姉の苦悩【ユリーシアSide】
「最近いい感じだ」
ルルが帰った後の我が家にて。私の部屋に遊びに来た弟はソファに腰掛けて満足そうに言った。表情の乏しい弟には珍しく、口元が綻んでいる。
「ルルのこと? 確かに前よりずっと仲は良いでしょうけれど……」
初恋の女の子に振り向いてもらうために、弟が一生懸命アピールをしているのは知っている。けれど相手が相手だ。そのアピールはきちんと正しく届いているのだろうか。
何しろスタートが妖怪扱いなのだ。
今友人として仲良くしていることすら奇跡である。
「撫でたり触れても嫌がらない。この前は……抱き締めた」
「んんっ!!」
最近単純接触というか……撫でたり手を差し伸べたり、軽い触れ合いを試みていたのは知っていた。というか見ていた。けれど抱き締めたとかそんな話は初耳だ。思わず噎せてしまった。
「あなたっ……いくらなんでも無体を働いたりとかそんなことをしていないでしょうね?」
クレイスがそんなことをするわけがないとわかっていても、姉としては確認しなければいけないのだ。
万が一があれば責任を取らなければならない。いや、むしろその責任なら喜んで取りたいのだろうけれど。だからといって順序というものを忘れてはならない!
「元気がなかったから抱き締めた。それだけだ」
「……そう」
あのルルでも元気がないときというものがあるらしい。そんな時に自分が傍にいられなかったのは悔しいが、代わりに弟が慰め励ましたというなら良いだろう。
だとしても抱き締めるのはやりすぎな気がするが。嫌がられなかったのなら脈はあるのだろう。
「正式に交際を申し込めばいいじゃない」
「受けてもらえるだろうか」
「…………どうでしょうね」
少なくともクレイスは嫌われていない。嫌われていないのだが、ルルが何と返事をするか分からない。
手酷く振られるとか、そんなことはないと言い切れる。けれど、いつか本人が言っていたように、他に楽しいことがあるので恋愛している暇なんかありません! と断ることも充分に有り得るのだ。
それでなくとも最初の印象が悪かったのでマイナスからスタートしている上に、クレイスは普段彼女に対して怖がりなところばかり見せている。見目だけは無駄に良いのでルル本人もよくクレイスの容姿を褒めているが、果たしてきちんと男性として意識されているのだろうか。
「ルルの好みの男はどういった感じの男だろうか」
「少なくとも意中の相手を妖怪呼ばわりしたりしない男性でしょうね」
可愛い弟の初恋を応援する気ではいるのだが、未だにルルのことを怪異する場面を見かけるのでそれは反省しなさい、と思う。
「あんなに可愛いのに人間なのか?」
「そこまで本人の前で言いなさい」
それが怪異扱いする理由ならばそこまで述べてしまえば受け手の感情も変わるだろう。いつもこの弟は言葉が足りない。
怪異扱い自体が好ましいものではないけれど。
「……可愛らしい女の子を形容する言葉って普通は女神とか天使じゃないのかしら」
「女神はユリーシアだろう。天使は他にそう呼ばれている令嬢がたくさん居る」
弟の言葉を要約するとこうだ。
まず、わたくしが女神などと呼んでいただくことがあるのだがその言葉がわたくしに使われているためにルルを女神と呼ぶことは出来ない。恐らくだが、神は唯一の存在だからそう呼ばれる人間が二人居てはいけないとかそういう持論だ。わたくし自身は女神と呼んでいただくなど恐れ多いと思っているというのに。
ちなみに天使は複数居ても良いが、だからこそ天使と形容されるご令嬢たちはたくさん居る。どなたも可憐なご令嬢だ。でもルルは彼女たちよりずっとずっと可愛い。だから同じように天使だなんて呼べない。
だから他に人知を超えた存在──つまり妖怪呼びに至ったと。
「頭が……痛くなってきたわ」
このような超理論を説明なしで察しろという方が酷である。
「明日はデートだ。気合を入れていく」
デート、と弟は言うけれど向こうも同じ認識で居るのだろうか。気合を入れるのは結構だし応援したいが、そこはかとなく不安が残る。
着いていきましょうか? という言葉が喉まで出かかったがどうにか呑み込んだ。心配ではあれど流石にそこまで野暮ではない。気合を入れるばかりに暴走しなければ良いけれど。
「………………ほどほどにね」
下手にアドバイスをするとどんな解釈をされるか分かったものではないので、最低限の注意だけに留めておいた。
まったく、姉というのは苦労の絶えないものである。
いつも読んでくださりありがとうございます!
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毎日投稿を目指してますが、書き溜め分に手直ししたい箇所がたくさん出来たのと今週が思いがけず多忙になってしまったため空いてしまう日があるかもです。
無論物語を放置する気はないので、投稿出来ない日は意思表示を兼ねて活動報告にて一言お知らせいたします。……活動報告という名の言い訳ですね、うん。




