あの頃の自分たちは
何故か部屋に連れ込まれて、何故か私の推し壇? があってそれを見せられて……今から説明するから座ってろと椅子を勧められてお茶を出された。今日はミルクティーだ。美味しい。
……いや、呑気にそんなことを考えている場合じゃないのは分かる。何故クレイスくんが私の推し壇を? いや、でもどちらかと言えば疑問より興味の方が強い。あの推し活グッズらしきものはクレイスくんが自分で作ったんだろうか。良く出来たものである。
あの発想をお借り出来ないだろうか。将来もアイドルという存在の発展に関われるのだとしたら、物販なんかも実現したいと思っていたのだ。発案者としてクレイスくんに売上の何割かを入るようにして、許可をもらえないかな。
「ルル」
「えっ?」
いけない。相談があるんだったよね。突拍子もなく見せられたものに驚いたのと、工夫に感動して意識が飛んでしまっていた。
「…………嫌われてないだろうか。気持ち悪いだとか、そう感じたりは」
「嫌いませんって。…………いや、まあびっくりはしたけど。小さい頃から私は可愛かったですからね。推したくなっても仕方ない。それに、こういう祭壇って作るの楽しいですよねー」
あれだけ妖怪妖怪言いながらひっそり推してくれていたとは。素直じゃないなー。……でも、嬉しいな。
「……お前は教祖じゃない」
「あっ、ハイ。いくら私でもそこまで調子に乗っては……ええと、」
しまった。祭壇なんて単語を出したから我こそは教祖であるこれからも崇め讃え給へみたいに聞こえたのだろうか。
いや、クレイスくんに崇められた覚えなんてないけれど! 優しくはしてもらってるけどさ。妖怪扱いだからね。
「……教祖ではないが、お前は……俺にとって特別だ」
そりゃあ、まあ……未だに妖怪疑惑を完全には払拭出来ていないみたいだし、クレイスくんの中での私は普通の人間とは違う位置に置かれているだろう。親友……でもあると思うし。良くも悪くも色んな意味で特別だと言えなくはないだろう。内心推してくれていたというのなら、そういう意味でも。
分かってるよーなんて頷いていたのだけれど、椅子に腰掛けている私に立ったままのクレイスくんが距離を詰めてくる。
『特別』なんて口にしたそのままの凄く真剣な表情で。
まるで、告白でもされるかのような──。
「まずは、ありがとう」
……あっ、違う。こちらから告白したわけではないけれど、まずはありがとう構文ってあなたに特別な好意はないけれど感謝してますって意味だった気がする。調子に乗ってごめんなさい。
「はい……。えっと? 特別感謝される覚えはありませんが。今回の計画については私が一番楽しんでいますし……」
「……今回の件もだが、もっと昔だ。俺は、お前がいなければ何も出来ないままだった」
そう言って、私の眼前で跪いて手を握られる。
折角自由になったのにまた捕まってしまったけれど、それよりも公爵令息を跪かせて良いのだろうか。いくらお友達相手とはいえちょっぴり恐れ多い。
椅子から降りて対面に正座しようかな、と身動ぎするとそれを制止するかのように強い眼差しで見上げられた。
……なんというか、顔が良い。真剣な顔をしているから尚更。
「あのっ、クレイスくんは格好良いし……努力していろんなことが出来るようになって、素敵な人ですよ……」
急に場の雰囲気が変わった気がして、なんだかたじろいでしまう。
『格好良い』だとか『素敵』だとか、今まで何度も伝えてきたはずなのになんで今日に限ってこんなに緊張するんだろう。
かち合ってしまった視線も外したいけれど、それも許してはもらえそうにない雰囲気だ。
「十年前、お前の家に招待された」
「物の怪パーティーですね」
物の怪パーティーではないけれど。最近は便宜上そう呼ぶこともある。以前まではその呼び方がとても不服だったが、ユリーシア様のレッスン中のお姿を見るようになってからは自分の実力や熱意不足も原因だったのだろうな、と少しだけ納得している部分もあった。
「あの茶会を機に、お前に魅入られた者が居るのは知っているな」
「はい。クレイスくんに教えてもらいましたから。……有難いですよね。あの時の私は足りないものが多すぎました。だから、こんな催しは取るに足りないって切り捨ててしまった人の方が多かったと想います。……私にもっと力があればそういう人たちだって楽しませることが出来たはずなのに。それでも応援してくれる人が居ただなんて、とっても嬉しかったです」
こっそりと見守ってくれていた人たち。もう私はステージに立つことはないけれど、その存在に心が温かくなる。
「…………俺も、そうだ」
こんな祭壇を作るくらいだから、そうなのだろう。お友達のお部屋にこういったものがあると知った今、ちょっぴりくすぐったいけれど。
「えへへ、ありがとうございます。……照れちゃいますね」
「……お前は……自分がどれだけのことを成したのか、分かっていない。少なくとも俺は……お前という存在がいなければ人並みの生活を送れていたかすら分からない。初めてルルを見たあの日から、お前に憧れ、救われた。……昔の俺は……、公爵家に引き取られてから数ヶ月……、無気力で引きこもりのクズだったんだ」
「…………」
クレイスくんの語り口は真剣で、向けられた眼差しもとても真摯だ。きっと今、打ち明けにくいことを話してくれている。
けれど、初出の情報が多すぎる。
「クレイスくんは公爵様の実子ではないんですか?」
「……隠しているわけではなかったが、ルルの様子から知らないのだろうとは思っていた。わざわざ話すタイミングもなかったが。ユリーシアは俺の義姉──、正確には従姉妹だ。……いや、今はそんなことはどうでも良い」
「えっ、あんな綺麗なお姉さんが急に出来て恋に落ちなかったんですか」
十年前が初恋って言ってたよね。もしかしてユリーシア様のことだろうか。
「気持ちの悪いことを言うな。姉は姉だ。……話を続けさせろ」
「え、はい……」
空気がピリッとする。いつもぶっきらぼうながらに優しいのに、クレイスくんがおかしい。自信過剰な彼が、自らをクズであったなんて表現したのもそうだ。
取り乱している自覚があるのか、自らを落ち着かせるように首を振っている。
大分、取り乱しているようであった。
いつも読んでくださりありがとうございます!
こんな深夜に投稿してみました。大切にしたい部分だったので、書いたり消したり書いたり消したりでやっとこ仕上がったところです。
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