この後はどうしよう
「何を買ったんです?」
「後で教える」
なぜそこでもったいぶる。相変わらずよく分からない子だ。
ブティック入り口の扉を背に空を見上げる。まだ日は高いのだが、どうしよう。私は帰っても良いんだけど遊ぶ相手がいなくて着いてきたクレイスくんを思うとここで解散とは言い辛い。
かといって休日に誰かと遊んだことなんてないので何をしたら良いのかも分からない。気を抜いていたらまた隣で腕を突き出してきているし。
「エスコートは不要ですって。……あっ、このままドレスの図案をユリーシア様にお届けしても?」
「ユリーシアは出掛けている」
いい案だと思ったのに。ユリーシア様不在の知らせにがっかりする。
しかし、私とクレイスくんの誘いに乗ってアイドルとなるべく日々努力してくださっている彼女だが、その肩書は公爵令嬢なのだ。他にも用事があって当然だろう。多忙なはずなのにレッスンにも真剣に取り組んでくださって感謝は深まるばかりだ。
……と、いけない。この場にいないユリーシア様に想いを馳せる前に、この後どうするか決めなくては。前世ならばカラオケだとかゲーセンだとかあったけれど、無論この地にそんなものはない。……あっ、あれならいけるか?
「クレイスくんクレイスくん。私の用事はこれで済んだのですが、帰りますか? それとも空き地に空き瓶を並べてボールを転がして倒す競技をしますか?」
「なんだそれ。どちらも嫌だ」
そっかそっかー。ボーリングもどきは嫌だったかー良い案だと思ったんだけどな。……って、ちょっと待って。
……なんだそれ。
……なんだ、それっつった?
クレイスくんにツッコまれた??
「………………」
何か酷いことをされたわけでもないのに今私の心は深く傷ついている。あまりのショックに言葉が出なくなってしまった。こんな……こんな理不尽が罷り通って良いのだろうか。あのクレイスくんからツッコミを入れられてしまう日が来るなんて。
「ルル?」
「…………今日は私史上二番目の黒歴史デーです」
ちなみに一番の黒歴史は物の怪パーティーである。言わずもがな。
「よく分からないが。嫌なことがあったなら塗り替えれば良い。今日はまだ終わってない、良い日に出来る」
「クレイスくん……」
なんか良いことをいっているけれど原因はお前さんだが? なんて流石に口には出来ず心の中だけで反論すると、手を取られた。妖怪右手盗みの再来である。腕を組むことを強制されるよりは良いけれど、私の常識に照らし合わせるとやっぱりお付き合いもしていない男女の距離感としてはおかしい。
振りほどこうとするけれど、悲しいかなそれは叶わなかった。これはエスコートの範疇なのだろうか。お父様はしてこないけど。
「クレイスくん、」
「帰りたくない。まだ遊びたい」
帰りたくない、までなら可愛い彼女みたいとも言えたのにそこにまだ遊びたいが追加されることでいよいよ本物の幼児のようになってきた。
手を繋いできたのは『まだ遊ぶもん。帰さないから』ということだろうか。
「……わかりました。何して遊びます?」
「いつもは何をして遊んでいるんだ?」
「家族と来た時はお買い物とか……お友達とは外出したことはほとんどないので」
おい、可哀想なものを見る目を向けるな。きみも同じようなもんじゃないのか。どう考えたって休日にキャッキャウフフと人と遊ぶタイプには見えないぞ。
「クレイスくんの興味を引けそうなものってなんでしょう。珍しいもの?」
「新鮮さは大事じゃない。一緒に過ごすから楽しいんだろう」
……今日のクレイスくんはやたらとまともなことを言う。確かに、カラオケだってゲーセンだってボーリングだって。一人で行っても楽しいが、大好きな友達と行くならもっと楽しいものだろう。
「……わかりました。じゃあ、適当に散策でもしましょうか」
そうして、私達は目的もなくぶらぶらと歩き出した。




