一回通して
そろそろ一度通してみよう、ということになった。つまりはリハーサルのようなものだ。本番の流れそのままに進行してみよう、ということである。
つまり、とっても楽しいこと!
本番に近いものが一足早く、しかも無料でみられるのだ。こんなの得でしかない。
会場はいつもの小ホールで、ユリーシア様には本番と思って通していただく。
サイリウムの代わりになるようなものがあれば、と考えていたのだが、クレイスくんが光る塗料を塗ったリボンを提供してくれた。先日のブティックで大量に購入していたのはこのリボンだったらしい。まだイメージカラーを決める前だったのに何故グリーンのリボンを用意できたのかと問うと、とりあえずあるもの全部購入したと言っていた。公爵家からしたら大した散財でもないのかもしれないが、余ったほかの色のリボンはどうする気なんだろう。
「ねえ、ルル。今更だけれど衣装の件まで貴女に頼んでしまって良かったの?」
「もちろんです! というかこれが楽しみで仕方なかったのでむしろ任せてもらえて嬉しかったです」
あれからこの話題についてクレイスくんもシュシュちゃんも触れてこなかったので、忘れてくれてるんじゃないかなーと期待していたのだがとても視線を感じる。しかもあんまり良い感情を含んでなさそうな視線だ。
よし、気付かない振りをしよう。
「さぁっ。当日の流れを確認しましょうっ。まずは軽く挨拶をして、その後一曲目に入ってもらいます」
一曲目は通称物の怪パーティーで私も披露した曲だ。そこで可愛らしいユリーシア様を見てもらい、まずは流れを掴む。
「ルル。今日は伴奏は俺がする。お前とシュシュ嬢は振りや歌を確信してアドバイスの方に回ってくれ」
「え? うん、それは有難いけど……」
「任されましたクレイス様っ!」
この二人、なんか仲良くなってる? いつの間にかシュシュちゃんのこと名前で呼んでるし。和解できたようで良かった。二人が仲良くなったならクレイスくんのあのぐずりのようなベタベタも少しは収まるかもしれない。社交界のマナーの一環なのは分かったが、習慣だとか練習だとかそういうものなら私以外にも矛先を向けてほしいのだ。エスコートしてもらっている身でこんなことを言うのは何だが、隣に居る人に配慮した所作をしないといけないというのは、やっぱり私にはちょっぴり窮屈である。
まあ一旦彼のことは置いておこう。ピアノを弾いてくれるのならその間は肉体的接触は無いだろう。
さて、本日の予定だが。リリィさんに依頼したドレスの納品は直前ギリギリになるのだけれど、少しでも本番と感覚を近いものにするため本日はユリーシア様ご自身の手持ちからシルエットの近いものを選んで着用してもらう。
「着替えてくるわね」
そう言い残し侍女さんと消えていったユリーシア様が再び小ホールへ戻って。
私は感激のあまり言葉が出ず。
シュシュちゃんはこの世の総てに感謝して咽び泣き。
クレイスくんはいつもの仏頂面でそんな私達を傍観している。
「踊れそうか?」
「まあ……一人で踊れば良いのだし、見せたがりなお相手との社交ダンスなんかに比べれば気楽なものだわ」
一番最初に人語を取り戻したのは、ユリーシア様トップオタとしての矜持か、それとも単純に以前このドレスを着用したユリーシア様を見たことがあるからなのか。
それにしても、見せたがりなお相手とは。目立ちたいがために相手の女性を振り回すような無作法者が居るのだろうか。
ああ、でも伯爵小僧あたりはそんな大人になりそうだなー。偏見かもしれないけれど。
「ユリーシア様ともなれば毎回ダンスのお誘いも殺到するんでしょうね。こんなに美しいんですもの」
「あら。そう言うルルもシュシュさんも、夜会に顔を出すようになれば男性が放っておかないわよ。二人とも社交ダンスは履修していて? 宜しければ今度わたくしが教えるわ」
「ルルには必要ないだろう」
お誘いにお返事する前に何故かクレイスくんがぶった斬ってきた。こんなんでも一応は侯爵家の娘なので、いつかのためにと教え込まれて多少の心得はあるのだが、せっかくユリーシア様にご指導いただけるなら有難くご教示いただきたいところなのに。まさか、私が少々お転婆だからって真面目にレッスンを受けないと思ってる?
「必要ですって。ユリーシア様、是非──」
言いかけたところで、隣からぜえはあと苦しそうな呼吸が聞こえてくることに気付いた。
「素晴らしいです素敵です。私……私、こんなに素晴らしい方になんてことを。…………ルルちゃん、介錯をお願い出来る?」
シュシュちゃんが両手を組んで涙しながら天を仰いでいる。
感動したのも以前の振る舞いを反省したのも分かったけれど、なんてお願いをしてくるんだ。受けるわけないでしょそんなお願い。
「……シュシュさんはどうしたの? わたくしが手伝いましょうか?」
この世界に切腹なんて言葉はない。なのでシュシュちゃんが何を望んでいるかがユリーシア様やクレイスくんには分からなくて当然なのだが、そんなものを手伝わせるわけにはいかない。
「ユリーシア様に介錯していただけるなんて……」
「腹切る手伝いしろって言ってますよこの子。絶対にユリーシア様はお手伝いしないでください」
私も手伝う気なんかはさらさらないが。
「え……」
ほら、クレイスくんが顔面蒼白で怖がっちゃったじゃんか。
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