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転生少女たちの恋バナ



 お昼休み、例の隠れ家近くの空き教室で。お行儀が悪いけど誰もいないから、と机に腰掛けて脚を組んだシュシュちゃんは溜息を吐いた。




「……ルルちゃん、私ね。最近似たような相談をされたよ」




 私はといえばその机とセットになっていた椅子に座り、シュシュちゃんのスカートの裾を握っている。セクハラのようで申し訳ないが何かを掴むことで多少落ち着くような気がするし、シュシュちゃん本人もそれを嫌がりはしなかったから。もしこれで皺になってしまったなら侯爵家の財力で新品並みに綺麗になるよう手入れをしよう。せめてもの償いだ。




 机の上に座るのも、お友達のスカートを握るのも、他の人の目があったならばなんと淑女らしくないのだときついお叱りを受けただろう。けれど今は二人きり。こうしていると前世の女子高生のようで少し懐かしくなる。紙パックのジュースがあればもっと良かった。



 何故この場所に居るのかといえば、隠れ家の方はクレイスくんと出会ってしまう可能性があるので、行けなかったのである。




「恋愛マスターなんだねぇシュシュちゃんは」



「恋愛なんかしたことないよ? 前世でも今と同じ歳くらいまでしか生きられなかったし、病院暮らしってわけでもないけど身体は弱くてあんまり学校にも行けなかったから。ちょっと体調の良い日は料理ばっかりしてたよ。彼氏どころか友達も少なかったし」



 初めて聞く話である。だから少し世間に疎いというか、無鉄砲なところがあるのだろうか。友人となった今ではそんなところも愛おしい。



「結構鮮明に覚えてるんだね。私はね、覚えてないことも多いよ。社畜で……余暇もほとんどない中で画面の向こうの女の子たちに励まされてたのは一番大事な記憶だったんだろうね。それだけは今も私の心の中にあるんだ。楽曲も推しのは全部覚えてる」



 他が総じて朧げということは、身近に覚えていたいと思える人は居なかったのかもしれない。少なくとも彼氏や友人に囲まれているような人生ではなかったのだろう。家族は……もし思い出して悲しくなってしまったら嫌なので、敢えて考えないようにしている。



「変わった記憶の残し方だよね。……私達以外に同じ転生者が居るかもわからないけどさ」



 シュシュちゃんが脚を組み替えたので、動きに合わせて私もスカートを握り直した。やはり今のところは離せなどとは言われない。




「で、まあ……恋愛マスターでもなんでもないけど。話を聞くだけならいいよ。ユリーシア様にも相談出来ないんでしょ?」



「だ、だってだって……! 政略結婚云々の話とかもしなきゃいけなくなっちゃうでしょっ」



 昼休みに入るなりシュシュちゃんの教室まで走って行って好きな人が出来たから話を聞いてと捲し立てた時点で何故か『あーハイハイクレイス様のお話ね』と言われてしまったので、好きになった相手を隠すことはしていない。もともとそこまで話すつもりでは居たのだけれど、シュシュちゃんはきっと察しの良い子なのだろう。恋愛経験がないなんて言いながらやっぱり恋愛マスターだ。




「政略結婚の件は……盛大にしたかったのは分かるけどね、暴走しすぎだよ」



「だって、好きな人が出来るなんて思わなかったんだもん! 私、記憶の限りでは推し以外にときめいたことなんてないの。誰かを好きになるって幸せなだけだと思ってたのに……私がクレイスくんの初恋なのかな嬉しいなあって気持ちと、これから彼が他の人を好きになったなら悲しいし辛いしそうしたらお部屋からすら出られなくなっちゃいそうだなあって……」




 妖怪令嬢に大喰い無作法令嬢の次はニート令嬢。いや失恋引きこもり令嬢だろうか。



「……まどろっこし、……いや……。ね、ルルちゃん。今でもまだ、クレイス様がゲームの攻略対象かどうかって知りたくない?」




 いつかされたのと同じ質問。けれど私の答えはあの時と変わっていない。



「そんなことどうだって良いよ。お話しの中でどうだったかは知らないけど私が見てるクレイスくんが全部だもん。前と違ってシュシュちゃんには好意的だけどそれは友情でしょ? ……分かっててもあんまり仲良くされたらきっとやきもちやいちゃうけどっ。誰かがクレイスくんのことを想像してこうだって決め付けて書き連ねたことなんかは知らない。大事なのは私が好きになったクレイスくん本人に、好きな人が居るのかとか、これから出来るのかとか、そういうことだから」



「……そう」



 やれやれ、といった風にシュシュちゃんが肩を竦める。それから少し考え込んで、スカートを握っていた私の手にその小さな掌を重ねてきた。


 そして、何を言うかと思えば。



「さっきから思ってたんだけど……ルルちゃん、もしかして私のパンツ見たいの?」



「そんなつもりないよっ。見せてくれるなら見るけど!」



 狙っていたわけではないが、見せてくれるというなら有難く拝ませてもらう。けれど私は痴漢令嬢ではないので無理強いだけはしない。



「クレイス様の気持ちも同じじゃないの?」



 シュシュちゃんのパンツと? クレイスくんが他人のパンツのことを考えているようないかがわしい人には思えないけれど。それともクレイスくんにスカート履かせて捲ってこいってこと?



「サイズあるかな……」



「何のサイズかは聞かないでおくね。……私のパンツの柄もクレイス様の気持ちも他人が決めることは出来ないでしょって。ルルちゃんのこと推しとしてしか見てないかもとか想像してるのかもしれないけど、そんなのクレイス様にしか分かんないじゃん。ガチ恋勢とかそういう言葉だってあるんでしょ? それ以上に……アイドルとファンって距離感で接してきたわけでもないし。対等な友達として過ごしてきた時間の積み重ねだってある。そんなに遠い距離感でルルちゃんのこと見てないのは理解してるでしょ」



 例え方が歪だけれど、シュシュちゃんが言わんとしていることは分かる。私がうだうだ悩んだところでシュシュちゃんのパンツの柄もクレイスくんの想いも変わるわけではないのだから、勝手に決めつけてうじうじするなということだ。

 もしこの気持ちを伝えたならば、少なくとも恋愛相手としての選択肢には入れてもらえるかもしれない。




「まあ……手酷く振られるとかそんなことは絶対にないから、もうちょっと気持ちを解しなよ。もし悲しい想いをするようなことがあれば、……そうだね。私がぎゅーって抱き締めてあげるから」



「シュシュちゃん……」




 確かに、クレイスくんのことだからもし私の気持ちを受け入れることが出来ないにしてもきっと優しく伝えてくれる。

 それに、失恋した時に受けとめてもらえる場所があると思うとすごく心強かった。





「ちょっと元気になったかな? さっきまで青かった顔色が良くなってる。もしまた不安になったらちゃんと言ってね。……私達、転生仲間なんだし」






 パンツの話も私が暗くなりすぎないように程よく茶化してくれたのだろう。



 恋愛経験がない、なんて言ってもやはり乙女ゲームの民なのだろう。恋愛マスター、と呼ぼうとしたら肩を竦めたシュシュちゃんに遮られた。



「……まあ、今更っちゃ今更だけど、攻略対象云々については聞かれても知らなかったけどね。パッケージちらっと見ただけだったし」





 そう言って、彼女はあっけらかんと笑った。






 



 パンツの話しかしてないですね。





 読んでくださってありがとうございます!

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