クレイスはご機嫌
クレイスくんのお部屋に案内してもらうと、やはり机上に並んだ私の顔たちはそのままだった。
この縁のきっかけだし、嬉しい気持ちはあれどやっぱりこの部屋で安眠は出来そうもない。落ち着かない。
「なんでも頼ってくれ。なんでもする」
頼りたい、と言ったことでクレイスくんはご機嫌だ。心霊スポットで一晩過ごしてきて、とか言っても私のためならしてくれるんじゃないだろうか。怖がりのクレイスくんにそんな意地悪はしないけれど。こんなに大事にされていることを当然だとは思わずに私もお返ししていかなければ。
「えっとですね。クレイスくんの衣装から不要なものがあればいくつか貸して……、いえ。譲っていただけたら嬉しいんですが」
「構わないが、なんでだ」
まあ、その反応だよね。ちなみに会えないときに相手を感じることが出来るものがほしい、とか乙女なおねだりをする子もいるみたいだけれど、今回はそういうのではない。
「えっと、ちょっと丈とか直して着たいなーとか。あっ、でもでもクレイスくんが持っているのなんて最上級の品物でしょうし、駄目ならお義兄さま……姉の結婚相手にお願いします」
「……ルルが着るのか」
「私もですが、ユリーシア様もです。どうしても男性服が必要で。……だめですか?」
借りるんじゃなくてもらった上で別物にしたいって言ってるんだから、駄目と言われても仕方がない。一番先に頼るべき相手としてクレイスくんが浮かんだからお願いしたのだけれど、もし駄目ならば義兄に連絡を取ってみよう。
「ルルのためならなんでもすると言った。衣装部屋はすぐ隣だから好きなものを持っていって良い。……それより、身内とはいえ他の男の服は着てほしくない。一番先にルルが頼るのも、俺が良い」
「一番先にクレイスくんのお顔が思い浮かんだので、お願いしました」
返答するやいなや、満足そうな表情を浮かべたクレイスくんは私の手を取った。
手を繋がれるのも大分慣れてきたものだ。緊張しないわけではないけれど、素直に嬉しいと思える余裕が出てきた。
そうして、衣装部屋へと連れて行かれる。
「でかっ、何畳分あるんですか」
「たまに出る謎の口調と単語はなんなんだ」
いや、だって。流石公爵家である。衣装部屋……、ウォークインクローゼットの大きい版を想像していたのに、これは部屋三つ分くらいの広さがあるんじゃないだろうか。
「畳というものがありまして、それが何個分かでお部屋の広さを測るんです」
「……まったく分からないが、いつか理解出来るように努力する」
そんなに重要なことでもないし、頑張らなくて良いんだけどな。クレイスくんは絶対に私の総てを受け入れようとしてくれる。
「多分こちらの世界で活用することはないでしょうし、大丈夫です。一緒に居られるだけで嬉しいですし。……えっと、流石に現役で着用しているものをいただくわけにはいかないでしょう。サイズアウトしたもの、しそうなものはありますか? そちらから融通してもらえたら」
十六歳といえばまだギリギリ成長期なので、着られなくなっていくものもあるだろう。
「普段着ているものから持っていっても構わないが……、このあたりは最近はもう着ない」
う。やっぱり質が良い。持ち主が快く譲ってくれるつもりとはいえ、本当に良いのだろうか。いや、でもほかの男性を頼るなと言われてしまったのでお義兄さまにはお願い出来ない。
お父様の持っている衣装だと、デザインが少し大人過ぎるし。あ、お父様もほかの男性判定かな。
「あの、やっぱりものすごく良いやつですよね。大丈夫なんですか? もらってしまって」
「構わない」
「なら、お金を払います。絶対に無償でもらって良いものじゃないです」
タダより高いものはない、という言葉が頭をよぎる。前世でよく聞いた言葉だ。クレイスくんがこれを盾に何かを要求してきたりはないだろうけれど、なんとなく受け取りづらく思うのは前世の感覚が残っているからなのだろうか。
「金銭は不要だ。ルルの頼み事を叶えてやれるだけで俺は嬉しい」
「クレイスくん。ギブアンドテイクって言葉があってですね。何かをしてもらったらきちんとお返しをしなければいけないんです。知っていますか?」
「ルルが俺を頼ってくれた。そのお返しに服を提供する。そこで完結しているだろう」
してないわ! どういう理屈だ。あと、なんでずっと嬉しそうなの。
「私が何かお礼をしないと落ち着かないんですが……あ、ちゅーでもしますか?」
そういうことは結婚してからじゃないとしないって言っていたからね。ピュアボーイなクレイスくんの中ではちゅーもえっちなことの範疇に入るはず。
さあさあ照れろ。いつものお返しだ!
「…………良いのか」
「えっ」




