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いつかのあの光景



 散策、というより隣に居るのがクレイスくんだとちょっとした探検気分である。



 護衛さんたちが着いて来やすいところの方が良いかと尋ねると、なんと護衛さんはいないらしい。体術と剣術の嗜みがあるので自分と私の二人くらいなら守りきれると。クレイスくんの今日の装いは私と同じく高位貴族とまでは思われないだろうが、裕福なお家のご子息かなといったシンプルながらも質の良さが分かるものだ。そこに、確かに腰からなにかをぶら下げてるなーとは思っていた。

 妖怪が怖いんだからきっと幽霊とかも苦手だよね。でも実体のある人間相手になら立ち向かえるのか。不思議な子だ。



 本職の護衛さんが居ないというこの状況に普通のご令嬢なら卒倒したかもしれないが、私の場合は行く先々に我が家の侍女やら護衛やらが着いてくることにうんざりしていたので程よい開放感がある。



 お買い物をしようかという話になったのだが、クレイスくんは先程ブティックで何かを購入していたし、私も特に買いたいものはないので公園のベンチに腰掛けて雑談することにした。学園でのランチタイムや馬車の中としていることは変わらない気がするのだが、先程いちごのクレープを買ってもらったのでそれを頬張りながらだ。

 奢ってくれるというのを遠慮しなかったのは、食べ物を持っていれば私の可愛い右手ちゃんが解放されるだろうと踏んでのことだった。


 淑女とか関係なく普通に食べにくいからね、片手じゃ。目論見は成功して、私の右手の自由は返還された。



 意外にも甘い物も結構いけるらしいクレイスくんはバナナのクレープを食べているけれど、日本だと仲良い子同士だとシェアしたりするよね。異性だとしないかな?



「クレイスくんクレイスくん、私のも一口食べます? かじっていいですよ」



「…………間接的とはいえ粘膜接触はしない」



 すんごい嫌そうな顔をされてなんか嫌な表現をされてしまった。

 この子キスのこと粘膜接触っていうタイプ? 間接キスは間接粘膜接触? 聞いたことないんだが。



「…………異性への距離感がおかしいから、俺以外にはしないように改めた方が良い」



 え、なんなのこの子。どの口がって言いたいのをぐっと堪える。



「しませんよ。私にクレイスくん以外の男友達が居るように見えます?」



「そうか。ならいい。……新しく男友達が出来ても絶対にするな」



 いや、しないが。女の子が相手だとしても間接キスを許容できる範囲というものがある。ちなみにシュシュちゃんならお互い大丈夫という確信があるし、ユリーシア様は……嫌ではないけれどちょっぴり恐れ多い。




「言われなくてもしません。それよりクレイスくん、剣術の心得があったんですね」



「十年前から始めた」



 それは初恋の君の影響か。私という怪異を倒すためか。


 後者じゃないといいな。

 


「クレイスくんは……、真面目ですね」



 学業も学年上位。剣術もその身に収めているし、おまけにピアノも弾ける。

 どれも努力なしで出来るようなことじゃないから、すべて真面目に取り組んできた結果なんだろうな。




「……何でも出来て羨ましいとか言わないのか?」




「え? 自分で言っちゃいます? 最初から何でも出来たなんてそんなわけがないでしょう」



 そんなことを言われたら僻む自信しかない。世の中のどこかにはそんな人も居るかもしれないが、身近に居たとしたら妬み嫉んでしまいそうなのでどうか違うと言ってくれ。



「……昔は、何も出来なかった。きっかけがあって、……変わった。初恋の子に見合う自分になるために」



「ほら。努力の人なんでしょクレイスくんは。お姉さんのユリーシア様だってそうなんだし。いいですよね、努力してる人って。……クレイスくんが初恋の君のお話してくれたので、私も前世で好きだった人の話をしてあげましょう」



 もちろん恋愛的なアレソレでなく、推しの話なのだが。恋心よりも推しへの愛の方が劣るとか貴重じゃないとか、そんなわけがないので好きな人の話題として出してもおかしくはないのだ。誰かを想うということに変わりはない。恋だって推しに対する気持ちだってどちらも尊いものなのだ。




「………………好きだった、相手が居たのか」



「? いますよ」



 何故そんな意外そうな顔をする。今まで推しがいたこと話してこなかったっけな。



「会えなくなって、寂しくないか?」



「……あ、」



 そういえば前世の話を始めてしたとき。大事な人たちと会えなくなったなら寂しいだろうって気遣ってくれていた。



「えっと、大丈夫です。思い出の中で生きているというか……もともと手の届かない人だったので! 次元の壁突き破らないと無理だったしっ」



 いくら令和の日本技術といえど三次元と二次元の境目を取っ払うとかそんなオーバーテクノロジーは存在しない。ライブなどで中の人とは会うことが出来たが手が届かない距離というのは変わらないわけで。



「でもね、手が届かなくたってあの子は私達に元気をくれるんです。落ち込んだときは大丈夫だよって励ましてくれる。楽しいと嬉しいをたくさんもらいました。だから、寂しくはないけど──、たとえ世界線を超えたってあの子のことは忘れない。ずっとずっと大好きです。それだけ力をくれる……優しくて強い、すごい子だったんです」




 もうあの子の存在をこの目で確かめることは出来ない。ずっとずっと遠い場所に来てしまったから。そう考えると確かにちょっぴり寂しいけれど。でも。



 ベンチから立ち上がり、クレイスくんの方へと向き直る。



「あの子っていう存在は今も私を突き動かしてくれてる。だから、きっと私は毎日を精一杯生きていけるんです」






 暴走お転婆令嬢なんて言われても、毎日を一生懸命楽しく生きていくことが大切だって。



 遠いあの日々で教えてもらったから。





 


 今日はお星様が綺麗でした。お星様のように輝いて励ましてくれる推しという存在は本当に尊いものですね。


 推し活を楽しみつつ執筆も気合を入れて、私も毎日頑張っていきたいなーと思っております。


 もし宜しければブクマや評価、いいねや感想やレビューなど何かしていただけますと励みになりますのでお願いいたします。


 読んでくださってありがとうございました!




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