ルルのおねだり
照れろクレイスって思った。実際照れてる、顔が赤い。いやでもでも、乗り気になるなんて予想してなかったんだが!
「あの、過度な接触は結婚してからでは、」
「ルルから誘っただろう。嫌なら止めるが」
そう言いながら掌を頬で包まれる。
誘った、とかなんか変に艶っぽい表現をしないでほしい。確かに言い出しっぺは私だけれど! それに、聞き方がずるい。
「い、や、とか、じゃ、ない、です」
なんだかカタコトになってしまった。でもでも、その紅い瞳に熱を宿して見つめてくるのだから、上手く息が出来なくて言葉も出てこない。
「分かった。……此処だったな」
狙いを定めるように頬を撫でられる。緊張しているはずなのに、この温もりがちょっと幸せなのはなんなんだろう。
そうして、その掌が離されて……、同じところに、微かな吐息と柔らかい感触が訪れた。
「……クレイスくん。今、私のほっぺに、ちゅーしましたね?」
「ルルから誘った」
だから、その言い方をすんな。
「っ、は、ずかしいんです、けどっ……!」
「俺は人生で三番目くらいに幸せだ」
……自惚れかもしれないが、多分一番と二番は妖怪パーティと先日想いが通じ合った時だ。どちらが一番でどちらが二番かまでは分からないけれど、此処まで来れば自分がクレイスくんの人生においてかなり大きな割合を占めているのが分かる。
「……っもう! 対価は払ったってことで良いですか? 遠慮なくもらっていきますからね!」
「元から対価は求めてなかったが、ジ……パパの投げた猥褻物に上書きも出来たことだし、二、三着残してくれれば後は全部持っていって良い」
「そんなにいらないですってば。っていうか、猥褻物って投げちゅーのこと? クレイスくんも大概言葉選びが変ですよ」
なんだっけ、間接キスは間接的粘膜接触だっけ。割とおかしな言い回しだ。
その理屈でいくと、投げちゅーは飛行猥褻物体? 長い。言いにくい。
「まあ、気に入ったものを持っていけば良い。頼ってくれてありがとう。嬉しかった」
「…………変なの」
お礼を言うべきなのはこちらのはずなのに。
でも、私も幸せだしクレイスくんも嬉しそうだからいっか。
「私はこれと、ユリーシア様にはこれかな。遠慮なくもらっていきますね。いただいたものは必ず役立ててみせますので」
「ユリーシア用はステージ衣装だろうが、ルルはなんのために必要なんだ?」
よくぞ聞いてくれた。
「『王子様』になるんですよ、私も」
唇に人差し指をあてて、余裕ぶって笑ってみせる。
記憶の中のあの子に、少しは近付けたかな。
「可愛いな」
「……今はね、格好良いって言ってほしかったんです」
私の『格好良い』が通じなかったようで残念である。可愛いと言われて嬉しくないわけではないけれど。
けれどまあ、仕方ないかな。相手が悪い。中身が変なのは置いておくとしても、目の前に居るのは学園一格好良い男の子だ。そんな相手と同じ土俵に立ったところで私のつけ焼き刃が通じるわけがないのだから。
「あ。あともうひとつお願いが」
「雲でも星でも取ってくるが」
「やめてください、異世界版かぐや姫じゃないんですよ」
なんでそんな無茶難題を言うと思われてるんだ。それにかぐや姫って妖怪じゃなくて宇宙人なんじゃないの。そんなに文学に精通しているわけじゃないから、どういう解釈が正解なのかよく分からないけれど。
「そいつは雲や星を捕獲出来るのか」
「出来ないでしょうね。覚えている限りになりますが、いつか読み聞かせてあげます。それよりも欲しいものがあって」
「二百年前に存在していたと言われる逆立ちしながら歩く猪か。探してこよう」
なんだそれ。確かにちょっと見たい。でもはずれだ。
「違います。というか、普通女子からおねだりされたら服とか宝石とかって思いません? いや別にそれが欲しいわけでもないんですけど、私のことなんだと思……いえ、妖怪でしたね」
だから奇妙なものを欲しがってると思われているのか。クレイスくんは衣装室を見渡してきょとんとしている。
「服、は今譲ったが、……贈って良いならドレスも宝石も贈りたい。俺が選んで良いなら尚嬉しい」
「お気持ちは嬉しいんですけど、今はお裁縫箱をお借りしたいんです」
本番まで時間がないからね。デザイナーさんにはドレスのアレンジをお願いしたので、これ以上お仕事は増やせない。
お裁縫は前世ぶりだが、裾上げくらいならなんとか出来るだろう。
「裁縫するのか? ルルが」
「貴族令嬢だって刺繍を嗜む方もいるでしょう。いえ、私は刺繍は出来ないんですけど」
じゃあなんでだ、という顔だ。
「前世の教育機関ではね、基本的な実用技を習うんです。だから、衣装のサイズ直しは私がしますね」
上手く出来るかちょっぴり不安だけれど、やれることが出来たのが嬉しい。
うん。きっと出来る、やるぞ!




