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見つけて






 ──見つけてほしかった。



 ──応援してほしかった。



 私自身がアイドルになりなかったわけじゃない。でも、一番欲しかったものはこの世界になかったから。手に入れたくて頑張った。



 『アイドル』っていう概念にずっとずっと励まされてきて、応援してもらった。それはきっとリアルのアイドルが好きな人でもゲームのアイドルが好きな人でも同じだ。




 けれどないものは作らなきゃ無かったから。自分が一番最初の存在になって誰かが続いてくれたら。私はその誰かに応援してもらえる。




 応援してくれる人がほしかった。目標に向かって一緒に走ってくれる人がほしかった。




 忘れかけていたその夢にきっかけを与えてくれたのはクレイスくん。



 一緒に走ってくれるのもクレイスくん。



 嘲笑に気付かない振りをして、傷付いてないと強がって。そんな私を見つけて救い上げてくれたのも──、クレイスくんだ。



 私がほしかったもの全てがクレイスくんに詰まっている。



 先程音を立てて転んだ私の心がまだくるくると回っている。

 恋という感情に気付いて、けれどこの気持ちにも蓋をしてしまいたい。



 いつものようにありがとう大好きって言いたいけれど、あんなに簡単に伝えられていたはずのその言葉が出てこない。

 一度口に出したらきっと想いまで溢れ出してしまうから。



「……っ、ぐ、ぅ……」

 


 先程から涙が目尻に溜まっては流れていく。


 なんと情けない泣き声なのだろう。好きな人の前ならもっと可愛らしい声が出ても良いものを私の声帯は唸るような嗚咽しか出してくれない。



「……ルル。気分を害しただろうか」



 滲む視界の先でクレイスくんが心配そうに、祭壇と私を交互に見ている。


 祭壇にはびっくりしたけれど……、気分を害したなんて、そんなわけないのだ。



 嬉しくて、とんでもなく嬉しくて。飛び跳ねたいくらいに心は弾んでいるはずなのにちょっぴり悲しい。



「ちが……、あの、あの時の私っ……ちゃんと見つけてくれた人が居たのが嬉しくてっ……」



「俺以外にもお前に憧れた人間は居る。ユリーシアだってそうだ」



 私のことを陰から見守ってくれていた人たちのことも知っている。クレイスくんが教えてくれたから。ユリーシア様があの日の私のことを覚えてくれていたのだってもちろん嬉しい。初日に言ってもらえた言葉は忘れていない。嬉しけど、違うんだよクレイスくん。

 私の心がこんなに揺さぶられてるのはきみのせい。



「……っ、ありがとう……」



「……再会……、と言って良いかはわからないが。ルルは多数の招待客の中の一人でしかなかった俺を認識はしていなかっただろうから。学園で初めて会ったあの日……、それからも時折。妖怪令嬢なんて言ってすまなかった。あんなに誰かを夢中にさせられる存在を人間と表現するのは、なんだか違う気がしたんだ」



 さっきも聞いたよ。特別だから妖怪と表現したんだって。でも、普通そういう時は女神とか天使とか形容するものなんじゃないかな。そんな風に心の中でツッコミを入れるけれど、堕ちたばかりの私の心はそんなところも好き、なんて馬鹿みたいな感情でいっぱいになっている。



「いいよ。妖怪でもなんでもっ……、私、クレイスくんのおかげでユリーシア様と仲良くなれて……シュシュちゃんとも打ち解けられてっ……、何よりクレイスくんと居るのが楽しい。クレイスくんのお陰で幸せだよ……」



 ぐずぐずと鼻を啜りながらの掠れ声はどれだけ届いただろう。けれどたくさんの感謝の気持ちと、その裏に大好きを隠して目一杯伝える。

 告白する勇気なんてない。いや、資格がないのだ。お父様たちと政略結婚の約束がある。けれどそんなのは言い訳だ。


 ……振られるのが怖い。



 きっと、いつか話してくれた初恋の相手というのは私なのだろう。

 けれど、今、クレイスくんが私に向ける感情は?


 あの日の馬車の中、私とはお付き合いしないって言っていた。


 お部屋の祭壇が片付けられていないのだから、嫌われてはいないだろう。

 けれど、その好意はあくまで『推し』に対するもの。



 私はいつも楽しく生きていたいから。周りの人にも楽しく生きていてほしいから。もし失恋なんてしてしまったら、振られた私も振ったクレイスくんも楽しくない。それを見てしまったユリーシア様やシュシュちゃんだって楽しくなんかないだろう。




「……悲しくないのだとしても、泣かないでほしい」



 そう言って、握っていた掌を離して私の目尻からとめどなく零れる涙を拭い去る。



「……っ、や、優しくするなぁっ……!」




 嬉しいくせにそんな言葉しか出てこない。自分は可愛いと言い張ってきたくせに。よりによって好きな人の前でこんなにも可愛くなくなることが出来るなんて。

 この世界に生まれ変わって初めて自分を嫌いになりそうだ。



「優しくしたい。笑った顔が見たいから」



 女たらしみたいなことを言って、親指で私の瞼を撫でてくる。なんでこんなことをされているんだろう。

 窓から差し込んだオレンジ色の夕日がクレイスくんの背中を照らして、その存在を主張していみたいだ。クレイスくんが見つけてくれたあの私の私もこんな風に彼の目に映っていたのかな。





 しゃくりあげてしゃくりあげて十数分は経っただろうか。


 やっと少しは落ち着いて、けれど瞼が重くて腫れているのを感じる。きっと今の私は美少女とは言えないだろう。好きな人の前で、最悪だ。

 そろそろユリーシア様とシュシュちゃんのお話も終わる頃だろうけれどこんな顔で二人の前には戻りにくい。


 もう涙は出ていないはずだけれどそれでもまだ顔に水分が残っている気がして、ごしごしと拭っていたからワンピースの裾はしっかり濡れてしまった。いつの間にか右手は解放されていて、それがとても寂しい。




「その顔で戻れないだろう。後で濡れたタオルを持ってこさせるから……落ち着いたら今日はもう自宅で休んだ方が良い。シュシュ嬢には伝えておくから」


「……っ、だいじょ、ぶ」





「今のルルの顔を見たらあの二人も心配する。本番が近くなってきたこの状況でユリーシアの気掛かりを増やしたくはないだろう」



「……っ、そう、だけど……」



 なんて心が狭いんだろう。ユリーシア様の名前が出たことであんなに優しいユリーシア様にまで嫉妬してしまう。誰が言い始めたのか知らないけれど、恋は人を愚かにするって本当だったみたいだ。



「落ち着いた頃に家の者に送らせる。それまでは……居辛いかもしれないがこの部屋で少し休んでいてくれ」



 そう言って、クレイスくんは退室してしまった。


 

 ──もう少し一緒に居てほしいなんて、言えなかった。 




 読んでくださってありがとうございます!


 クリスマスくらいから書き始めたのですが自分の中ではたくさん書いたなあ、と思います。

 そしてやっと此処まで物語を進められたなぁと。




 皆様の存在あってこそ、此処まで来ることが出来ました。


 読みに来てくださる皆様と、一緒に歩んでくれるルルシアたちに感謝です。

 特にブクマ、評価、いいねや感想をくださった方には返しきれないほどの恩を感じております。それに報いるためにももっと文章力や表現力をつけていきたいです。

 ……書き続けて上達するしかないですね。



 これからも宜しくお願いいたします。

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