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私の王子様


「それにしても、女子は『王子』という表現が好きだな」


 リリィさんの去っていった方向に視線を向けて、クレイスくんが呟く。先程の会話を聞いて、何かを気にしてる?


「やっぱり特別感があるからですかね。王子様って。私の推しも王子様属性でしたし」


「……なってやりたいが、してやれることの範疇じゃないからな」


 あ。落ち込んでしまった。珍しい。本物の王族のことを指しているわけでもないと知っているだろうに。それに、別に王子様に見そめられたいとかそんな願望も私にはない。


「優しくていつも助けてくれる人のことを王子様と比喩しがちなので……、私はクレイスくんが学園の王子様とか呼ばれていても驚きませんよ」


「我が家は公爵家だ」


「そうでしょうけども」


 比喩の話だってば。相変わらず噛み合わせるのが難しいな。


「俺は王子にはなれないが、いつだってルルが一番に頼ることが出来る相手でいると誓う。そのために努力もする。最近はよく俺を頼ってくれるのが嬉しいし、これから先はもっと頼って甘えてもらえる人間になる。例え王子殿下がお前に求婚することがあったとしても、俺を選んでもらえるように」


「あのですね。王族の方がユリーシア様を飛ばして私になんてことはないでしょうし、それに、王子殿下は二歳です」


 王子様ならなんでもいいってもんじゃない。いや、世の中の野心家には二歳だろうがなんだろうが王子様ならなんでも良いって人もいるだろうけど。


「私はクレイスくんが好きですし、優しくしてほしいのも、困った時に助けてほしいのもクレイスくんです。……姉ぶるなって言われたら甘えたくなってきました。手を繋いでください」


 こちらから右手を差し出して、手を繋いでもらう。いつもは好き勝手に盗まれて返してもらえないので、こちらからお願いするのは初めてだ。同い年の男の子だと再認識した途端、甘えたい気持ちが強くなってしまった。我ながら単純だ。


「可愛いな」


「可愛く産んでくれた両親に感謝します」


「容姿のことだけではないが、俺もルル好みの顔に産んでくれた両親に感謝しておくか。……今の母上とパパにも感謝はしているが」


 好みというか、そんな次元じゃないけどね。

 大体の人は初めてそのお顔を見たら息を呑むだろう。私は初対面で妖怪呼ばわりされた衝撃の方が大きかったが。でも、もしロマンチックな出会いなんてしていたらこんな関係性にはなれていなかったかもしれない。


「もっと甘えてもいいですか?」


「肩車か? 上手くバランスを取れるように努力しよう」


「違います。確かにこの前そんなこともお願いしたけど、してくれなかったくせにっ。練習したの? ……いや、肩車はどうでもいいんですよ。明日、上手く行くって言ってほしいのっ。クレイスくんの口から、大丈夫って!」


 成功するって、信じてる。ユリーシア様にもそう伝えた。でも、もう一押しだけ。私はそのもう一押しをクレイスくんから貰いたい。


「成功するに決まってる。ルルは人を笑顔にする天才だ。そんなお前が育てたユリーシアも、きっとやり遂げてみせる」


「……ありがとう。クレイスくん」


 目尻に涙が滲みそうだけれど、もう泣かない。だって、泣いたら心配させてしまう。それがたとえ嬉し涙でも。きっと、涙を拭って優しい言葉を掛けてくれる。クレイスくんはそういう人だ。


「私ね、この目で見てきた存在の中で、クレイスくんが一番好き。世の中には楽しいことがたくさんあるし、これからもやりたいことは全部やっていきたい。でも、きみと居る時間が一番大好きで大切だよ」


「…………」


 クレイスくんが苦しげな表情をする。ちょっぴり恥ずかしいことを言った自覚はあったけれど、そんなにおかしなことだっただろうか。

 追われるより追いたい派とか? まさか、私からの気持ちの矢印があんまりにも濃くなってしまったら興味を無くされてしまったりするのだろうか。


「え、ちょっと待って、振らないで!!」


「なんでそんな話になる! ルルが、俺を試すから……、いや、お前にそんな情緒が育っているわけがない。ただの天然か」


 クレイスくんは心底疲弊したというようにひとつ溜息を吐き出した。そうして、繋いでいた掌に指を絡めてくる。

 振られるわけではないようで良かったけれど、それはそれとして結構不本意な評価を受けた気がする。天然だとかなんとか、クレイスくんに言われたくない。


「人並みに情緒は育ってますし、天然じゃないです。ただの妖怪です」


「妖怪な時点で只者ではないだろう」


 それはそうだ。いや妖怪じゃないんだけど、自認したらどういう反応が返ってくるか見たかった。結論としては普段と大して変わらなかったが。


「まだ父君にも次期侯爵の姉君にも挨拶していないのに。……ルル」


 クレイスくんが、改めてこちらへ向き直る。その紅い瞳には、強い意志が込められている。


「結婚するまでは、と言ったが、無理だ。代わりに……、いや、代わりじゃないな。当然のことだが、一生お前だけを愛するし、大事にする。もしこの生を全うした後に、もう一度お前がどこかで人生を送ることがあれば、俺も同じ場所に生まれ直そう。そうしてお前を……、ルルを守ると誓う。だから、抱き締めて、キスをしたい。決めたはずの順番が前後してしまうが、許してくれないか」





 読んでくださってありがとうございます!


 これからも宜しくお願いします。

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