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本音を教えて



 動き出した馬車の中で対面に座ったクレイスくんを見つめる。


 お顔が良いのは言うまでもないが、その上学業優秀で公爵家ご子息である。引く手あまたであろうというのに最近の私との噂まで浮いた話がなかったのはやはり愛や恋といった情緒が育っていなかったからだろうか。

 そして、今。何を思って私にあんな態度を取る? いい加減に突き止めなければ周囲の誤解は拡がるばかりだ。



「どうした?」



 見ていたことに気付かれて、視線がかち合う。



「考え事をしてました。まだクレイスくんとお話出来る状態じゃないのでお外見ててくれますか?」



 あ、まずい。しょんぼりさせてしまった。それでも素直なクレイスくんは無言で外に視線を移してくれる。

 考えを纏める時間がほしいのだ。最近の態度はなんなんですか? と聞いても『そうしたいから』と返されてしまうのは実証済みなわけで。私と付き合いたいんですか? もなんか変な気がする。しかもこれで違うとか言われたら大分イタイ。



 ……あれ、ちょっと待って。私に気があるんですか的なことを聞いてそうだって言われた場合は? そういう感じになったらお返事をしなきゃいけないんだよね? クレイスくんのことは大好きだけど、恋人になってほしいなんて言われても、はいなりましょうとお返事は出来ない。だって別に彼に恋愛感情を持っているわけではない。そもそも私は恋なんてしたことがないんだから。


 例えば政略結婚の相手としてなら、私は彼を喜んで受け入れただろう。家のための契約の相手に愛だの恋だのは求めない。けれど培った友情が土台にあるのならその結婚生活は随分と気楽なものになるだろうし。



 けれど、もしクレイスくんが私を好きだとしたら? お互いそういった気持ちがないこと前提の政略結婚とは話が違う。大事な友人だからこそきちんとお返事をしなければならないだろうし、だからこそ私も恋愛感情を含んだ好意を貴方に対して持っていますとは言えない。



 真意を暴くなんて意気込んでいたけれど、もしかしたら目の前のこの箱を開けても私に何の得もないのではないだろうか。

 クレイスくん本人がなにも言わないのならわざわざつつかなければ平穏に過ごせるのだ。

 ……良し。前言撤回。クレイスくんは好きにさせておこう。うんうん。



「考え事は纏まったか?」



「あっ、はい。クレイスくんは私のことが好きなのかなーとか考えてました」




 ……………あっ。




 いきなり話しかけたられたものだから心の声をそのまま発してしまった。まずい。なんとか誤魔化せないかな。



「…………そうだとして、お前は俺と交際するのか?」



「えっ、しない……かも」



 かも、というか確実にしない。だって男女交際が何かも分からないんだから。分からないことをすることは出来ない。



「そうか。じゃあ俺もそうだ」



 なんだこの応酬。っていうか『じゃあ』ってなんぞ。もしかして嫌われてる? ……いやいや。



「えっと、クレイスくんのことが嫌いなわけでは。恋愛とかよくわからないしそれよりも他に楽しいことがあるからであってですね」


「知ってる。俺もルルのことは嫌いじゃない」



 まあ仲悪かったら二人でなんて出かけないもんな。


 クレイスくんが私を好きだとかそんな話にならなかったことに安堵しつつも、結局は自意識過剰のイタイ人になってしまった。いや、そもそもそんな考えに至ったのはきみが悪いんだからな。



「でもでも、だからって最近の態度。やりすぎですよ。恋人でもないのにあんな風にエスコートしちゃ駄目ですって」



「……お父上はルルや姉君にああいう態度は取らないのか?」



 ……は、と気付く。そういえばお父様と一緒にお出かけする時、私やおねーちゃんに対して恭しくエスコートしてくれる時がある。それこそ、最近のクレイスくんと同様に。


 普段の面白行動で忘れがちだが、クレイスくんは公爵家という名門のご子息なのだ。周りより先に社交界に顔を出すといったこともあるだろう。そういった場所にはそれなりの礼儀が必要になってくるわけで……つまり、ただの癖もしくは練習台として扱われていたのかもしれない。

 

 そもそもの話、私のことが好きならあんなに毎日怪異扱いなぞするだろうか。しないだろう。好きな子をいじめるとかそんなのは幼児までだって聞いた。いじめられてる、ともちょっと違う気はするが。

 


「…………勘違いしてごめんなさい」



「いや……」



 こうして私史上に黒歴史がまた刻まれた。なんという勘違い。恥ずかしい。



「あっ、でもでもクレイスくん! 今まで好きになった子とかはいるんです? 初恋もまだ?」




 あんまり突っ込んだことを聞いたら怒られるかな、とも思ったが今はとにかく話を逸らしたい。

 温厚なクレイスくんは私の勘違い発言にも不躾な質問にも気分を害した様子もなく答えてくれた。



「好きになった子は、居る」




 なんと。意外である。初恋もまだの私は、先を越されたようでちょっぴり悔しい。




「十年前に、初恋というものを体験した。初めてその子を見た時の衝撃は忘れられない」



「十年前かあ……」



 十年前、というとちょうどクレイスくんが怪異と始めて遭遇した頃である。いや、決して怪異ではないのだが今まで散々あの時の私を珍妙だとのたまってきたのだ。彼の中ではきっと珍妙だったのだろう。とてつもなく不服だが。

 そんな理解し得ないものと同時期に出会った素敵な女の子だ。思い出はきっとより強く輝いて刻まれただろう。



「気になるか?」



「まあ、人様の恋バナを聞くのは結構好きだって今自覚しました」



「……そういう意味じゃない」



 だったら何だというのだ。話してくれるなら喜んで続きを聞きたいところだったが、無理に根掘り葉掘りというつもりもない。




 雑談しているうちにいつの間にか目的地に着いたらしく、馬車が停止した。



「着いたみたいですね。今日の目的地は我が母上の支援するブティックです。そこのお弟子さんで、ユリーシア様の衣装製作を引き受けてくださった方が居るのでその相談をしに来ました」



 愛だの恋だの、難しい話は一旦忘れよう。目の前にはもっともっと楽しいことが広がっているんだから!



 

 読んでいただきありがとうございます!


 もし宜しければ評価やブクマ、いいねや感想やレビューなどいただけるととても嬉しいです。





 それからこんな一方的な想いをここで告げて良いのか迷ったのですが……序盤からブクマしてくださり毎話いいねしてくださる方(勝手に同一人物様だと思っているのですが違ったらすみません)、本当にほんっっとうにありがとうございます。

 毎日投稿出来ているのも執筆をより楽しめているのもあなた様の存在がとても大きいです。

 未熟な部分も目についてしまうかもしれませんがこれからも見守ってくださると嬉しいです。


 そしてもちろん読んでくださったすべての方へ海より深い感謝を捧げております。



 皆様これからも宜しくお願いいたします。

 少しでも楽しい時間をお返し出来ていますように。

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