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大したことじゃない




 人の皮膚とはこんなにも土気色になるものなのか。全身から血の気が引いたという風なシュシュちゃんはとっても具合が悪そうだ。




「大丈夫? 生理?」



「違うわ!」



 手を差し出したらばちんと叩かれた。しかも馬鹿って罵られた。酷い。


「今、なんて言ったの? 政略結婚?」



「え、そんなに心配しないでよ。大丈夫だよ。うちのお父様って私に甘いからいくら交換条件って言ってもそんな変な相手連れては来ないだろうからさ〜。でもエール公爵家も巻き込んでの話だから公爵様のお顔も立てられるように仲介者になっていただくんだ。だから公爵様がリストアップされた中からうちのお父様が選んだ人になるかなー」



 まあ、恐らく公爵様から渡される釣書はユリーシア様の婚約者候補から弾かれた人だろう。相手もそれなりの貴族ばかりだろうし、無碍に断るよりも新しい縁談を持ち掛けた方が心証は良いだろう。

 とはいえ公爵家と縁を結びたかったのに格落ちの侯爵家のしかも三女を押し付けられる羽目になるのだ。同情はするけれど、あまり不満を態度に出すような人じゃないと良いな。



「まあ昨日クレイスくんがお迎えに来てくれたもんだからお父様ってば勘違いしてたけどね〜」



 公爵様の斡旋してくれた政略結婚の相手がクレイスくんなのではないか、と。



「もうそれって決まってるの……?」



「そうだよ。あっ、でもユリーシア様には言わないでね。プレッシャー掛けたくないし。失敗なんてないって信じてるけど一応ね、折角ならいっぱい支援してもらって盛大にやりたいし」



 約束を違える気はないし、政略結婚を受け入れる覚悟はあるけれどあんなに素敵なユリーシア様の舞台が失敗する気もしない。

 万が一上手くいかなかったとしてもそんなに悪い条件ではないのだ。余程のことがない限りどうせいつかは結婚しなければならなかったのだし、それがエール公爵様から仲介された人になるというだけ。



「ユリーシア様には言わないけど……クレイス様は知ってるの?」



 両肩を力強く掴まれて前後に揺さぶられる。



 目が回るから止めて、と言おうとしたところで揺さぶられ後方に投げ出された私の視線がいつの間にか背後に居たらしいクレイスくんと目が合った。



「おかえりクレイスくん。ちょ、シュシュちゃん止めっ……」



 あ。駄目かな。シュシュちゃんのこと怖がってるもんね。

 けれど同じくクレイスくんの存在に気付いたらしいシュシュちゃんは動きを止めてくれた。



 土気色のお顔から今度は冷や汗のようなものがだらだらと垂れている。



「クレイス様、今のお話……」



「…………殴ってくる」



 えっ、誰を。なんか知らんがやめなさい。



「クレイスくん、意味もなくむしゃくしゃするお年頃かもしれませんが暴力は良くないです」



「クレイス様、今の話聞いて……、いえ。ご存知でなかったんですね」



「ああ。あのジジイ。ユリーシアのお下がりをルルに押しつけようとしているんだろう」



 えっ、この二人は仲良くないはずなのにこの場においては私だけが完全に無視されている。

 そんでクレイスくん、きみはなんつー表現をするんだ。語弊があるってば。



「殴んないでね! いくらパパーズとはいえ公爵様と侯爵様相手に約束したことを反故には出来ませんからっ。それに絶対に成功しますからっ。政略結婚だって別に普通のことだし!」



「俺が頼んだのが始まりだ。ルルが犠牲になるのは違う」



 犠牲だなんて。やりたいことを詰め込みすぎたのは私自身なのだ。



「私の料理披露とかどうでもいいからその約束撤回してきて」



 シュシュちゃんまでご乱心だ。



「いやいやもう買い付けの契約結んでるから無理だって。クレイスくんも。今回の件がなくたっていずれ結婚とかそういう話は出てきたでしょうし、それが公爵様からの仲介になるってだけで実際に私はなんの損もしてないんですよ?」



 だというのになんでそんなに二人して取り乱すのか。



「……ユリーシアに、もう隠し事はしないんじゃなかったのか」



 う。それを言われてしまうとイタイ。前世の件と違って今回は意図的に隠し通そうとしているのだ。でもでも、思い返してほしい。今回の計画がなんのためのものなのかを。



「一番はステージの成功です。ユリーシア様の現状を変えることを目的に始めたんでしょう!? 今はあいつら大人しいですけど、またいつ絡んでくるとも限らないし大成功させて突っかかってこられないだけの状況を作らないとっ。私のことは良いから各々の役割に集中してください!!」



 怒られることは覚悟していたけれどここまで深刻なことのように扱われるとは予想していなくて、ちょっぴりイライラしてしまった。



 拳を握りしめて叫んだ私は、後から思えば随分と子供じみていた。



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