『アイドル』が好き
小僧とリリィさんだけれども。
どうにか間に合わせた点呼の後。裏門前にいつもの四人で集まると、彼等もそこで待ってくれていた。
小僧──、いや、フォンスくんは、再度私とユリーシア様に頭を下げてくれ、この先ライブを開催する時にはいつでも手伝いに駆けつけてくれるし、お友達に宣伝もしてくれるということになった。シュシュちゃんの魅了の話も信じてくれたらしい。今までの盲信するような素振りはなく、酷くさっぱりした様子だ。けれど、それでもシュシュちゃんが好きだと。シュシュちゃんにその気がないので、これからは同担のお友達として過ごしていくだろう。
数時間前まではあんなにいがみ合っていたけれど、同じものを愛する者同士、私だって彼のことは仲間だと思える。もちろん、リリィさんも。
そのリリィさんについてだが、表面上は学園での小競り合いだけしか無かったフォンスくんと違い、侯爵家の人間からの依頼を無断で破棄してしまっている。下手したら契約不履行として罪に問われたりだとか、借金を背負わされたりだとか。そんな可能性があった。フォンスくんが自分が唆したから、と名乗り出ようとしてくれたけれど、自分が決意して行動したのだからとリリィさんがそれを止めた。
そんな二人を見て。
「ルル。こういう時はね。抱き着いてお願いするのよ。貴女に甘えられたら弱いんだから」
そう提案するユリーシア様に、みんなの前で? とは思ったけれど、何事も勢い。その胸に飛び込んで、顔を上げる。
「ルル」
「クレイスくんクレイスくん。フォンスくんとリリィさんが皆から怒られないようにしてくれますか? だめ?」
「おい、俺は自分のしたことの責任は自分で、」
「お嬢様。わたしも、そんな……」
止める二人を尻目に、クレイスくんが私の頭を撫でてくれる。
「ルルの望みならなんでも叶えてやる。侯爵夫人には俺から口添えしよう。それより、俺を選んでくれて嬉しかった」
はて、選んで……とは。ユリーシア様へ視線を送ると、悪戯っぽく微笑んでいる。
「残念。わたくしもルルに甘えられてみたかったのだけれど」
多分、誰にお願いすべきか口にしなかったのはわざとだ。未だ怒りの収まらないお母様への口添えをしてもらうのなら、クレイスくんと同じ公爵家のユリーシア様だって良かったのだから。
「選んでほしかったのよ、ルルに。ごめんなさいね、意地悪をして」
謝罪を述べるユリーシア様を責めることは出来ない。クレイスくんは、得をしたとでも言わんばかりにご機嫌だ。というか、しまった。がっちり抱き締め返されて抜け出せない。
「ね、でも、やっぱり一番悪かったのは私だよ。ズルして心を操って……それで、皆に迷惑を掛けた。もう私がこの力を悪用出来ないように、公表して偉い人たちに監視してもらった方が良いんじゃないかな」
妖怪拘束人間から抜け出そうともがく私を横目に、しょんぼりとした様子でシュシュちゃんが口を開く。恐らく、ずっと気にしていたことなのだろう。
「この先その力を使う意思などないんだし、そんなことはしなくて良いんじゃないか」
「そうよ。こう言ってしまってはなんだけれど……、そんなに強力な力ではないんだし、無駄にシュシュさんの行動を制限されてしまうだけなら、黙っていた方が良いわ。効かない人には効かない、って此処にちょうど良い証明もあるじゃない」
「ねえシュシュちゃん。クレイスくんはね、私のお願いはなんでも聞いてくれるって言うのにこういう時に離してって言っても拒否するの。なんとかしてっ」
「え、えー……? えっと……、ンっ、んんっ……、ングォッホン!! クレイスさま、ルルちゃんの嫌がること、しちゃ駄目です!!」
響き渡る低い声。ちょっぴり怯えたクレイスくんが、私から腕を離す。
「ありがと、シュシュちゃん。ね、相手の好感度をちょっと上げるだけの能力なんてさ、男ウケするファッションだとかそういうのと変わんないじゃん。そんなの、わざわざ公表することでもなくない?」
前世の雑誌やネットで時折見掛けた触れ込み。ユリーシア様とクレイスくんはなんとなく察した様子で、フォンスくんとリリィさんは頭に疑問符を浮かべている。
「まあ……、公爵令嬢たちの言う通りじゃないか。俺は、それが地声だと知った今でもシュシュと居たいし」
「わたしも、その能力の有る無しに拘らず身の程知らずであったと自覚していますから。この件を誰かの耳に入れるつもりはありません」
シュシュちゃん以外の全員の意見が一致している。おまけに、この後は駄目押しが待っているだろう。私は知っているのだ。
「ねえ、シュシュさん。わたくしにとっては貴女も親友よ。お偉方の監視下に置かれるだとかそんな境遇にあってほしくないわ。貴女には、わたくしの隣で笑っていてほしいの」
「はいわかりましたもうこの力は使いませんし隠します」
久しぶりの一息読み上げ芸だ。まあ、推しにそんなことを言われてしまったら同意するしかないよね。
「コゴイにリリィ氏も。俺は、きみたちが何を思おうがルルの望みを叶えるだけだ。ルルは、誰かが辛い目に合うのを望むような人間ではないから」
自慢げなクレイスくんだけれど、私はそんな大層な人間ではない。誰かが傷つくことを望まない理由は、思いやりというよりも世界が楽しくあれとう自分勝手な願いからだ。
「グラシュー侯爵令嬢、すまなかった。ありがとう」
「私は私がしたいようにしてるだけなんだから謝らないでよ。あと、令嬢呼びしたくなければルルちゃんでもいいよ。お友達だからね」
「いつ友人になったんだ……」
いつだったか、シュシュちゃんにも言われたな。この台詞。そして、フォンスくんの視線はクレイスくんに向けられて。
「分かった。ルル……さん。でも礼は言わせてくれ。ありがとう」
「わたしからも。お嬢様、エール公子様。心より感謝を申し上げます」
そうして、二人とも深々と頭を下げて。何度も振り返ってはお辞儀をしながら、帰っていった。
「さて。多分、打ち上げの話はしてないわよね。クレイスはルルに構ってもらうのに夢中だったようだし。ルルもシュシュさんも、明日の振替休日は空いていて? 我が家にいらっしゃい。慰労も兼ねておもてなしするわ」
構って、というか。泣きじゃくってその胸にかくまってもらったのは私なのだが、言い出しにくい。クレイスくんもそれを伝える必要はないというばかりにユリーシア様の言葉を否定しないし。甘えておけ、ということだろう。
「え、ライブはもう終わったのに……、私までお邪魔して良いんですか?」
ライブの疲れを吹き飛ばすかのように伸びをするユリーシア様に、シュシュちゃんが尋ねる。
先程ユリーシア様に親友だと伝えられていたはずなのに。これまでの負い目から、私達の関係はここで終わりになると思われていたのだろうか。だとしたら、悲しい。
「ええ、もちろん。シュシュさんだってたくさん協力してくれたじゃない。むしろ来ないつもりだったの?」
「友人だろう。明日だけでなく、何時でも。用がなくても来れば良い」
「そうだよ。こう言ってくれてるんだから。一人じゃお邪魔しにくいなら私と一緒に遊びに行けば良いよ。私は大好きな皆とこれからも過ごしたいし」
「……みんな。ありがとう」
低い声が更に掠れて、鼻を啜る音が聞こえる。今度は、クレイスくんが身を隠そうとする様子もない。
大好きなクレイスくん。
美しくて優しいユリーシア様。
気兼ねなく何でもお話出来るシュシュちゃん。
大切な三人を見回して、私の人生を振り返る。こんなに大切で大きな存在を得たきっかけはなんだっただろうか。
この世に生まれてからの十六年。それから、遠い遠い、私でない私のぼんやりとした記憶。
いつだって、あの子たちが原動力だった。焦がれたからこそ得ることが出来た。何度だって、心の底から伝えよう。私は──。
『アイドル』が、大好きだ!!
読んでくださってありがとうございました!
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なんてお願いをしてしまいましたが、この作品を最期まで読んでくださったことが何よりの幸せです。
前話で終わろうか悩んだのですが、もう少し綺麗に畳めるんじゃないかとこのお話を足しました。それでももう少し掘り下げた方が良いんじゃないかという部分があったりとか、単純にこのお話を書くのが楽しかったのでいつか番外編や二章を書くこともあるかもしれません。
けれど私の力量では全てを気にしていたら到底完結できないので、一旦ここで終わりにさせていただきました。
12月22日から書き溜めを始めて、途中はもうライブ投稿でしたがすごく楽しく執筆できました。
これからの季節は多忙になるので、次回作はゆっくり投稿になりますがもし御縁があればまた読んでいただけたら嬉しいです。
本当にありがとうございました。皆様の世界が、素敵なもので溢れた楽しく優しいものでありますように。




