは家を通した方が良いだろう、と、お父様への打診という形で交際を申し込んでくれていた。
その頃の私は、恋愛についてのいろはなんて何も知らなくて。そういった話だって精々政略絡みだと思い込んで、『まだ婚約なんて考えられないから断っておいてください』と、随分な対応をしたものだ。
誰かに好意を向けてもらえるというのが、どんなに尊いことかも知らないで。
気持ちを伝えるということが、どんなに勇気の要ることか知ろうともしないで。
「あー、貴族社会って言ったらほぼ交際イコール婚約だしね。女の子たちは家と家の話になんか出来ないから、直接気持ちを伝えに来るわけだ」
「人を振るってこんなキツイんだね。申し訳ないのと、もし自分がクレイスくんに振られたらって重ね合わせて悲しくなる時もあるし」
「変に期待を持たせるよりは良いよ。きちんと対応したなら、ちゃんと次の恋に進めるはず。それに、クレイス様がルルちゃんを振るなんてことは天地がひっくり返っても無いから」
親友が優しい。私の嫌いなごぼうを口に突っ込んでこようとするけれど、優しい。このごぼうはエール邸から仕入れたものだろうか。最近はエール公爵家とウィゼル男爵家で直接仕入れ等のやり取りをしているらしいし。シュシュちゃんはお料理上手で、嫌いなごぼうも前世の朧げな記憶よりは大分食べやすい味付けに感じるけれど、それでも苦手なものは苦手だ。折角作ってくれたのに申し訳ないけれど、こっそり息を止めて嗅覚と味覚の遮断を試みる。うう、でも繊維質でなかなか飲み込める程度にまで噛み砕けない。時間をかけて、どうにかこうにか飲み込んだ。
「よし。偉いね、嫌いなものも食べられて」
「美味しく食べられなくてごめんね……」
作ってもらえるだけでとても有難いのに。
「良いよ。私も好き嫌いくらいあるし。でも、苦手なことや嫌なことから逃げないルルちゃんは偉いと思うよ」
やっぱり優しい。未だ胃は痛むけれど、シュシュちゃんの言葉で大分気持ちは軽くなった。
彼等の気持ちに応えられないというのはどうしたって変わらないので、せめて真摯に向き合ってお返事をするだけだ。
「……そういえばさ。私がこんなに声を掛けてもらってるってことは、ユリーシア様やクレイスくんはもっともっと告白とかされてるはずだよね。どんな感じなんだろう」
あの日、ライブのアシストをするために舞台に上がった私とは違い、ユリーシア様は主役だった。それはもう素敵な王子様姿と可憐な女の子の姿を魅せてくれて、女子も男子も釘付けにしていた。クレイスくんにしたって、そのユリーシア様の身内だけあってずば抜けて整った容姿だ。性格だって優しいし、一見クールに見えるのも女の子には堪らないだろう。……彼の実態をクールと評して良いのかは正直よく分からないが。
「似たようなものだ」
「わっ、クレイスくん」
どこから現れたのか知らないが、少し疲れた様子で、当然のように私の隣に腰を降ろす。
貴族子息子女が三人。ランチのために地べたに直接座り込むなんて、ユリーシア様に初めて見られた際にはお説教をされたものだ。せめて女子はハンカチを敷いて座りなさい、と言われたので最近はそうしているけれど。
「シュシュ嬢、俺も頂いて良いだろうか」
「あ、どうぞ。たくさんありますし」
フォークを渡されたクレイスくんが、ごぼうばかり選んで口に入れていく。重箱のような大きい容器とはいえ、ひとつのお弁当をつつき合うのはあまり良くは無いのだが、みんな時と場所は弁えている。
というか。
「クレイスくん、フォンスくんとご飯食べてきたんじゃないの? っていうか、ごぼうばっかり食べるのわざとだよねっ」
クレイスくんは私がごぼうを苦手だと知っている。甘やかしてくれるのは嬉しいけれど、こういうやり方を続けていたらいずれ私が駄目人間になってしまうし、作ってくれたシュシュちゃんにも失礼だ。
「シュシュ嬢の料理は美味しいし、ごぼうも好きだ」
「えっ、ありがとうございます。ルルちゃん、私は美味しく食べてもらえるならそれが何よりだよ。……クレイス様、ごぼうは昔から好きだったんですか?」
「元から好き嫌いは無い……というか、無くしたんだが、ルルが苦手なものを代わりに食べてやれると思うとより味わい深く感じるようになった」
「クレイスくんっ。好物になる理由がおかしいですって」
好きで食べているなら良いんだろうか。でも、ごぼうが好物になった動機が変というか、私を甘やかすためなのは変わらない。好き嫌いを無くした、という言い方も、昔は絶対に嫌いなものがあったはずだ。でも、きっとこの時のために克服したのだろう。
好きな人にここまでされて嬉しくないわけがないのだが、どうにも複雑な気持ちだ。助けて、とシュシュちゃんに視線を送るが逸らされてしまう。
「ルルちゃん、偏食ってわけじゃないんだし。ひとつやふたつ嫌いな食べ物があっても良いんじゃない? 無理矢理食べさせておいてなんだけど」
「でも、こんなに甘やかされたら自堕落まっしぐらだよ〜。駄目人間になっちゃう」
「ルルは……、自堕落とは無縁だろう。目的のためなら周りの制止も聞かず突き進んでいくし」
「クレイスくんクレイスくん。さては、以前私がパパーズと交わしてしまった政略結婚の約束、まだ根に持っていますね?」
普段は優しいし私にとことん甘いのに、あの件については未だに掘り起こされてちょっぴり怒られる。私が向こう見ずだったせいで余計な心配を掛けてしまったから、仕方ないんだけれど。
「あれについては私もまだ怒ってるよっ。私には言えなくても、せめてユリーシア様やクレイス様に相談してくれていたら話は早かったのにっ」
玉子焼きを頬張りながら、ぷんすかとシュシュちゃんも怒った様子を見せる。ライブを控えたあのタイミングでユリーシア様に伝えるなんて選択肢はなかったし、クレイスくんに言わなかったのも相談するほど深刻には感じていなかったからだ。直後にクレイスくんを好きになってしまって、約束の内容を後悔することにはなるんだけど。
「う……ごめんってば。許してよ。あっ、そうだっ。やっぱりクレイスくんってばモテるんですね。いや、知ってましたけどっ。私ってクレイスくんの相手として認められてるんです? そりゃあ私は可愛いですけど、自分の方がつり合うはず! みたいな子だっているでしょう?」
「居るが、俺がいつからルルを好きか、どう想っていたかを語ると姿を消していることも少なくない」
「………………お部屋の現状とか説明してないよね?」
あの、ルルシア・グラシューを祀った祭壇を擁する自室。そんなものがあると知られたら、どん引きされて逃げられたっておかしくない。下手すれば私は妖怪令嬢の名を改めることにもなるかもしれない。
「した。最近はぬいぐるみを増やした」
「なんでぬいまで増やしてるのっ」
どうやって作ったんだ。グッズ制作の技術力がどこからきているのか、前々から知りたかったのだが聞くのが怖いという気持ちもある。
「教祖令嬢かー。ルルちゃんも来るとこまで来たねぇ」
「やめてやめてっ」
妖怪令嬢ならまだしも、教祖令嬢なんて。カルト的な響きを感じてとても抵抗がある。
「まあ、俺にはルルしか居ないときちんと伝えているから。……嫉妬からこの話題になった訳でもなさそうなのが残念だが。それよりも、シュシュ嬢は大丈夫か? コゴイが心配していた」
そういえば、最近のシュシュちゃんは学園でもよく私と過ごしてくれるけれど。フォンスくん以外の小僧どもとはどうなっているのだろう。それに、作り声で相手の好感度を増幅出来るという例の力がなくたって、シュシュちゃんは可愛い。ライブで配ってくれたお菓子たちも、彼女が作ってくれたものだと有名になっている。
可愛く優しい料理上手な女の子。その魅力に気付いて、好きだと伝えに来る子たちが居てもおかしくはない。
「私の話かー……。大して面白いことはないですよ」
読んでくださってありがとうございます!
さあ書くぞっ! と別作品の執筆を始めたのですが、あの、……シリアスでですね。もちろん楽しいんです、書くの。でも時間が掛かるし難しいっ……! でも書きたい、いっぱい書きたい! というわけで。息抜きにこちらの執筆を始めたら5倍速くらいで書き終わってました。完結してまだ時間も経っていないのに投稿してしまって良いのかなーとは思ったのですが、折角書いたので読んでもらいたいという欲が勝ってしまいました。
こちらの番外編については、この後シュシュ、クレイス、ユリーシアを予定しております。一応不定期ですが、多分週一か隔週くらいでいろいろと発散したくなるような気はしています。
ついでにながながサブタイトルを直すかどうか悩み中だったりします。妖怪令嬢は入れたいです。だって妖怪令嬢ですから。
別作品の方もある程度形になったら投稿する予定ですので、合わせて宜しくお願いいたします。




