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悪役令嬢じゃないから

 

 そうして、あっという間に本番前日を迎えた。

 ステージの内容に少しの変更はあったけれど、準備も滞りなく進んで概ね順調だった。


 ユリーシア様はパフォーマンスの仕上げを。シュシュちゃんは舞台を見に来てくれた人に配るお料理を。クレイスくんには当初はオタ芸を仕込んで披露させるという案もあったけれど、内容の変更があったので伴奏をお願いした。彼がピアノが弾けて本当に良かったと思う。それも私のために身につけたものだと思うと嬉しくもちょっぴりむず痒い。


 そうして、私は。沼に足を運んでいた。ここに来ればなんとなく目当ての人物と出会える気がしたから。


「ルルシアお嬢様……なんで」


「こんにちは、リリィさん」


 あの日、私とクレイスくんもこの場所に居たことをリリィさんは知らない。驚いた様子なのも当然だ。横に小僧の姿はなく、彼女の頬には涙の跡があった。しかし、その眼差しは強気である。


「……なぜお嬢様がこんなところに居るのかは知りませんけれど、侯爵家のご依頼を投げたわたしを罰しにきましたか? それとも、あなた方への態度の件? 罰するのは結構ですがわたしは反省なんてしませんよ。だって、フォンス様のお心を煩わせるあなた方が悪いのですから」


 敵意をびしびしと感じる。けれど、こちらには罰したりだとかそんなつもりはない。だからこそ家の人間は連れてこなかったのだから。


「お仕事を放り投げられたのは思うところはありますけれど、罰したりとかそんな裁量は私にはないです。貴女とお話がしたくて来ただけですよ」


「わたしにはお話することなどないです」


「伯爵こ、令息のこと、お好きなんですか?」


 小僧の話を口にした途端、リリィさんは硬直してしまった。

 先程までの涙の理由はあいつだろうしそこに踏み入ることに申し訳なさもあるけれど、逃げられたりする前に畳み掛けてしまおう。


「お嬢様に関係ありますか?」


「まあ、多少は? 令息の想い人であるウィゼル男爵令嬢は親友なので」


「…………貴女とユリーシア様は、男爵令嬢の可憐さに嫉妬して虐げていたと聞いていますけれど」


 想像通りの台詞だ。でも、私もユリーシア様もシュシュちゃんとはお友達だし、そうなる前も後も嫉妬する理由などない。


「本当にそう思いますか? 確かにウィゼル男爵令嬢は可憐です。でもね、女神のような美貌をお持ちのユリーシア様が他者の容姿に嫉妬する必要なんてありますか?」


「それはっ……、あなたもユリーシア様も、フォンス様の気を引くために! あの男爵令嬢だっておかしな力を使って彼に色目を使っていたんでしょう」


 うげ、と声が出そうになるのを何とか抑えた。小僧が自分から宣ったのかリリィさんの想像なのかは知らないが、勘弁してほしい。


「……私。恋人、と言って良いのかわからないけれど、想いが通じ合った人がいるので令息の気を引く必要などありません。こう言っては何ですが、容姿も身分も思いやりもこの上ない相手です。おまけに、私のことを誰よりも大事にしてくれているので」


 ちょっぴり惚気になってしまったかな。でもでも、その不名誉な疑惑は徹底的に潰しておかないと気が済まない。なんでクレイスくんが居るのに小僧に色目なんか使わなければいけないのだ。小競り合いしかしたことない相手だぞ。

 私もユリーシア様も小僧への特別な感情など持っていないし、それを理由にシュシュちゃんを虐げるなんて以ての外だ。


「フォンス様より素敵な方なんて」


「ブティックに連れ立ってお邪魔しましたよね?」


 今となってはあの日に同行してもらえたのは幸いだった。他人から見た小僧の容姿の評価なんか知ったことではないが、クレイスくんより美しい人を連れてこいと言われたら同等の美しさを誇るユリーシア様か公爵様をお呼びするしかないだろう。いや、私にとってはクレイスくんが一番素敵だけれど。

 とにもかくにもあの圧倒的美しさは言葉で表現しきることは出来ないし、実際に見てもらうのが一番早い。それくらいエール公爵家の美形遺伝子は圧倒的なのだ。


「…………」


 リリィさんも黙ってしまった。別に恋人マウントみたいなものを取るつもりはなかったけれど、あの小僧を素敵だと思っているのならば目を覚ました方が良い。女の子の恋心を弄ぶような人間だ。


「伯爵令息より素敵な男性はたくさんいますよ。何故そこまで傾倒しているんです?」


「……作業に行き詰まって、気分転換に街に出た時にぶつかってしまったんです。わたしのような平民がお貴族様にぶつかったら、罰せられてもおかしくないのに……フォンス様は落としたドレスの図案を拾ってくださって、それを見て素敵な才能だと褒めてくださいました。グラシュー侯爵家のお嬢様からの依頼だから気合いが入っているのだとお伝えすると彼の顔色が変わって……」


 出会ったのは偶然だったのだろうか。小僧が平民の女の子の落とし物を拾ってあげたなんて意外だけれど、そのくらいの親切心はあるのか、それともただの気まぐれか。

 リリィさんが依頼主の名前を口にしてしまったのは浮かれていたからだと思うのだが、相手が良くなかった。まさか私たちにとって因縁の相手だとは想像できなかっただろう。




 読んでくださってありがとうございます!


 本日は残業でこんな時間の投稿になりました。バレンタインなので甘めのお話投稿したかったな……。


 これからも宜しくお願いいたします。

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