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和解



「あのっあのっ。ユリーシア様! 私っ、今までのこと考えたら信じてもらえないかもしれないけど、ユリーシア様のお役に立ちたいです……! 皆さんがやろうとしてること……、私も知ってるんです。それについて詳しいっていうわけじゃないけど前世で実際にその存在を見てきてます。何か手伝わせてもらえないでしょうかっ……」



 たった今推しが出来たオタクの熱量とは凄いものである。シュシュちゃんが元々オタクだったかどうかは知らないが、彼女は今この瞬間をもってユリーシア様オタとなった。

 ああ、彼女の豹変ぶりを見て怖がりなクレイスくんは私の背に隠れてしまった。先程までは私を守る等と言っていたはずだが。そもそもクレイスくんの方が背が高いので隠れたところで大分はみ出ている。シュシュちゃんの言葉の裏に何か含みがあるんじゃないかとか考えてるんだろうな。



「クレイスくん、彼女はもう悪い妖怪じゃありません」


「……本当か?」


「誰が妖怪よっ」



 妖怪呼ばわりはこの世界の転生者が皆通る道である。通ってもらわなければ困る。私だけ妖怪呼ばわりされるなんて悲しいのでシュシュちゃんも道連れだ。


「シュシュさんの気持ちは嬉しいけれど……、手伝ってもらえることは……」


 視線を感じる。シュシュちゃんの発言全てを信用して良いのだろうかという確認と、何か手伝ってもらえるようなことはあるのか? という意味を含んでいるのだろう。


「私と同じ世界の知識がある人が手伝ってくれるなら有難いです。あと楽器が弾ければ伴奏とか。シュシュちゃんは『アイドル』が何たるかを知っているはずなので手伝ってもらえることはたくさんありますので、ユリーシア様が宜しいなら」



 前世の知識がある協力者が増えるというのは心強い。それに、ご本人は沼らせたことに気付いていないので心配も尤もだが推しのライブで悪さをする人はいないだろう。先程から反省や謝罪も述べてくれているので、ただ信じたいという気持ちもある。



「私はドルオタでも育成ゲーオタでもないし……ピアノも猫踏んじゃったしか弾けないわよ」



「それが弾けるなら練習すれば他の曲もいけるでしょっ。あと、もしかしたら私もシュシュちゃんに協力出来るかもしれないからちょっとだけ待ってて!」



 皆がやりたいことを全部詰め込む。難しいし大変だけれどきっと楽しくて幸せな時間になる。



「ピアノで……猫を踏む……」


「クレイスが考えているようなことはないと思うわ」



 顔面蒼白なクレイスくんをユリーシア様が窘める。当然と言えば当然だが、猫踏んじゃったという楽曲はこちらにはないようだ。

 彼は何故こんなにも怖がりなのだろうか。そして彼に好意を寄せる女子達はこんな姿を見ても想い続けるものなのだろうか。



 ユリーシア様にそこはかとなく似た顔立ちの彼は大人っぽくて冷静に見える。ユリーシア様よりも少し銀色がかったようなその銀髪は陽が当たると輝いて見えて……、燃えるような紅い瞳に見つめられたら大体の女子は歓喜で倒れてしまうだろう。



 ……けれど、私はきっと遠くから見た無愛想で一見クールなクレイスくんを見ても何も思わなかった。愉快で怖がり、友達思いで優しいクレイスくんの方がずっとずっと好印象である。

 孫が居たらこんな気持ちか、と和やかな気持ちで眺めていたらクレイスくんと目が合った。



「惚れたか?」



 数秒前までピアノの怪異にビビっていたとは思えないふてぶてしい発言である。


「そうですねーお顔がとっても良いですね。でも今この空間には顔の良いお方しかいないので順番に眺めて満たされることにします」



「ずっと俺を見ていれば良い」



 お、なんだなんだ。ここに来て負けず嫌い宣言である。



「一周したらクレイスくんもまた見ますよ」



 時計回りにしようかな。次はシュシュちゃんだ。やんちゃっ子とはいえ美少女である。眼福だ。じぃっと熱い視線を向けるが、信じられないというような顔を返された。



「あなたたち……いつもこうなの? ユリーシア様はなんとも思わないんですかっ?」



「……見守るしかないわ」



 やれやれといった仕草はいつかのクレイスくんと同じだったが、不思議とユリーシア様にされても腹が立たないものである。



「……いつもこうなのね。わかったわ、私も慣れる。それで、えっと……ルルシア侯爵令嬢。今まで貴女にも酷い態度を取ってごめんなさい」



 ここに来て初めて名前を呼ばれた気がする。下の名前呼びなのはもしかしたら我が家名を知らないのかもしれない。

 謝罪も一緒にされたけれど、シュシュちゃんに言われてきたことは全て事実だったので根に持ったりなどはしていなかった。その後クレイスくんに慰められたことの方が衝撃が大きくて、シュシュちゃんとの口論などなんやかんやで何なら割と忘れていた。



「お友達じゃないですか。良いですよルルちゃんで。私シュシュちゃんのこと好きですし」


「いつお友達になったの……?」



 一緒に歌った時から私の中ではお友達である。



「私とは仲良く出来ませんか?」



「出来るわよ! 言っておくけど私も同担歓迎だから! …………ルルちゃん」



 ちょっと照れながら呼んでくれるその姿はたとえ声が低くても可愛い。むしろそのギャップが良い。最高だ。



「言っておくがルルちゃんと一番仲が良いのは俺だ」



 またクレイスくんの負けず嫌いが始まった。確かに最近一番共に過ごしているし、そうなのかも?

 否定するのも変なので頷いておくとクールな公爵子息で通っているとは思えない子犬のような満面の笑みが返ってきた。

 一瞬目を疑った。可愛い、と思ってしまった自分の思考も。



「何を言ってるの。ルルちゃんの親友は私よ」



「あっ、はい。ユリーシア様のことが一番好きです!



 珍しくユリーシア様まで張り合ってきたので本音で返事をしたのだがちょっとむず痒くなってきたので話題を変えることにした。



「まだ時間はありますし練習しましょう。クレイスくんはユリーシア様の振り練習に付き合って。シュシュちゃんは……計画の変更をしなきゃだからちょっぴり私とお話してくれる?」



 そうして、ユリーシア様アイドル化計画・改は始動したのである。





 みんな楽しく過ごしておくれー。


 この作品を読んでくださった方も楽しい気持ちになってくださったら嬉しいです!


 ちなみにこのあたりを執筆していた日にピアノの怪異がどったんどったんと跳ねながら猫に迫っていく夢を見ました。

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