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ライブ本番・二曲目


 二曲目が始まる。


 明るくて可愛い、これからの希望へ満ちた曲。


 不安になる時もあるかもしれないけれど、楽しいこともたくさんあるから。一緒に楽しいや嬉しいを探しに行こう、って連れ出してくれるような曲。


 跳ねるようにステージを駆け回りながら、ユリーシア様が踊っている。たまにお手振りなんかも交えながら。


「可愛いね」


「うん。可愛い」


 学園の講堂だから、前世のようなスポットライトはないけれど。それでも、ユリーシア様の存在が強調されて見える。


「シュシュ! 此処に居たのか。なんだアレは」


 一曲目ではずっと後方に居たはずの小僧が、私たち……、いや。シュシュちゃんに気付いて駆け寄ってきた。何故か声量も控えめで、心無しかいつもより毒気がないように感じる。


「フォンス。まずは最後まで見て。それからお話しよう」


 静かに、のポーズで人差し指を立てたシュシュちゃんに、小僧が頷く。

 驚いたような、悔しいような。それでも目が離せないといった様子で、かじりつくようにステージを見ている。


「こんなものは、見たことがない」


 ぽつりと呟くその言葉を聞き逃しはしなかった。ほんのり赤く染まった顔で、リズムに乗るように身体をゆらゆらと揺らしている。

 やがて、曲が終わって。

 ユリーシア様の凛とした声が響く。


「ありがとうございました! わたくし……こんな顔つきだから、近づき難いと遠巻きにされてしまったり、睨んでいると勘違いされてしまったり。そんな時もあったけれど、こんな風に、歌って、踊って、皆さまに元気をお届けする、『アイドル』という存在を知って、以前よりも少しだけ、自分を上手く表現出来るようになった気がするの。皆さまも、きっと、悩んだり、悲しくなったりする時があると思うわ。そんな時に、あなたの心を癒やして元気付ける存在でありたい。──『アイドル』として!」


 高らかに宣言して、講堂を一周見回すユリーシア様。普段は淑女らしく淑やかに微笑むばかりなのに、今日この時は、見たこともないような、弾けるような笑顔だ。


 ぱちぱち、と、手を叩く音が響く。ただ一人から始まったそれだけど、やがて講堂中が拍手で埋め尽くされた。

 意外にも、一番最初に拍手を贈ってくれたその一人は小僧だった。

 ユリーシア様が舞台から下がる。目立たないように、クレイスくんもそっと。


「あっ! 芋けんぴ、配らなきゃっ。フォンスにもいっこあげる! ルルちゃんと喧嘩しないでねっ」


 そう言うなり、芋けんぴが包まれた紙を小僧にひとつ押し付けて、シュシュちゃんは人混みの中に消えていった。私も配る、と伝えようと思ったけれど、先程のステージに立った時の疲労で反応が遅れてしまった。二曲続けてこなしてみせたユリーシア様はすごい。


「お前、……グラシュー侯爵令、嬢、……ぐっ、令嬢って呼びたくねえな……。あれ、なんなんだ。なんか、すごかったけど」


 相変わらず失礼な小僧だけれど、やはりいつもより悪意がないように感じる。それに、恐らくだが。令嬢呼びしたくないと思わせてしまう原因は私にあるような気がするので、ここは流してあげても良いと感じた。


「先程ユリーシア様が仰ったでしょう。『アイドル』というものです。私が何よりも愛したもの。どうでしたか? また観たいって、思ってくれたんじゃないですか?」


「…………、思って、しまった。またがあるなら、呼んでほしい」


 随分と素直に気持ちを口にする小僧だけれども、それでもその表情はどこか悔しそうだった。

 シュシュちゃんがお菓子を配り終えて戻ってくる。ライブ終わりの配布は足止めの必要が無い分早く終わったらしい。その隣にはリリィさんを連れていた。


「ルルちゃん、リリィさんも来てくれてたよっ!」


「あなた、何処に連れて……フォンス様」


「リリィ」


 シュシュちゃんは一度しか会ったことがないはずのリリィさんの腕を遠慮もなくぐいぐいと引っ張っている。小僧と顔を合わせてしまって、気まずい空気が流れるだろうかと思ったけれど、二人とも、お互いのことよりも空になったステージに意識が向いているようだった。

 ライブは終わったというのに、他の観客の何人かもこの場所から去ることはせず、同じようにステージを見つめて呆けている。




 いつもありがとうございます!


 あと数話で終わります。完結させられるという達成感よりも寂しさが勝っています。

 けれど、どんな物語にも終わりはあるもの。読んでくださった皆様と、私に楽しい時間をくれたルルシアたちに感謝を込めて。


 あと少しだけ、お付き合いくださいませ。

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