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本番当日・朝


 結論から言えば、あのいちゃいちゃはして良かった。いや、あんな人気のない場所で男女のアレコレをするなんて外聞的にはやっぱりあんまり良くないんだけれど。

 でも、私は今日『王子様』になるのだ。その為に、クレイスくんから服を譲ってもらったのだから。女の子が男の子を格好良いと感じる時の気持ちを経験できたのは強みだ。……自分自身がただ嬉しかったというのもあるけれど。


「ルルちゃん、おはよう」


「シュシュちゃん! おはようっ。荷物すごいね? 半分持とっか?」


 正門前で出会ったシュシュちゃんは、両手いっぱいに紙袋を抱えている。


「ううん、大丈夫。これは私の愛の形だから。今日が楽しみすぎて張り切っちゃった」


「そっか。元気そうで安心したよ」


 あの日以来顔を合わせてもお互い忙しくて、ゆっくりお話は出来なかった。それでも今日この瞬間のシュシュちゃんの笑顔が空元気でないことは分かる。ライブの前後でシュシュちゃん提供のお菓子は重要になってくるので、辛い気持ちで作ったものにならなくて良かった。たくさん楽しんでほしい。


「もちろんだよ! 何度も落ち込んで迷惑掛けてきちゃったけど……私、前に言ったよね。同担大歓迎だって。ユリーシア様の素敵なところを皆に見てもらえる日だもん、元気にならないわけがないよ!」


「やっぱり笑顔が一番可愛いよ。泣きたい時には駆けつけるけど、いつも笑っててほしいな」


 ちょっと格好つけながら、余裕の笑みを浮かべて見せる。参考は前世の推しとクレイスくんだ。もうちょっとスマートな言い回しもあった気がするが、私の語彙で優しくて甘い言葉を捻り出すのはこれが限界だ。


「ルルちゃん、その言葉は本心からだろうし、嬉しいけど……そのムーブを私にやってもあんまり意味がないんじゃないかな。目的が分かっちゃうんだもん」


「うぐっ……やっぱりですか。流石我が親友よ」


 女の子をドキドキさせてみせる! と思ってやってみたんだけれど、シュシュちゃんは私の魂胆なんかお見通しだよね。難しいな、王子様キャラを演じるって。


「刺さる人には刺さると思うよ。可愛いもん」


「ほしいのは『格好良い』なんだよ……」


 クレイスくんにも同じ感想をもらったな、なんて思っていると、頭上から声がした。


「ごきげんよう、ルル」


「……おはよう」


 エール姉弟だ。本日は一緒に登校してきたらしい。


「おはようございます、ユリーシア様。本日も麗しいですね。…………えっと、クレイスくんも、おは、よう、ございます」


「態度に出しすぎだろう。原因は分かっているから仕方がないが、避けるなよ。悲しいから」


 私と違って、クレイスくんは朝からご機嫌だ。いや、私も機嫌が悪いわけではないけれど。むしろこの大勝負の日に気合が入っているけれど。あんなことをしておいてオッスいい天気だな! なんて返せるわけがない。なんでクレイスくんは平然としているの。


「……きちんと節度は守っていると思うけれど。昨日はクレイスが暴走して迷惑を掛けてしまったのではなくって? 仔細は聞いてないけれどこの浮かれっぷりだもの、大体想像が着くわ」


「え、クレイス様、浮かれてるんです? 全然いつもと変わらないように見えますけど」


 一見いつもの仏頂面だけれど、よくよく観察するといつもよりも表情が柔らかい。お姉様であるユリーシア様しか気付けないような部分でも分かるようになってきた。


「く、クレイスくんは、昨日私に格好良いって言われて嬉しかったんですっ。だからご機嫌なんです」


「そんなのいつも言ってるじゃん」


「そうよ。嬉しかったのは間違いないでしょうけれど、他にもっと何かされたでしょう」


 ……う。確かにいつも言っている。それこそ、お友達になったばかりの頃から口にしていた気がする。クレイスくんってば、なんでそんなに格好良く生まれてきてしまったんだ。恨んでやる。


「合意の上だし、良いだろう。責任は取るし、それ以上に大事にする。俺の全力で一番幸せな女性にしてみせると誓うから」


「……クレイスくん!」


 ものすごく語弊がある言い方をするのはわざとだろうか。いや、天然なんだろうけど!


 こんな感じで、本番当日だというのに私たちの朝はいつもと変わらぬ始まりだった。


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