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闖入者を探して


 あれから、シュシュちゃん探しが始まった。


 ユリーシア様が自ら探しに行くと言ったので、いやいやシュシュちゃんが何を思って乗り込んできたのかもわからないし危ないかもしれないし私も行きますよ! と無理矢理着いてきて、今は公爵邸のやたら長い通路を息を潜めて歩いている。普段の外出の際に護衛に付けている方々はそれぞれ捜索に当たってしまっているらしいので、私達だけだ。相手はか弱い……恐らくか弱いであろうご令嬢だ。私もユリーシア様も普通の淑女よりは体力があるので二人がかりならばどうにか制圧は出来るだろう。お転婆娘だった過去も無駄にはならないものである。


 ターゲットであろうクレイスくんは小ホールで執事さんと待機していたら? と提案したのだが、それを頑なに拒否し、何故だか私の腕をがっしりと掴んでいる。もし出くわしたら私を盾にし、妖怪大決戦をさせるつもりだろう。

 怖いなら待っていれば良かったのに。

 動きにくいことこの上ない。

 ちなみに執事さんも着いてきたがったが、小ホールに入ってきた時点で息が上がっていたので安静にしていてくださいと置いてきた。


「それにしても大胆なことしますねえ……バレたらめちゃくちゃ怒られますよ」


 言ってしまえば不法侵入だ。自身への叱責だけで済めば良いが、ウィゼル男爵家へのお咎めは免れないだろう。

 ちょっぴり暴走気味な子だな、とは感じていたけれどここまで常識から逸脱した行動に出るような子にも思えなかったのに。


「クレイスに付き纏っていたのよね? 夜這い……には時間が早いけれど上手く言い寄って既成事実を作るつもりでいたとか」


 おお、なんかえっちな話だ。シュシュちゃんがどうしてもクレイスくんと結ばれたいと願っているならばそういうことも有り得るのだろうか。


「まだ使用人の殆どが業務時間内で人気も多いこんな時間にか? それに……ルルにも言ったがあいつは俺に好意があるわけじゃないと思う。むしろ……」


 私の腕を握るクレイスくんの掌の力がやや強くなる。そんなこと言いながらビビってるじゃん、痛いんだが? ……と、怒りたいところだけれど怖がっているところを叱るのも可哀想なので黙っておく。


「他に何の目的があって我が家に忍び込んだっていうの」


 ユリーシア様、忍び込んだというにはやや大胆すぎます。


「最近毎日ルルが此処に来てるのを知ってるはずだ。あの変な女は俺よりルルを気にしている」


「ええっ…? 私は嫌われてますよ、あの子に」


 なんで百合展開有識者みたいなことを言い出すんだ。絶対ないって。自分がロックオンされているという現状を直視したくないのだろうか。

 それにしたって無理がある。


「そういう意味じゃない」


「まさか殺人事件を想定してます? ルルシア憎しのあまりここに襲撃してきたと」


 いくらなんでもそれはないだろう。今日話して気付いたのだ。ユリーシア様の件もそうだが、自分から率先して人を傷付けるタイプではなさそうだと。クレイスくんの貞操については知らないが。

 私とユリーシア様の二人でそれは流石に考えすぎ、なんて言いながら曲がり角に差し掛かる度前方に探し人が居ないか身を隠しながら進んでいく。

 何度かそれを繰り返して、それでもシュシュちゃんは見つからなかった。私達以外が見つけたならば騒ぎになって分かるはずだし、成果もないし執事さんも心配なのでとりあえずは一旦小ホールに戻ろうか、という話になった時。

 数メートル先といったところか。何かが落ちたような物音と、何人かの話し声が聞こえた。


「……この距離なら厨房かしら。……なんで?」


 もしシュシュちゃんがそこに居るというならば、いよいよ意味がわからない。クレイスくんだって私だってそんなところに居るはずがないし、もし金品目的だとしても的外れすぎる。


「とりあえず行くしかない」


 意を決したようにクレイスくんが一歩踏み出して、ぐいぐいと私の腕を引っ張っていく。

 おい、怖がりのくせに前に出過ぎるんじゃないそして離してくれ。


「待ちなさいクレイス! せめてルルを離しなさい!」


 ユリーシア様がクレイスくんを叱りながら駆けて着いてきてくれる。そーだそーだ私はきみの装備品じゃないぞ!


「危ないから」


「いや私もシュシュちゃんに勝てるとは限りませんって」


 妖怪扱いに慣れきってしまっていたが、私に特殊能力は備わっていない。きみに決めた! とか言って私を繰り出したところでシュシュちゃんがなにかの能力を操ってこない限りは戦いになったとしても物理対物理にしかならないのだ。


「クレイス! ルルを守りたいなら離してあげた方が安全だわ!!」


 ユリーシア様が激おこである。普段叱責しても諭すような口調なのに今日に限ってはその声にとんでもない怒気が含まれている。

 え、待って。クレイスくん、私をがっちり掴んでいたのは盾にするためじゃなくて守ろうとして引っ付いていたということ? まさかそんな、と言おうとしたけれど厨房の扉を開ける直前で手を離されて、ユリーシア様の言葉が事実だったと分かった。

 扉を少しだけ開けると、話し声が聞こえてくる。作り声の方のシュシュちゃんだ。


「だから、ね。……教えてくれるだけでいいんです。この公爵家について」



 




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