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妖怪令嬢の本分


「ルルはいつだって可愛いが」


「それでもだめっ」


 溢れる涙が少しだけ落ち着いてきたので、その背中に腕を回す。ブレザーが濡れてしまうかもしれないけれど、甘えて良いと言ったのはクレイスくんだ。……ううん。制服が汚れたって、クレイスくんはきっと気にしない。弱い私も受け止めてくれる。


「好き。ありがと……。十年前に見つけてくれたのも、あの日の廊下で声を掛けてくれたのも。これからも一緒に居てね、私……、きみが居ないとだめだ」


「ずっとルルの隣に居ると、誓う。今日の登校前、グラシュー侯爵に挨拶をしてきた。早朝に無礼かとは思ったが……、昨日の件もあったから」


「えっ、」


 驚きのあまり、涙が引っ込む。そういえば、学園へ出発する前の我が家はやけに慌ただしかった。お父様に話があると呼び出されたけれど、ライブ当日でそれどころではなかったから、帰ってきてからにしてください、と言い放って出てきてしまったけれど。

 あれは、まさかクレイスくんが帰った後だったから?


「喜んで認めてくれたぞ。そもそも、政略結婚の話も、失敗した時のための我が家への義理立てもあっただろうが……、結婚相手をあてがえば少しはお前も落ち着くんじゃないかという目論見の方が大きかったそうだ」


「えええ……」


 多少のお転婆は許容してもらえていると思っていたのに。いや、その目論見もまったく気付いていなかったわけではないけれど、何もそこまで。一応授業は真面目に受けているし、来客があった時なんかにはそれなりに淑女の皮も被っていたはずなのに。


「俺ならお前の行動に制限は掛けない。エール公爵家に嫁いでもらうことにはなるが……良いだろうか」


「嫌なんて言うはずが……公爵家はクレイスくんが継ぐんです?」


 以前は後継者が決まっていないと言っていたのに。


「この手応えなら充分に、アイドル事業の展開もしていけるだろう。活動に専念するから家は任せた、とユリーシアに言われてしまった。落ち着いたころに、嫁ぐか俺の実父の持っていた侯爵位を継ぐそうだ。今は母上が公爵夫人と侯爵代理を兼任しているから」


 ああ、そうか。当然クレイスくんの実のご両親だって爵位持ちのはずだよね。納得していると、クレイスくんが不安そうに私の顔を覗き込んだ。……泣き腫らしたあとの顔、あんまり見られたくないのにな。


「ユリーシアが、もし嫁いでいってしまった場合……ルルが公爵家と侯爵家の跡取りを産まなければいけない。出産は酷く痛くて辛いものだと聞く。大丈夫か?」


「……随分先の話をしますね」


「代わってやりたいが、これも叶えられることの範疇ではないからな」


 不安そうなお顔の理由はこれか。私が嫌だと言えば何か策を考えてくれる気なのだろう。ずっとずっと先の話だろうけれど、クレイスくんはいつも先回りして私の不安を取り除こうとしてくれる。やっぱり優しいな。


「大丈夫です。一回死んでますからね、それを思えば出産なんて生産性のある痛みじゃないですか」


「……絶妙に笑えないことを言うな。だが、前回の人生があってこそ、俺たちは出会えたんだったな」


 一度死んで、この世界に生まれ育って。六歳の時に『アイドル』という存在を思い出して、猛烈に欲した。

 一度は黒歴史として封じたあの日のステージも、今では運命の分岐点。


「『アイドル』を語るお前が好きだ。以前、頬にキスをした際……、人生で三番目に幸せだ、なんて言ったが、訂正する。ルルと居るだけで、人生で最高に楽しくて幸せな時間が更新されていくんだ」


「……っ、また泣きますよ、もうっ。でも、……でも、約束します。これからも、目一杯の楽しくて幸せな時間をお届けするって」


 大好きなものを通じて、大好きな人たちと出会えた。この幸せは、前世の推したちと、クレイスくんが居てくれたからこそ。


「今日はまだ、学園の関係者だけにしか伝えられなかったけれど。いつの日か、『アイドル』をこの世界中に知らしめます。これからも、付き合ってもらいますよ」


「無論だ。それについては、お前の望みだからというだけではない。こんなに素晴らしいものを知らないのなら、それはこの社会の、世界の損失だろう」


 クレイスくんは、いつだって私の背中を押してくれる。


「……よし。やりますよっ。不可思議な現象を見せるっていうのは妖怪の本分ですからね。妖怪令嬢の意地、見せてやりましょう」


「俺が言うのもなんだが、妖怪呼ばわりされること、吹っ切れすぎじゃないか」


 妖怪呼ばわりされなければ、此処まで来られなかったからね。

 視線を合わせて、笑いが堪えきれなくなって。どちらからともなく、吹き出した。


 私の幸せも、毎秒更新されていっている。


 これからも、きっと。


 あと一話で終わりです。本当に本当にありがとうございましたっ。


 いろいろ反省点があるので次回に活かしたいですが、読んでくださった方が居てとても嬉しかったです。楽しく執筆していました。


 読んでくださった皆様に、少しでも『楽しい』をお届けできていれば幸いです。

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