妖怪令嬢と呼ばれる理由
物知らずの仲間もやはり物知らずか。初対面の人間になんつー失礼な呼びかけをするのだ。
この小僧がよぉとか言いたいが我慢我慢。
「わたくし人間です。貴方がどなたか存じませんけれどそのような呼び名は不本意ですわ。ルルシア・グラシューという名前がありますもの」
「やっぱり妖怪令嬢じゃないか。あれは仲間だろう?なんとかしてくれ!!」
「妖怪ではないですし、怪異のお友達も居ませんわ」
この集団、なんでこんなに話が通じないんだ。ごくごく一般的な貴族令嬢だって自己紹介してるだろーが。
けれど目の前の男がぶんぶんと首を振る。金色の髪が揺れて、その赤い瞳は必死に何かを訴えようとしているみたいだ。…………あれ、この組み合わせ、さっきも見たような。
「さっきのちっこい方の女! あいつが周りの皆を洗脳してるんだ!! お前も同じような能力を持ってるだろう?」
ちっこい方というとヒロインちゃん……シュシュちゃんだっけ。ヒロイン補正か彼女自身の魅力か知らないが、周りの男子が虜になっているのを怪しい術とかだと思っていると。
確かに物語やゲームで魅力魔法とか持ってるヒロインちゃんを見たことがあるけどあの子はどっちだろう? この世界では魔法はずっとずっと昔に失われたって言われてるみたいだしなー。ヒロイン補正かなんかで使えたりするのかな。
しかし目の前のこの子はシュシュちゃんに夢中になっている様子がない。何故だ? あ、もしかして。
「男色ですか? 応援しますよ」
「いきなりわけのわからないことを言うな! そして質問に答えろ!」
えー、だって質問の意図がわからないしこの上からの物言いも気に食わない。
「先程も言いましたが私は普通の侯爵令嬢です。特異な力は持ってませんよ。……強いていえば顔がとびきり可愛いくらいですかね。 さっきの女の子については話したこともないし私と同じくらい可愛いってことしか知らないです」
「自分で容姿を……いやまあ容姿はそうか……」
おや? 意外と素直なところもあるようだ。けれど先程からの態度を許してはいないからな。
「先程からの横柄で横暴な態度で、私は既に貴方のことが嫌いです。だと言うのにサービスで質問に答えてあげたんです。ですから貴方も私の質問に答えてくれますよね? なんで私は妖怪呼ばわりされているのですか?」
なぜだか嫌いという言葉にしゅんとしたように見えたが気のせいだろう。嫌われたくない相手にこんな態度は普通とらない。というか、知り合いでもないしな。
「……十年前の物の怪パーティー。奇妙な動きと奇妙な動きで何人かを洗脳したのはお前だろう」
「えっ?」
…………十年前。
────奇妙な動きと奇妙な歌。
物の怪パーティー……
「わああああっ!!!!」
「き、急に雄叫びを上げるな!! 新しい術か!!?」
くくくく黒歴史だ。十年前に調子に乗ってアイドルごっこをしたあの時の。そういえば斬新すぎる催しをしたせいで私は一部で悪魔崇拝に魑魅魍魎、挙句の果てには妖怪令嬢と呼ばれていたのだった。まだその名で呼ぶやつが居るとは思わなかったが。
というか、ほぼ忘れかけていたのにこいつのせいで!! 茶会と言いつつかなりの人数が呼ばれていたことで、物の怪茶会でなく物の怪パーティーなんて呼ばれていたことまで思い出してしまった!!
「っ誤解です! 確かにその奇妙な催しの主催は私ですが、っていうか奇妙でもないです! この世界にないエンタメ……えっと、娯楽を新しく広められたらいいなあって。頓挫しましたけど! 洗脳ってなんのことかもわかんないしっ」
「あのパーティーに呼ばれていた同年代の何人かは実際お前に洗脳されている! そいつらは先にお前の術に掛かっていたからか、あのちっこい女の洗脳は効かないようだし……怪異の力だろう」
「そんなわけが……」
ヒロインちゃんは知らないけど私には間違いなくそんな力はない。本気でなんのこっちゃ……と思ったけれど、前世の記憶が片隅で呼び掛けてきた。
あの日の自分の力不足を思い出して、そんなわけがないと思いながら。
けれど、万が一。もしかしたら、だ。
「洗脳してないのは前提ですけどっ。そのお茶会で私に夢中になった人ってどんな風に私のことを見てます?」
「……応援したい見守りたいといつもお前のことを見ているだろ。恋仲になりたい、という者も居るが大体はずっと一定距離でお前のことを眺めている」
……気付かなかった。あの茶会を観て推してくれている人が居るということだ。気恥ずかしいけれど嬉しくもある。それにしても民度が良くて誇らしい。
「……良いですか? 私があの日行ったのは妖怪百鬼夜行……一鬼夜行ではありませんっ。アイドルライブというものなんです。可愛い女の子が健気に歌い踊り観客に勇気と元気を与える。それに感動した観客が女を応援してくれ女の子はまたライブで勇気と元気のお返しを……というポジティブの永久機関なんですのよ」
「百鬼夜行……アイドル……?」
理解が及ばない、という顔をしている。まあ聞き慣れない単語だろうからそれはそうだ。けれどこちらは理屈が分かってすっきりした。ちなみに百鬼夜行の方は知らないなら知らないままでも大丈夫だ。
シュシュちゃんの魅力にやられなかった子たちはきっと先に私という推しがいたからだろう。数人だろうけれどヒロインちゃんの魅力に打ち勝つくらいのライブを出来ていたならあの黒歴史も報われるというものだ。
だからといって再度開催なんて絶対にしないけれど。推してくれている人には大変申し訳ないけれど、もう自分でステージに立とうという熱量が無いのだから仕方がない。けれど、あの日の私を見てくれてありがとうと心の中でお礼を伝えておく。
「恋愛感情とかじゃなくて、異性でも同性でもいいんですけど可愛いとかかっこいいとか見てるだけで元気をもらえるとか。あとあと幸せになってほしいとか、応援したい気持ちになる人! そういう人が貴方にもいませんか?」
「…………居る」
「そういう人なんです。アイドルって。まあ恋愛感情を向ける方も居ますし、それもまた良しというか……周りに迷惑をかけない前提で各々のスタンスによりますけれど。貴方が物の怪パーティーと呼ぶあのお茶会は、そういった概念を周知させるための舞台のつもり、だったの!!」
盛大に失敗したけれど。いや、ファンがついていたということは完全なる失敗ではない? 物の怪パーティーなんて呼ばれてはいるみたいだけれど。
「なにか人知を超えた怪しい術じゃないのか?」
「違いますー。人知を超えてるのは私の可愛さだけですね」
「………………」
黙ってしまった。いちいち失礼なやつだな。
「お前。……いや、グラシュー侯爵令嬢。無礼な態度を取ってすまなかった」
「えっ、なんですの急に」
驚く私を他所に、小僧その二……いや、謝ってくれたしな。そう呼ぶのはやめよう。名も知らぬ男子は深々と頭を下げた。
「俺の姉をその『アイドル』というものにしてくれないか」
ちょっとずつお話を進められたかな? と思います。
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