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デートのようななにか


 流石の私も立て続けにトラブルに見舞われてしまえば落ち込むもので。ユリーシア様もシュシュちゃんも同様のようで、集まってレッスンするだとかそんな雰囲気にはならなかった。

 ユリーシア様は一人でもきちんと練習しておくから心配しないで、と言っていたが、どちらかといえばシュシュちゃんの方が気掛かりである。自責の念に囚われていたし、レッスンに参加しても元から自分に出来ることはなかったのだし……などとしょげていた。ファンの存在はモチベーションになるのだから、何も出来ないだとか、そんなわけがないのに。


 そんなわけで休日だというのにレッスンに参加するでもなく、家で暇を持て余す予定であった私だが、何故だかクレイスくんに呼び出された。

 ライブの関係での集まりだからと先に家の皆には伝えてきたため、前回のような勘違いはされていないだろう。

 いや、あながち勘違いでもなくなってきているのだが、それは追々。いろいろに区切りがついてからだ。


 迎えに行くからと言われて連れ出されたのは、本当に理解できないのだが、とても……とても立派な沼だった。

 木々に囲まれたそれは小さな湖くらいの面積があり、沼という言葉のイメージに反して水面は透き通っていて綺麗だったけれど、じめじめと湿気も凄い。戦闘系ファンタジーの世界であればスライムでも出てきそうなものである。ちょっぴり不気味な雰囲気だけれど、クレイスくんは大丈夫なんだろうか。

 私はゲームのフィールドみたいなこの空間に、ちょっぴりワクワクしているのだけれど。

 でも、やっぱり、なんで沼?


「最近悪いことが続いていただろう。気分転換になれば良いと思った。……本当は全員誘うべきだっただろうが、沼で喜ぶのはルルだけだろうから」


 私の疑問を感じ取ったのか、クレイスくんが答えてくれる。

 なるほどなるほど、ユリーシア様やシュシュちゃんは沼に来て喜ぶタイプの人たちじゃないもんね。


 ……いや、待って。私だって沼フェチじゃないんだけど。クレイスくんにとってなんか特別な思い入れでもある場所なのかな。


「斬新なお出掛けスポットですね。沼とは」


「……よく沼がどうこう言っているだろう。俺を突き落としたいならそうすれば良いし、あまり泳いでほしくはないが……、どうしても泳ぎたいなら止めない」




 ……あ。この前ユリーシア様とお話していた時のアレか。私の些細な言葉まで覚えてくれていたのは嬉しいけれど、ここまで真面目に取り合ってくれなくても。

 大切に想ってくれているからこそなのだろうが、こんなに人気のない場所で二人きりなんて、結構マズいんじゃないだろうか。クレイスくんにその自覚はなさそうだけど、だからこそ今後のためにも伝えたほうが良いよね。


「あの、嬉しいんですが……やっぱりせめて皆で来たほうが良かったと思います」


「大勢で遊びたかったか。すまない」


 いや、まあそれもあるにはあるが、そうじゃない。


「違います」


 ぱぁっとクレイスくんの顔が明るくなる。きみは二人で遊びたかったんだね。可愛いね。

 ……いやいや、絆されないぞ。


「今日は護衛さんはいますか?」


「居ない」


 御者さんは近くの街外れで待っていてもらい、そこから此処までは歩いてきた。


「つまり今此処には私たち二人きりです」


「ああ」


 だから、嬉しそうな顔をするなってば。もしかしたらロマンチックな台詞を期待しているのかもしれないが、私はこれから怒るんだからな。


「クレイスくんクレイスくん。……あのですね。こんな人気の無いところで二人きりなんて、万が一誰かに見られたら……、私たち、えっちなことしようとしてたって勘違いされちゃうかもしれないんですよ!」


 両手で作った握り拳をぶんぶんと振りながら叫び切ると、クレイスくんのお顔は沸騰したように一瞬で真っ赤になってしまった。


「……っ、な、んっ……」


 あーあ。言葉も出てこないようである。私もこんなことを口にするのはとても恥ずかしかったけれど、精神年齢的にはお姉さんのはずだから、こういったことはきちんと教えてあげなければいけないのだ。


「それとも本当にえっちなことしようと思って連れてきたんですか?」


 まあ、ほっぺにちゅーくらいなら許そう。家族以外としたことないけど、そのくらいなら多分大丈夫。


「ちが、……! 結婚するまでは! しない!!」


 この世界に合った貞操観念を持っているようで何よりである。

 まあ、クレイスくんはそういう子だよね。分かってたよ。


「泳ぐか聞いたのはルルの趣味かと思ったからで……、そういう意図はない!!」


 この世界の水着といったら軍人さん用のものくらいで、女性用水着なんてないもんね。着衣で泳ぐことになったとして透けるだろうし、それを直視出来るようなクレイスくんではないが、目を離してしまったらそれはそれで危ない。だからこそ、泳いでほしくはないと言っていたのだろう。

 必要なことを伝えるためだったが、意地悪をしすぎただろうか。


「……分かってます。次から人気のないところで遊ぶ時は皆で。二人で遊ぶ時は人通りの多いところにしましょうね。あと、私は沼で泳ぐ趣味はありません」


 水泳自体、苦手でもないが得意でもない。しかも、料理や裁縫と同じく前世ぶりになるのでこの身体で上手く泳げるかどうかすらわからない。


「俺に、襲われるんじゃないかとか……怯えさせてしまっただろうか。……身の危険を感じたのならすまなかった」


 …………不意打ちで可愛いことを言うんじゃない。


 そんな人ではないのは分かっているし、万が一不本意なことをされそうになってもクレイスくんを退ける方法ならいくらでも思いつくからそんな心配はしていない。


「私が気にしているのはお互いの体裁です。クレイスくんが心遣いから此処に連れてきてくれたのは分かってますよ」


 あんまりにも可愛いので、その腕にちょっぴり身体を寄せてみる。どの口でお説教をしていたんだなどと思われそうだが、抱きしめ合ったりしているわけではないのだし、ちょっとくっつくくらいは良いだろう。


「ルル」


「結婚するって言ってくれるのは嬉しいです。侯爵家といえど三女ですから、エール公爵家に旨味があるかは微妙ですけど」


「大丈夫だ。ジジイに認めさせるための世界一の餌があるから」


 やっぱりこの話をすると微妙な表情になるんだよな。なんでだろう。でも。


「クレイスくんに大丈夫って言ってもらえると、安心出来ます」


「そうか」


 なんとなく良い雰囲気で、暫くは友人同士の距離感でとは言っていたけれど、やっぱりちゅーのひとつやふたつぶちかまされるのかな、なんて目を瞑ろうとした。

 した、のだが。


 沼の向こう岸から物音がして、慌てて密着していた身体を引き離したのだった。






 読んでくださってありがとうございます。



 もし気が向いた方がいらしたらブクマや評価やいいねなどなどいただけるととても嬉しいです!



 これからも宜しくお願いします。

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