明かされる目的
何処から聞きつけたかは知らないが此処に来れば懐かしの日本食にありつける。そう確信して乗り込んで来たのだと納得していたのに、『ちょっと違う』と言われてしまった。ちょっと違うということはほぼ合っているということなので名探偵ルルシアを名乗れる可能性はまだ残っているということでもあるのだけれど。
「ご飯が食べたくて来たんじゃないの?」
「侵入者にご飯を振る舞ってもらえるとは思ってないわよっ。そうじゃなくて……この和食の素材! この入手経路を教えてほしかったのっ。前にフォンスたちが公爵家主催のパーティーでは定番のものの他に珍しい食事も出るけどそれはあんまり手を付ける人がいないって言ってて……、それがもし和食のことならチャンスだって」
チャンスとは。分かっていた気でいたがやっぱりシュシュちゃんの主張はところどころ難しい。どこから突っ込んでいけばいいのかなー、なんて迷っているとこの場では声を作ることをやめたらしいシュシュちゃんがもりもりと話し続けてくれた。
「私はね、なぁんの特徴もないウィゼル男爵家を盛り立てていきたいのっ。条件の良い結婚相手を探すのもしているけどみんな私のこと本当に好きなわけじゃないし、私も恋愛なんてそんなにしたいわけじゃないし……なら自分で何か家のためになることをしなきゃでしょっ。そんな風に考えていたらエール公爵家には前世で食べていたような食材があるって聞いたの! 定番でしょう転生者が飯テロで身を立てていくって! エール公爵邸でもそんなに和食メニューが豊富ってわけじゃないみたいだし……それならクレイス様と仲良くなって材料を融通してもらって私が和食を拡めればって思ったの!」
つまり、ウィゼル男爵家の名を轟かせるための行動だったと。
「それで強行突破は無茶過ぎない? クレイスくんと仲良くなるとか以前にウィゼル男爵様も罰せられちゃうよ」
「だって二の足を踏んでいる間に私がしたいことを貴女が先にやっちゃったら意味ないでしょう? それに、罰せられないだけの実力を見せてやれば良いだけだもの」
しきりに目的を邪魔したとか言われていたのはこのことか。
私がシュシュちゃんのやりたいことを横取りするんじゃないかと。
飯テロをする計画は全くなかったんだけどな。私がしたいのはアイドルテロで、それはシュシュちゃんも知ってるはず。よっぽど切羽詰まってたんだろうか。
それにしても、こんな大胆な犯行に及ぶなんて。
それだけ料理の腕に自信があるのかな。
「料理人さんがシュシュちゃんの言うこと聞こうとしてたのは?」
可哀想なもので、見習いの彼は雇用主の御息女御子息のご登場に隅っこで肩を震わせて声を出すことも出来ずにいる。
「ヒロイン補正っていえば分かる? 効かない人もいるけど頑張って声を作ったら超うっすーい魅了効果が付くから。……補正なんて言っていいのかもわかんない弱い能力だけどね」
なるほど。それを駆使すれば強行突破も出来るものと踏んだのか。
「二人の世界を作るな」
なんとなく話が見えてきたところで、後ろのエール姉弟に気付く。
前世だとかそういう話はクレイスくんにはしていたので実際半分くらいは会話の内容を理解は出来ているのだろうが、それでも寂しかったようだ。仲間外れにされてご機嫌斜めそうだ。
ユリーシア様の方は何もわからないといったお顔で、壁に凭れ掛かるなんていう淑女たる彼女にしては非常に珍しい所作で疲れたお顔を浮かべていた。
「……良くわからないけれど、誰かに危害を加えたりだとかそういった目的はないのよね? とりあえず小ホールに戻りましょう。貴方、侵入者の件は解決したって言っておいて。やんちゃな学友の悪ふざけが過ぎたという体でね。……とりあえず、今回だけは」
ユリーシア様は女神である。料理人見習いの彼に出した指示の内容を聞いて実感する。シュシュちゃんには今までも迷惑を掛けられているはずなのに今回は事情を聞くだけで大目に見てくれるということだ。
「甘くないか?」
「聞いていたでしょう、今回だけよ。もちろん次はないし……逃げ回ってきちんと話を聞かなかった貴方にも非はあるっていうこと、承知していて?」
クレイスくんが怖がって逃げ回っていなかったらもう少し穏便な着地もあったのかもしれない。怖がりな彼には無理な話だったのだろうけれど。
「……元気出してね?」
「俺は元気だ」
クレイスくんの強がりを聞き流しながら小ホールに戻る途中、私達三人の一歩分後ろから着いてくるシュシュちゃんは、重厚感のある声で小さく一度だけ呟いた。
「……迷惑をかけてごめんなさい」




