本番当日・昼前
文化交流会は十時から十八時。何箇所かの決められた会場で、申請者が展示などの発表をする。有り体に言えば、規模の小さい学園祭のようなものだ。
発表者以外も強制登校だったけれど、好きな場所で好きな作品を眺めて良いということになっている。要は、登校と下校の点呼さえ受ければ後は好きにして良いのだ。
講堂を使えるのは十七時からだし、私たちも各々好きに過ごそうということになった。一応恋人、のような関係性なのでクレイスくんに一緒に回るか聞いたら、様々な発表がある中で見識を深めるのに集中したい、と断られてしまった。本音を言うと、まだキスのことやら思い出してしまって、一緒に過ごすのは恥ずかしかった。だからまあ良いんだけれど、ほんの少しだけいじけてしまっていたのにも気付かれたらしい。『自分の世界を拡げることで、もっとルルに見合う男になれるだろうから』と付け加えてどこかへ消えていった。
私の方が足りてない気がするのに。向上心の塊め。
いろんな人の愛したものを見るのは楽しいだろう。私もぶらりと一周してこようかと思ったけれど、せっかくの発表もこの後のことを考えると緊張で集中して見られそうにない。クレイスくんが隣に居てくれたらそちらについては気が紛れそうだと思ったのだけれど。
ちなみにシュシュちゃんはお腹が痛いと言ってどこかで休んでいるらしい。付き添おうか聞いたけれど、緊張から来るものだから心配しないで、と断られてしまった。別れ際に、お菓子をたくさん作ってきたから食べていいよ、とお裾分けを渡された。
「ユリーシア様はどうします?」
「わたくしはルルと居るわ」
いつかシュシュちゃんと語り合った空き教室で。男性用の衣装を身に纏い微笑むユリーシア様は美しい。その背中側へ回り込んで、金糸の髪を持ち上げると、あまりにも艷やかで幾らか掌から零れていった。
「それにしても、良かったの? 貴女、好きじゃないでしょう。舞台に立つの」
「嫌ってわけでもないんですけどね。モチベーションが湧かないだけで」
二曲中一曲は私も舞台に立ちます。と、伝えた際にユリーシア様は驚いたお顔をしていた。私の目的は自分自身がアイドルになることではないと知っているから。十年前のあの日も、自ら舞台に立ったのは、夢を叶えるための手段だった。『アイドル』という概念をこの世界に浸透させるための。
「でもね、今の私はモチベーション爆上がりなんです。ぜーったい! 私の方が格好良いって認めさせてあげます。あんなの王子様でも貴公子でもないですもの。リリィさんの目を覚まして、小僧も私の大好きなものでこてんぱんにしてやりますよっ」
他の小僧どもと袂を分かったらしい今、小僧一人の無礼行動など家の力でどうにでもなるだろう。けれど、私たちは最初にこの道を選んだ。悪意には悪意でなく、楽しさで上書きする道。必ずやり遂げる、ユリーシア様を一生推しますと言わせてやる。肉体に危害を加えるなんて以ての外だし、精神的にもそこまで追い詰めるつもりはない。こてんぱんとはやつの持つ価値観のことだ。
「そう。ね、これからも一緒に舞台で……は、きっと無理でしょうね。この先は、わたくしのサポートに回ってしまうのでしょう? なら、ルルと舞台に立てるのは最初で最後の機会ね。楽しまなくてはいけないわ」
小僧を倒したら、きっと私のこの情熱は消えてしまう。もう一度舞台になんて気持ちにはなれないだろう。今まで推してくれていた人、今日の舞台を見て推してくれるかもしれない人には申し訳ないけれど。代わりに、これからはユリーシア様が彼らに夢を見せてくれるだろう。この先で、アイドル志望の子が門戸を叩いてくれるなんてことも、あるかもしれない。
もしそうなったのなら、私は全力でサポートする。
そうして、皆がそれぞれ最高に好きになれる推しを見つけられれば良い。
「私は一番近くでユリーシア様を支えます。ずっとずっと貴女が最推しですよ」
高く持ち上げた金糸の髪を一纏めにして緑色のリボンで結ぶ。ポニーテールのユリーシア様は、いつもより一層凛々しくて格好良かった。
「……ルル。貴女ね。わたくしが女性で良かったと思いなさい」
「はい! 女性にしか出せない格好良さってありますからね」
「……違うわ、そうじゃない。ああ、クレイスの気持ちも少しは分かってしまう自分が嫌だわ」
頭を抱えてしまったユリーシア様だが、その仕草すら美しい。直すことはせずに捲り上げることにした袖から、その白い腕がちらりと見える。
「ユリーシア様、格好良いです。美しいです」
「ルル。貴女、本当に……、男性にはそういうことを言っては駄目よ」
「クレイスくんにしか言いませんよ?」
「クレイスが一番危ないのだけれど……、この格好も見せて大丈夫かしら」
私も既に着替え済みで、クレイスくんのお古に身を包んでいる。サイズアウトしたと言っていたものの中からそれでも小さめのものを選んだのだけれど、クレイスくん自身が元々上背がある。平均よりやや小柄な私では腕まくりにも限界があるので萌え袖状態だ。
「大丈夫です。私が可愛いのなんてクレイスくんは分かってますから! それに、今日はいつもより格好良い寄りのルルシアでいきますからね。気合もばっちりですよっ」
この緊張や不安さえもちょっぴり愛しかったりする。全てひっくるめて、楽しんでみせるのだ。
私もお腹が痛くなってきました。完結させるぞという緊張と寂しさからくるものです。
他にも書きたいものがたくさんある中、一番書きやすそうだなという理由で初の連載作品として執筆いたしました。
自分が楽しいという気持ちだけで勢いのまま書き連ね、未熟な部分もたくさんあるはずなのに、毎回読みに来てくださる方やいいねをくださる方、ブクマや評価などをしてくださった方々には頭が上がりません。
少しでも楽しい時間をお返し出来ていますように。
いつもありがとうございます。
皆様のことが大好きです。




