ほんの少しの寂しさを
「行くぞ」
そう言って、クレイスくんに腕を引かれる。先程までは怯えていたのに、いつの間にか復活したようだ。
「わたくしも行くわ」
シュシュちゃんたちの話し合いに、私たちは不要だろうから。そうして講堂を後にして、校舎裏まで連れてこられた。下校の点呼まではあと少しだけ、時間がある。
「二人とも頑張ったな」
「お兄様面しないで頂戴。貴方は弟なんだからね」
クレイスくんに厳しいユリーシア様がそっぽを向く。
「楽しかったです。すごく! 終わっちゃったの、寂しいけど。素敵でした、ユリーシア様。楽しくて……幸せな時間をありがとうございます」
「こちらこそありがとう。楽しかったわ。……ふふ。一番大事な女の子に、寂しいなんて言葉を口にさせてしまうだなんて。わたくしもまだまだだわ。ねえ、でも、これからも共に歩んでいけるのだから。そんな風に残念がらないで。未来を見ていきましょう」
「は、い……」
王子様ムーブの余韻なのか、それとも素なのか。甘い言葉を紡ぐユリーシア様は艶っぽくって格好良い。
「ユリーシア。ルルをたぶらかすな。ユリーシアがライバルになんてなったら洒落にならない」
「ふふ。もしわたくしが男性だったならばルルは恋愛対象として見てくれたかしら?」
それは、どうだろう。王子様モードのユリーシア様は格好良いし、ドキドキする。一生推したい。でも、私の救い手は、ずっとずっとクレイスくんだ。
「クレイスくんじゃなければ、私は恋なんて知らないままだったと思います」
「あら、振られちゃったわ。残念」
「…………」
ユリーシア様は楽しげに微笑んで、クレイスくんは難しい顔をしている。私はちょっぴり恥ずかしくて、二人と視線が合わせられない。
「ユリーシア。ルルに大事な話がある。悪いが、退席してくれないか」
「分かっているわ。……はあ、もう。あからさまに邪魔者扱いしないでちょうだい。打ち上げの話だけはしっかりと伝えておくのよ」
そう言って、ユリーシア様は校舎の中へと消えていった。
「……話、とは」
恋人同士の会話で、大事な話があるで始まるパターン。大きく分けて二種類だよね。別れ話か、プロポーズか。別れ話、ではないと思いたい。だって、大事にしてもらっている。けれど、プロポーズでもないような気がする。私の家族に挨拶していないのを気にしていたし。
「ルル」
「はい」
悪い話なんだろうか。良い話? それとも、クレイスくんのことだから、何でもない話を大袈裟に表現しているだけ? 次第に不安になっていると、腕を掴まれて強く抱き寄せられた。柑橘の混じった、良い匂いがする。別れ話じゃなさそうで一安心、なんてぼんやり考える。
「好きだ」
「はい。知っています」
大事な話って、それ? 何度も伝えてもらっていることだ。もちろん、とっても嬉しいけれど。
「……いや。十年前のあの日のお前を好きになったと、伝えた。それはずっと変わらない。だが、今のお前も、俺の依頼を受けてくれて、俺の姉を助けてくれて、友人と楽しそうに笑うルルが、大好きだ。愛している」
そう言って、舞台前に着けてくれた髪留めにキスを落としてくれる。
「っ、あの! 私、こういうの初めてで、どうして良いか分からないって知ってるのに。なんで恥ずかしいことするかなあっ……」
「お前がずっと、泣きそうだったから」
「……!」
私は先程、ファンの子たちに別れを告げた。もうステージには立たないと。アイドルをしていた私は忘れて良いんだと。
だって、そこは私自身の目的地じゃない。だから、『アイドルのルルシア』を手放したことに後悔はない。けれど、応援してくれていた子たちの期待に応えられなかったことが悲しくて、申し訳なくて。彼らが離れていってしまうことが、なんでかちょっぴり寂しいのだ。
なんて我儘なんだろう。
「泣いていい。黒か白かだけで割り切ることの出来る気持ちばかりじゃないだろう。俺の前では、どんなルルだって見せていいんだ。泣き止むまでこうしているから」
「……っ、下校の点呼、間に合わなかったらクレイスくんのせいだよっ」
ちょっぴり不良な子なんかは勝手に帰ったりもするから、下校の点呼はそんなに重要ではないけれど。
ああ、駄目だ。涙が滲んで、雫になる。クレイスくんの腕の中で身じろぎして、頬を伝う粒を必死に袖で拭った。
「もし、顔を見ても良いのなら。俺が涙を拭いてやりたい」
「駄目。今の私、可愛くないもん」
以前も泣き顔は見られているけれど。だからこそ、この先は可愛いところだけ見てもらいたい。
今まで投稿した部分であまりにもおかしなところを直したりしていたら昨日は更新が間に合いませんでした。誤字などを直したのですが、内容は変わってないです。読み返してみて、本当に未熟な部分がたくさんあってお恥ずかしい。それでも読んでくださった方には心からの感謝を。
今日中には完結の予定です!




