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祭壇




 やたらとシュシュちゃんが生命活動を止めようとする一日だったが、幾らか落ち着いたらしく深呼吸している。

 けれどやはりオタク独特の生態を理解していないユリーシア様からしたら心配のようで少し自室で休ませてくると言っていた。ルルは待っていても良いし先に帰るなら馬車を用意させるから、と言って。

 ……いや、推しの自室とか過激すぎないかな。シュシュちゃん本人は大丈夫ですからと遠慮しているのを意外にも力の強いユリーシア様が無理やり引き摺って行ったし。また死にかけないと良いけれど。

 ただでさえ私達は一度死んでいるのだから割と洒落にならないだろう。



 ピアノの譜面台を片付けているクレイスくんの方を振り返る。




「あの、シュシュちゃんが心配なので此処で待っていても良いですか?」



「駄目だ」



 即答。なになに? やっぱり政略結婚云々のこと、怒っているのだろうか。



「……待っているのは良い。だが、此処に居てもすることはないだろう」



 確かにユリーシア様が去った今、この小ホールで私が成すことはなにもない。



「ではお外で……」


「外は寒い」




 なんやねん、って言葉が口から漏れそうになった。前世は関西人ではないはずなのに。

 いやでも本当にどうしろっていうんだ。



「…………俺の部屋に行く」



「……………………は?」



 俺の部屋? クレイスくんは自室に帰ると。


 え、分かったけどそれは自分は帰るからお前は好きにしろなのかそれとも一緒に行こうなのか、どっち?



 いくら怒っているとはいえクレイスくんが友達をぼっちで放置するような子ではないことは知っているけれど、だからって異性を部屋に招くか?


 なんて、ぐるぐる考えていると腕を掴まれた。先程のシュシュちゃんよろしく引き摺られて連行されている状態である。しかもやっぱり力強い。人拐い姉弟だ。



「あのあのあの、いくらお友達とはいえ異性のお部屋にはいるのは外聞がですね! しかもユリーシア様たち居ないから二人きりなわけで!」



「問題ない」



 だから、問題ないのはきみだけなんだってば!

 けれど離してくれないし、どんどん力も強くなっていってる気がする。



「……ルルに、見せたいものがある」



 そう絞り出したクレイスくんはなんだかいつもより凄く──深刻そうだ。



「悩み事ですか? それなら聞きますけど……」



 見せたいもの、というのもきっとその相談事にまつわるものなのだろう。と、なればやはりお部屋にお邪魔するしかないのだろうか。



「悩み事……、と言えばそうかもしれない。けれど、今からそれを見て──、嫌いにはならないでほしい。ルルに嫌われたら生きていけない」



「嫌いませんけど……、なんで今日はみんな生命活動の危機に瀕しているんですかね。お願いですから健やかに生きてください」



 シュシュちゃんとクレイスくんは仲良くなったみたいだし、二人の中でいろいろと大袈裟に反応してみせる遊びでも流行っているのだろうか。それこそ心臓に悪いので、出来ればほどほどにしてほしいものである。



 人拐い妖怪に引き摺られて辿り着いた先の扉は、まあ豪華なものだった。ユリーシア様のお部屋の扉もそうだったが、それに負けず劣らず。姉弟なのだから当たり前か。





「……分かった。これを、見て、ほしい……」



 緊張しているのか掠れ声で、そこはかとない色気があるなーなんてぼんやりと考える。相手はあのクレイスくんなのに。


 そしてその左手がレバーを引いて、開かれた扉の先に連れ込まれた。ちなみに未だにがっつりと掴まれたままだ。




 ──そうまでして彼が私に見せたかったものとは。




「…………私?」



 机の一角に、ルルシア・グラシューの顔がずらりと並んでいる。

 見る人が見れば怪しい宗教の教祖かなにかだと思われてしまうだろう。



 でも、私はこれを知っている。



 木彫りの板に私の肖像画を貼り付けたアクスタ……ならぬモクスタに、カフスボタンかなにかに同じように肖像画が貼り付けられた缶バッジもどきがいくつか並べられている。周りにはこの前買ったリボンの余りだろうか、それがいくつか装飾されて──



 うん。推し活する人はこれを作ったりするよね。つまりだ。




 推しの祭壇、推し壇である。



 




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