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トラブル続き


 クレイスくんの嫌な予感は当たった。


 舞台まで一週間を切って、お父様には事情を話してその日は学園行事でお休み出来ないから、文化交流会の方でライブをするねと伝えた。侯爵家で開催するわけじゃないんだし、政略結婚の話はチャラにならないかなーとちょっぴり期待したのだが、結局は場所が変わるだけで同じ事をするのだから約束はまだ生きたままらしい。

 いや、でも、そちらは問題ではないのだ。元はといえば自分が撒いた種なのだから。それにクレイスくんが大丈夫って言っていたのだからそれを信じる。


 そんなわけで、政略結婚云々ついては気楽に構えているのだが……、問題は衣装である。製作を依頼していたリリィさんが、消息不明なのだ。


 ブティックを経営するデザイナーさんによると、置き手紙を残して自分の意思で失踪したらしい。

 筆跡も間違いなく本人のもので、誘拐や事件に巻き込まれたという線はないとのことで安否については心配しなくて良さそうなのだが、当然衣装は完成していない。

 本人や曲のイメージを左右する衣装というものは大事なのでオーダーメイドで受注していたのだが、本番まであと十日を切ったこの短期間で新しくどこかに依頼するというのは無理だろう。


「……直前でこんなことになるなんて……」


 本日は公爵様とお話があるというクレイスくんを除いて、ユリーシア様とシュシュちゃんを私のお部屋へ招いている。エール公爵邸の方がなんだか慌ただしいようなので、ならば私の家で会議をしようとなったのだ。揃って頭を抱えているうちに、使用人に用意させたお茶はもう冷め始めている。


「すみませんユリーシア様、依頼した私の責任です」


 見習いといえど有名店に在籍している人なのだから、仕事を放り出したりはしないと思っていた。それに、あんなに熱心にユリーシア様の魅力を語っていたのに。依頼しただけで安心をして、こまめに進捗を確かめもしなかった私の責任である。


「ルルまで自分を責めないで。『アイドル』というものは周りを明るく照らすものなのでしょう? 貴方たちが落ち込んでいたら……、わたくしは自分の力不足を痛感してしまうわ」


 そう言うユリーシア様も悲しそうだ。……でも。落ち込んでいても道は切り開けないよね。


「前世でお裁縫スキルを習得していなかったのが悔やまれます」


 シュシュちゃんと同じく、私もお裁縫は授業で基本的なことを習った程度だ。記憶も薄れているから、出来たとしてもボタン付けや裾上げくらいが良いところだろう。


「手持ちのドレスで舞台に立つしかないわね。……まあ、開催出来なくなったわけではないのだし。精一杯やり切るわ」


「ユリーシア様……」


 予定していた場所も衣装も変わって、ほぼ確定していたパフォーマンスもそれに合わせて調整しなければいけない。負担を感じていないはずがないのに、それでも微笑んでくれるユリーシア様はやっぱり女神だ。


「もしお手持ちのドレスに手を加えても良いなら、デザイナーさんご本人にアレンジをお願いしてみます。今回の件、お母様が激怒していたのでそれくらいならお願い出来るかも」


 仕事を放り投げたのはリリィさんであって、デザイナーさんご本人には瑕疵はないのだけれど。正式なものではなかったにせよ、侯爵家からの依頼をこんな形で投げ出すとは、とお母様が手のつけられないくらい暴れているのだ。ちなみにリリィさんの失踪はお母様から知らされたので、私が告げ口をしたわけではない。

 お忙しいデザイナーさんのお手を煩わすのは申し訳ない気持ちもあるけれど、アレンジだけならドレスをイチから作るよりは格段に時間は掛からないし、何より少しはお母様の怒りも鎮めることが出来るだろう。


「もちろん構わないわ。何枚か見繕っておくわね。……それにしても、こんなに大事な時にあの愚弟は何をしているのかしら」


 我らが女神は何故だかここ最近は弟君に厳しい。はあ、と溜息を吐いている。


「喧嘩中ですか? 珍しいですね」


「そういうわけではないけれど……」


 シュシュちゃんが尋ねると、悩ましそうにもう一つ吐息が漏れた。なんだかすごく艶っぽい。


「近いうちに大事にしていたものをあの子にとられてしまいそうな予感がするの。……だからかしらね、少しばかり厳しく当たってしまうのは」


 それってやっぱり喧嘩じゃないのだろうか。

 クレイスくんがお姉様の大事なものを無理矢理に奪ってしまうような子には思えないけれど、家族だけの何かがあるのかもしれない。

 次に会った時に、宥めるだけはしておこう。お姉様の大事なものを奪っちゃ駄目だよって。良い子だからきっと分かってくれるはず。

 そう決意した私の横で、シュシュちゃんが一言だけ唸った。


「…………あー、」





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