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73/80

ライブ本番・一曲目


 予定を変更して、曲の順番を逆にした。

 だから、一曲目は前世の私が一番大好きだったあの子の曲。ステージに立つと決めたのは数日前だったけれど、最推しだった彼女の曲だからこそ、少ない日数で最低限まで仕上げることが出来た。

 遠い記憶の彼女たちは、今でも私を助けてくれる。

 

 ありがとう。だいすきだよ。


 そんな想いを込めて。ユリーシア様と背中合わせで歌詞を紡ぐ。クレイスくんの伴奏もばっちりだ。舞台の上で一回転すると、開け放しの講堂の扉に凭れ掛かる小僧の姿が見えた。つまらなそうに腕を組んでこちらを見ている。

 リリィさんとは、お互いの存在に気付いていないようだった。


 もしかしたら、この一曲目では小僧の心は掴めないかもしれない。けれど、大丈夫。最初のターゲットは女の子たちだから。──リリィさんを含めた、ね。


 隣でいつもよりやや低い声で歌い上げるユリーシア様がサビに入る。その間、私はちょっぴり控えめな声量で後ろでゆるりと踊る。

 大丈夫だと、いつでも助けに行くと語りかけるような歌詞。

 誰かのたった一人の王子様にはなれないけれど、それでもこの先ずっとずっと励まして応援してあげられる。それが、『アイドル』だから。きっとユリーシア様はそんな想いで客席を観ている。片目を瞑って、ウインクをして。時折指で狙い撃ちもしている。視線の合った先の女の子の何人かは顔を真っ赤にして口元を抑えていた。……狙い通り、その中にはリリィさんもいる。


 ああ、やっぱりアイドルって凄い。こんなに遠くに居るのに、興奮した様子の女の子たちが、リリィさんが、何を思っているのか分かってしまう。


 曲が終わって、私の方に視線を送ってくれている子が居るのにも気付いた。もともとの私のファンの子たちではなく、ご新規さんだ。ユリーシア様に撃ち抜かれてしまった人に比べたら数は少ないけれど。


 ユリーシア様は息を整えている。先ずは一度舞台から退出してもらうのだ。

 

 さあ、此処からは、私の出番だ。


「聴いてくださってありがとうございました。同じような催しを御覧になったことがある方も居るかもしれませんが……、こういったパフォーマンスで皆様を楽しませる存在を『アイドル』と呼びます」


 『アイドル』とはなにか、これからも皆を楽しませていきたい。興味を持った人には自らがアイドルを志す道もある。そういったことを説明して、場を持たせる。パフォーマンスはこれで終わりかと立ち去ろうとする人たちを狙って、シュシュちゃんもまたお菓子を配り始めてくれている。

 そうしている間に、着替えを終えたユリーシア様が戻ってきた。先程とは打って変わって、女性らしいシルエットのドレスにレース代わりの緑のリボンがあしらわれている。本当は、ペンライト代わりに協力的なお客さんに振ってもらう予定のリボンだったけれど、それはまた次回だ。戻ってきたユリーシア様は、髪の毛は踊りやすいようにポニーテールのままだけれど、装いが変わるだけで大分甘めの印象になる。


「……いつかの私のお茶会に来てくれた人に、お礼と感謝を伝えます。今まで、見守ってくださってありがとうございました。もう私がステージに上がることはないけれど……、これからはこの場所に他の人が立ってくれるでしょう。私は、そういった人たちのサポートをしていきます。そうして、あなたたちに『楽しい』や『嬉しい』を届けていきたい」


 言い終えると、少しだけ涙が滲みそうになってしまった。けれど、まだライブは終わっていないから。我慢だ。

 ああ、でも私のファンで居てくれた何人かの子たちは目尻を拭ってしまっている。


 ありがとう。だいすきだよ。でも、ごめんね。私のアイドルごっこは此処でおしまい。


 だけど、これからは本物の『アイドル』を。もっともっと素敵な奇跡を目にするから。きっと大丈夫。


「では、私はこれで。二曲目はユリーシア・エール公爵令嬢のソロパフォーマンスです」


 その言葉を最後に、今度は私が舞台から退出する。伴奏はこのままクレイスくんが引き受けてくれるらしい。


 二曲目の伴奏は私がすると言ったのだけれど、『ルルは初ライブを観たいだろう。楽しんでくれ』と言われてしまっている。

 ぶかぶかの袖で目尻を拭いながら、お菓子配りを一段落終えたらしいシュシュちゃんの元へ行くと、がんばったね、と頭を撫でてもらった。






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