好きな色は?
結局その後いくらかお話して帰宅という流れになった。ユリーシア様が帰宅されていればリリィさんからいただいたドレスの図案をお渡ししたかったのと、公爵様に用があったのでエール邸にお邪魔した。
ユリーシア様はご不在だったが公爵様への用件は果たせたのでまあ良しとしよう。図案はクレイスくんに渡しておけば良いのだし。
「…………親への挨拶は不要と言っていなかったか?」
「ただの挨拶じゃないです。ビジネスの話を持ってきたんですから」
「…………ビジネス」
なんで不満そうな顔するかな。おまけにエール邸から我が家まで送っていただく馬車に乗り込もうとしてきて、どうあっても我が父に挨拶がしたいらしい。
「もしかしておじ専です? 確かに私のお父様だけあって美形ですが愛妻家なのでクレイスくんの入り込む余地はですね」
「わけのわからない話をするな。必要だろう挨拶は」
別に家に泊まりに来るとかそんな話ではないんだし必要ないってば。知らんけど、多分。
「クレイスくんちは知らないけどうちは必要ありません! もし次にクレイスくんがぼっちで寂しい日があっても遊んであげませんよっ」
可哀想な言い方かとも思ったが叱るとやっと引き下がってくれて、なんとか帰宅出来た次第だった。
まあ、帰宅してからもやはりというかなんというか。公爵令息が家に迎えに来ただのという話を聞いてお父様は浮かれていたので、きちんと訂正しておいた。他に話しておくこともあったし。
そんなこんなで二家の親に許可を取る必要があったことといえば。
「そんなわけで。我が侯爵家の名前でエール公爵領の食材を買い付けておいたから。シュシュちゃん、お茶会のお料理宜しくね」
お馴染みのエール邸小ホールで。本日はレッスンよりも作戦会議メインだ。議題は二つ。まずは当日の接待について。
「…………本当に話をつけてきたの?」
あれ。喜んでくれると思ったんだけどな。そんなに供給がないということだったが、需要に対してギリギリというわけでもないらしく侯爵家の名前を出して交渉したらすんなりと話がついたのだが。まあ、流石に無断で侯爵家の名前を出すことは出来ないので事前にお父様に相談はしていたが。
「嫌だった?」
「嫌なわけない、けど。……いいの? 練習まで参加してる身で今さらだけど私は今まで結構なことを貴女たちにしてるわよ」
「前までのこと蒸し返したって仕方ないじゃない。今までにないものを浸透させようっていうんだから目新しいものはたくさんあったほうが良いんだよ」
私も料理の心得がないわけではないが、それは前世の話だ。今世でお嬢様として生を受けてからは調理器具にすら殆ど触れていないし、これについてはシュシュちゃんにメインで頑張ってもらうしかない。
「ルルちゃんやユリーシア様がいいなら喜んでやるけど……」
「請け負ってくださるなら助かるわ。宜しくねシュシュさん」
「はいお任せください全力を尽くします」
おお、一息。やっぱり推しから直接頼まれちゃったら断れるわけがないよね。
まあ、こちらは話がついたということで。もう一つの議題に入ろう。
「クレイスくん、ユリーシア様にドレスの図案は渡してくれた?」
「ああ」
良し。ならばご本人も既に目を通してくださっていることだろう。
「気に入ったデザインはありましたか?」
「ええ。どれも素敵だったわ。……けれど、わたくしが着るにはなんというか……どれも甘すぎないかしら」
「ギャップ狙いですからね〜。新しい一面を引き出してくれるはずですよ。絶対にコレ! という一着があるわけではないのなら、イメージカラー決めも兼ねて皆で話し合いましょうか。あっ、でもユリーシア様の意見が優先ですからね! 私たちはそれぞれの見解をのべるだけです」
会議と聞いて執事さんが予め長テーブルを運び込んでくれていたので、そこに図案を広げる。やはり、リリィさんの想像力は素晴らしい。どれもよりユリーシア様の魅力を引き立ててくれることだろう。
「イメージカラーって決まったらそれ以外の色の衣装は着たらいけないの?」
「そんなことはないけど、初めてのライブだからイメカラと衣装は合わせた方が良いと思う。ユリーシア様なら何色も似合うからな〜、迷っちゃうよね」
甘めでいくなら安直にピンクや水色のパステルカラーだろうか。でも、可愛らしさを押し出すのはもちろんだけどその凛々しさも表現してくれるような色が良い。
「青はどうだ? しっかりしたユリーシアのイメージにぴったりだ」
「私は赤を推します! 悪を倒すリーダーはいつだって赤ですから」
なんとなく前世でシュシュちゃんが何を好きだったのかがわかる発言である。というかその悪というのは伯爵小僧のことなんだろうか。友達じゃないんかい。
シュシュちゃんと意見が割れたことでまたもやクレイスくんは私の後ろに隠れてしまったし。
「難しいよね、青は……歌唱力への期待がとんでもないことになるからね、やめよう」
ごめんねクレイスくん。こちらの人々の潜在意識にそんな刷り込みはされているはずはないけれど。
「なんの話だ」
「多分ルルちゃんが住んでた界隈の話です。じゃあ赤でいい?」
すかさず自分の意見を押し通そうとするシュシュちゃんだが、重要なのはユリーシア様の気持ちなわけで。
「ユリーシア様はどうですか? 髪の色と同系統の黄色でも良いと思いますが……もう少し大人っぽさもほしいかな」
私も意見を出したいところだが、どうにも前世で刷り込まれた認識が邪魔をして積極的な提案が出来ない。
悩んでいると、ユリーシア様は私の眼前まで歩み寄り──、その細い指先で右頬を包み込んでくれた。
「緑が良いわ。それ以外受け付けないから」
ちょっと我を出し過ぎた気がします。大丈夫かな。
はい、私はアレとかソレが大好きな人間です。いいですよね、いつも素敵な時間を提供してくださって大感謝です。




