好き
好き、と言われた。
愛してる、とも。
シュシュちゃんだって世界を救おうなんて考えてはいないと思うけれど、クレイスくんは……、世界よりも私を救いたいと。
「気持ち悪いと思われるかもしれないが……、十年前からずっと、ルルの隣に並ぶことを目指して生きてきた。……けれど、ユリーシアのことを頼んだのは決してルルと仲良くなりたいという下心だけではなかった。ルルなら……ユリーシアのことも救ってくれると、そう信じていたんだ」
そんなこと、疑っていない。今回の計画に関してクレイスくんもたくさんの労力を割いてくれていたから。それに、気持ち悪くだってない。
「……嬉しかったです。あの日の私を見つけてくれた人が居たことが。…………私は、もうクレイスくんに救われています」
黒歴史とバツ印を付けたあの日は、クレイスくんによって鮮やかな思い出に変わったから。
十年前越しに思い出す、ステージの上の私は笑っている。
「……十年。あの日のルルの笑顔を糧に生きてきた。惚れたなんて言われても、信じられない」
「……私、嘘でそんなことを言うほど性格が捻じ曲がってはいません。一般的な令嬢らしさはないでしょうけど」
学園人気ナンバーワン公子様ともあろう者がなんて弱気な。こんなに怯えるなんて。こちらの世界でも罰ゲーム告白みたいなものがあるのだろうか。だとしても、あい……、愛してる相手の言葉を疑うなってば。
「そもそも昨日……俺の想いは告げた気でいたんだが。もっとはっきりと言葉にするべきだった。ルルのことが好きすぎて、振られることに臆病になりすぎていた」
「んっ、ンンッ……」
返す言葉に詰まって、奇妙な咳払いをしてしまった。……好きすぎて、って言った? この子、私のことすぎて……って!
「昨日の相談って、私のことが……、す、好きだって、いうお話だったんですか……?」
「そうだ」
「十年前からずっと、好きで居てくれたんですか……?」
「ああ。……お前以外とは交際も婚約もする気はない」
なんて嬉しい言葉をくれるんだろう。婚約だとかそんな話は些か気が早いように感じてしまうが。そして、そこで思い出す。
「あっ、……あの、政略結婚の話。ライブが成功したら消える話ではあるんですが、その……まだ事実上その約束が存在しているのにクレイスくんと、その……お、お付き合い、というものをするのは、不誠実なので……」
だから待っていてほしい、そう続けようとしたのだが。
「問題ない。もちろん成功を疑ってはいないが、万が一があったとしてもルルの婚約相手の座はジジイに交渉してもぎ取る気で居た。……尤も、そんな方法で得た関係では恋人同士とは呼べなかっただろうが」
恋人、という単語に体温が上がっていくのを感じる。恋人、というのはつまり想い合っている男女なわけで……。
「こ、公爵様相手に交渉とか……出来るものなんですか? いろんなおうちの勢力図とかそういうのも考えて私の相手を見繕っていたって思いますけど……」
「……最終手段を使えば大丈夫だ。本当に奥の手だが……、ルルのためなら」
クレイスくんが苦虫を噛み潰したような顔をしている。最終手段、と言うのはそれほど大変な方法なのだろうか。
「あの、私のためにそこまで……」
「する。好きだから。それに、恐らくお前が考えているような方法じゃない。…………それより、ルル」
何故かブレザーの裾を掴まされる。え、何故。皺になっちゃうよ?
……あ、でもさっきより更に距離が縮まって……クレイスくんからは石鹸の良い匂いがする。今までは密着してもこんな風に気にしたことはなかったのに。
「……シュシュ嬢のスカートの代わりだ」
いや、シュシュちゃんのスカートに用があるって言ったのを本気にしてる? もちろん嘘じゃなかったけど……代わりって言うならその裾から頭を突っ込んで捩じ込まなければいけないんだけど。
まてまて、想い合っているというのが分かったとしても、本当に痴漢令嬢になってしまう。
動揺していると、視界が翳った。
髪の毛にクレイスくんの吐息を感じる。私の視界はクレイスくんが着ているブレザーの肩の部分しか見えなくて分からないけれど、多分髪の毛の匂いを嗅がれているのだ。
なんで、なんで。恥ずかしい。でも、私もクレイスくんのいい匂いを堪能していたからおあいこなのかな。
「なんなんですかね、こういうことするのは……。昨日好きになったばっかりだから、クレイスくんの想いに返すには物足りないかもしれないけどっ……、でも、私……」
「ルル」
背中に腕が回されて、強い力で引き寄せられた。
「好きだ」
「聞きましたってば。……私も」
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