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決意


「おはよう、ルル」


「ユリーシア様。おはようございます」


 使用人さんに用意してもらった客間にお裁縫箱を持ってきてもらい、夢中で作業しているといつの間にか朝になっていた。やっぱり手縫いは時間が掛かるな。でも、ミシンがないのだから仕方がない。デザイナーさんのお店にはそれっぽいものがあったりするのかもしれないが、公爵邸には無かった。多分我が家にもないだろう。


「クレイスは……居ないわね。変なことをされていないみたいで良かったわ」


「もう、ユリーシア様ってば。クレイスくんはそんなことしませんって」


 ほっぺにちゅーはされたけど。思い出すと顔が熱い。でも、ユリーシア様が心配しているのはもっと先の段階だろう。確かにクレイスくんは私のことが大好きだけど、大事にしてもらっているからこそ段階を踏まないことはしないと信じられる。

 あの後も、私の作業の邪魔にならないようにと自室に戻っていった。無理はするなと念を押しながら。


「それより、シュシュちゃんは大丈夫ですか?」


「泣き疲れてしまったみたいで、まだぐっすり眠っているわ。ふふ、可愛いわよね。ルルは作業をしていたみたいだけれど、きちんと睡眠はとったの?」


「あ……、休憩がてら、少し」


 集中力が切れてきたタイミングで仮眠をとって、一応二着分の裾上げは終わった。素人仕事なのでよくよく見ると綻びがあるのが申し訳ないけれど、今回は仕方がない。

 あとは袖をどうするかだ。あえて直さずに捲って色っぽさを出すのも良いし、萌え袖というのもある。


「そう。……ね、本当は昨日ルルともお話したかったのよ。でもクレイスに取られちゃったから、今わたくしとお話してくれない?」


 用意してもらったベッドに腰掛けて、ユリーシア様が隣においでおいでと手招きしてくれる。


「もちろんです! ちょっとお顔がむくんでいるので、恥ずかしいですが……えへ」


「もう。きちんと寝ないからよ。でも、わたくしのための作業をしてくれていたのよね。膝を使ってくれても良いのよ」


 それは、つまり膝枕をしてくれるということだろうか。嬉しいししてほしいけれど、クレイスくんもシュシュちゃんもヤキモチを焼きそうだ。


「えっと、大丈夫です。座ってお話します」


 そう言って隣に腰掛けると、花のような甘い良い匂いがした。クレイスくんの匂いを感じるときはドキドキして落ち着かなくなってしまうのに、ユリーシア様の匂いはなんだか安心して眠気を誘ってくるようだ。


「ねえ、昨日はシュシュさんから小僧の話を聞いたわ。他の令息たちは次第に魅了が解けている様子なのに、彼だけ執着が凄まじいそうね」


「そうなんですか。そういえば他の小僧どもは最近一緒に行動しているのを見ませんね」


 まあ、私に対する悪感情は相変わらずのようで個別にすれ違っても若干視線を感じたりはするのだが、実害がないものは放っておく主義だ。魅了が解けたからといってシュシュちゃんに危害を加えたりする様子もない。

 というか、麗しの公爵令嬢様のお口から出る言葉として『小僧』が定着してしまったのは私のせいなんだろうか。責任を感じてしまう。


「もしかしたら、小僧は魅了だとかは関係なく本当にシュシュさんに惹かれているのかもしれないわ。だからといって彼の振る舞いが許されるわけではないけれど」


 一緒に過ごすようになったきっかけは魅了だったかもしれない。でも、積み重ねていく時間の中で本心からシュシュちゃんに惹かれていってもおかしくはないのだ。彼女はとても魅力的な女の子だから。


「恋は人を愚かにするってよく言いますよね。リリィさんが失踪したきっかけも、きっと恋心からでしょうし。……私も浮かれすぎないように気をつけないと」


 恋を知った今、彼らを馬鹿にすることは出来ない。好きな人のために何かをしてあげたいとか、行動を起こしたいという気持ちは分かってしまうから。一歩道を踏み外してしまえば待っているのはきっと同じ場所だ。


「あなたたちは大丈夫よ。人を傷つけることはしないわ。クレイスが人目を憚らず手を出さないかは心配だけれど……ええ。本当に。あの部屋で十年過ごしているんだもの。……それよりも、ルル」


「はい。なんでしょう」


 ユリーシア様が、私の右手を取って握る。


「貴女は、わたくしにとっても特別な女の子よ。弟と打ち解けるきっかけをくれた、大事な子。わたくしは絶対にステージを成功させる。けれどね、貴女の口からも聞きたいの。わたくしは大丈夫だって、あの日の貴女と同じように誰かを救えると」


 ユリーシア様は小僧のことも救いたがっているように見えた。シュシュちゃんに向けられた間違った熱の発散先が他にも出来れば、少しは落ち着くだろう。それには、当初の計画通りに小僧もユリーシア様のファンにしてやらないといけない。


「大丈夫です。ユリーシア様は、私にとって一番の『アイドル』です。誰かを救える、そんな存在です」


「ふふ。一番だなんて、貴女の『推し』に敵うわけもないでしょう? でも、俄然やる気が出たわ」


「嘘じゃないですよ。ユリーシア様は私の最推しです」


 心の中には、前世で目にした彼女たちが色濃く存在している。ずっとずっと私の原動力であり続けてくれるだろう。

 けれど、ともに時間を過ごして。一番に応援したい、されたいと思うのはユリーシア・エールという存在だ。


「期待を裏切らないようにしなくてはね」


 凛と澄んだその声には、決意がこもっていた。




 読んでくださってありがとうございます!


 余談もいいとこですけれど、エール姉弟の名前は声援、という意味ではなくとある美少女のお名前からいただきました。

 でも結果的になんかぴったり合わさって良かったな、とか思ってます。


 これからも宜しくお願いいたします!

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