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転がる気持ち




「…………すまない。言葉が荒くなった」



「いえ、誰にでもそういう時ってありますよね」



 ましてやデリケートな話だ。無神経な受け答えをしているのは私の方かもしれない。

 まだ話の途中のようなので、続きを大人しく聞いていよう。



「いじけていたんだ。事故で両親を亡くし……新しく出来た家族はみんな優しかったのに、勝手に独りきりだと思い込んで何故自分だけがこんなに不幸なんだと悲観して」


「えっ」



 公爵家にユリーシア様という女児しか居なかったから、ご親戚から養子をもらったとかそういう話なのだと思った。両親はご健在なのだと。けれど、そんな悲しい形でお別れをしていたなんて。



 そんな風に殻にこもっていたクレイスくんというのも想像が出来ない。とってもお姉さん想いだし、義父であるはずの公爵様のこともあのジジイ、なんて呼べるほどには打ち解けているはずなのに。



「…………意外か?」



「はい、……でも、そんなに幼い頃にご家族とお別れしていたなんていじけても仕方ないです。それよりも……立ち直って、きちんと前を向いているクレイスくんは立派な人ですよ」



 私を見上げる視線が、縋るようなものになるのを感じた。



「前に……話しただろう。変わるきっかけがあったと」


「はい……」



 二人で出かけた日。クレープを食べながら話してくれた。




「心配してくれた伯母上に無理やり連れ出された茶会に、奇妙な歌とダンスを踊る女の子が居た」



 奇妙な……身に覚えがある。




「同じ年頃の女の子が大人達の嘲笑も気にせず一生懸命……夢中で、汗だくになりながら笑顔で歌って踊っていた。曲の最中はずっと……俺に向けて言ったわけではないだろうが、大丈夫だと励まされている気持ちになったんだ。……あの時から、俺の人生は変わった」



「…………」



 そんな催しを開催する人物に、心当たりは一人しかいない。握られた掌に指が絡められて、クレイスくんの口元に導かれる。

 指先にキスをされるかと思ったけれど、その動きは吐息が掛かるギリギリのところで止まった。唇同士ではないけれど、指先へのキスもクレイスくん的には粘膜接触に入るのかな、なんて考える。




 なんだか現実味のないような、ふわふわした気持ちだ。この先の言葉を聞きたいという期待と、私が求めているものじゃなかったら怖いから聞かないままでも良いという二つの感情がせめぎ合っている。

 聞きたいけれど、耳を塞いでしまいたい。

 けれど、片手は捕らわれたままだからそれも叶わない。



「物の怪パーティーの、私のあの舞台で、です、か……?」



「そうだ。誰も掬い上げることの出来なかった、沈んだ心を引っ張り上げてくれた。不思議で──、それでいて可憐で、目の離せない存在だった。理解の及ばない、けれど素晴らしい何か──もしかしたら物の怪の類いかもしれなかった」



 物の怪、という言葉にそんな価値を見出しているのはクレイスくんだけだ。その言葉に含まれるのは多くの場合は侮辱で、クレイスくんと仲良くなった今だって彼の口から発するそれは友人同士の揶揄でしかないと思っていた。




 自分の中でほつれてぼろぼろになっていた部分を優しく撫でられているような、そんな気がする。




 黒歴史、そう烙印を押して自分で失敗だと決め付けたあのパーティー。やるだけやって後はもう知らないと投げ出した。


 けれど、知らないところで誰かを救えていた。




 いや、あの日の私を認めてくれていた存在が居たことは知っている。


 けれど、それすらクレイスくんが教えてくれたからだった。




「あの日のお前は誰よりも輝いていた。その光に追いつこうと……いつかお前と再会しても恥ずかしくないように、きちんとした大人になるために……まずは勉強に取り組んだ。ピアノを習ったのはルルシアがいつかまた歌う時に俺が伴奏をしたかったから。剣術は……あの笑顔を守ってやりたいと思ったからだ」



「…………っ」





 そこまで言われてしまって、黒歴史として封じたはずの記憶が色をもって蘇る。

 幼かったあの日の感情すら鮮明に。




 どうしよう。今まで気付かない振りをして気持ちが堰を切ったように溢れ出す。



 本当はあの日の失敗が悔しかった。自分がアイドルになるのが最終的な目的だったわけじゃない。実力も、自らがアイドル活動をすることに対しての熱量も、足りなかった。それでも自分なりに一生懸命やったし、アイドルという素晴らしい存在をこの世に知らしめてやるという、その気持ちだけは本物だった。

 だからこそ歯がゆくて……悔しいなんてそんな感情、黒歴史と共に記憶の底に封じたはずなのに。



 大人達の呆れ笑いと子供達の気まずそうな失笑。黒歴史なんて茶化していたけど本当は悲しかった。それを誤魔化すためにも物の怪パーティーなんて揶揄されるくらいが丁度良かったのだ。失敗しちゃった、なんてへらへらしてられるから。



 だというのに。なんで今になって、こんな風にすべてを肯定するの。





「俺が変わったきっかけは、……ルル。お前だ」




 やばい。本当に、駄目だ。それ以上言わないで。




「あの日……お前を見つけられて良かった」




 溢れる涙と一緒に、心の奥で音がした。





 ──恋に落ちる、音だ。







 どうだったでしょうか。引き続き特に大事に書いた部分です。


 この作品を読んでくださったこの時間が皆様の『楽しい』に繋がっていますように。



 宜しければ評価、ブクマ、いいねや感想やレビューなどいただければ飛び跳ねて喜びます。ダチョウと一緒にビルドアップもします。



 読んでくださってありがとうございました!


 これからもぜひ宜しくお願いいたします。

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