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振り返る過去はあるか



 日本。



 転生。




 そういえばそんな話もしていた。別にやましいことをしているわけでもないし隠す気もないけれど、信じてもらえるかな。そしてシュシュちゃんも私と同じ状況なのだけれど、勝手に話しても良いのだろうか。話の内容を聞かれてたなら一緒かな。



 ……というか、手! 私の可愛い右手!



 はよ解放しろと言いたいけれど、はたと気付く。前世とか転生だとか、そこには一度の死が絡むわけで。もしかしたら聞く人によってはオカルトとかホラーじみたものを感じるかもしれない。

 そして、クレイスくんは極度の怖がりだ。こんな話をしたらちびっちゃう可能性もあるので、手は繋いであげていた方が良いかもしれない。


 先程まで力を入れていなかった私の指がクレイスくんの手を握り返すと、びっくりしたのか肩を震わせていた。



 ああ、やっぱり怖がりだ。せめてこの話をしている最中は手を繋いであげていよう。



「あれは昔むかしのことじゃった──」



 少しおどけた方が怖さが紛れるかと語り口調で説明したのだが、逆効果だったのかクレイスくんが黙ってしまった。


「…………」


「あの、クレイスくん?」



 そのくせ握った手を離してはくれない。ぐいぐいと解放されるために引っ張るのだが、可哀想な私の右手は囚われの身から自由になることはなかった。


 え、もしクレイスくんがちびってトイレに向かうになったら私も引き摺られて一緒に行くことになる?

 嫌だよそんなの今度はどんなあだ名をつけられるやら。



「……ルル」


「あっ。やっと喋った! トイレは一人で行ってくださいね!」


 どうしてもと言うなら入り口まではついて行ってあげるし、用が済むまでそこで待っていてもいい。けれど中まで連行されるのは絶対にごめんだ。それは同性のお友達に頼んでほしい。



「……何を言ってる? トイレに用はない。それより、その……大丈夫か?」


「トイレに付き合わせられないなら大丈夫です。あっ、違った手も離してほしいんだったっ」



 問い掛けの意味がわからないが、とりあえず今大丈夫でないことがあるとしたらクレイスくんが原因なのでなんとかしていただきたい。私の可愛い右手の自由を保証してくれるだけで良いのだ。



「手は……握ってたい」


「なんでっ!?」



 やっぱり怖がらせてしまったのだろうか。クレイスくんが怖がりだと分かっていてこんな話をした私が悪いのかもしれない。どうにか怖いのを紛らわせてあげられないだろうか。



「ううん……? 前世の記憶も含めたら私はおねーちゃんだし、なでなでよしよししてあげましょうか?」


「お前は姉じゃない」



 ……ぐっ。本当のお姉ちゃんが良いってか。このシスコンめ。

 だがお生憎様、ユリーシア様は絶賛授業中だ。



 ぐぬぬ、となりながらもクレイスくんにバレないように小さく溜息を吐いた。彼が怖くなくなるまでの間は諦めて好きにさせておくか、なんて思っていると身を隠していた木の枝が再びがさがさと音を立てて動き、いきなり視界が陰った。 


 額に固い感触があって、生温かい。あれだけ離してほしかったいつの間にか右手は自由になっている。


 なんぞ? なんて思っていたが、すぐに分かった。



「あの、なぜわたくしはこのような刑に合っているのでしょうか……」



 いつもより畏まった一人称で聞いてみたが、返事はない。

 クレイスくんは私の眼前に膝を突いて、体操座りしていた私の身体に覆いかぶさるように包み込んでいる。額にあたる固い感触は彼の肩だ。絶対にこの体勢はクレイスくんがきついだろうよ。



「痛かったか?」


「いいえ……」



 痛くも重くもないが流石に目が回ってきた。心臓がばくばくいっている。なんで私はこんな目に合っているんだ。クレイスくんの目的はなに。聞きたいけれど今声を出しても爆音を響かせている心臓の音にかき消されてしまいそうだ。現実にそんな現象が起こるわけはないのだけれど。



「寂しいか?」


「えっ、なんで……」



 え? なに? クレイスくんは寂しいの?

寂しくなったからぬいぐるみ的なもの抱き締めたくなっちゃった的なアレ? この子、本格的に意味がわからない。ビビってる時はいつも饒舌じゃんか。ちゃんと心理状況を説明して!



「……死んだら痛い、と思う」




「あっ、そっち?」



 抱き締める力が強いかとかそういう話じゃなくて、死んだ時に痛くなかったか心配してくれたのね。そっかーいい子だねーでも好きだったコンテンツのこと意外はあんまり覚えてないからねー。というか、だから慰めるために抱き締めたってこと? なんでじゃい!



「周りの人とも会えなくなったはず。もう一度会いたい人がいてももう叶わないだろう」



「えっと……、心配してくれたからクレイスくんが私をよしよししてくれてるって状況ですかね。これは。あの、大丈夫です。ゲームが大好きすぎてそれに関する記憶は強烈だし諦めきれない部分もあるんですが、前世は前世と割り切っているというか……曖昧な部分も多いですし、覚えている以上のことを無理に思い出そうとしたことはないので」



 足るを知る、という言葉がある。両親も愛してくれているし、あんまり会えていないが姉たちとも仲は悪くない。最近はユリーシア様やクレイスくんとも過ごすようになったし、懐かしいと思うことはあっても寂しいなんて。私は今充分に幸せなのだ。無理に前世を振り返ったところでそこへ戻ることは出来ないのだから、だったら今を楽しんだ方が良い。



「……じゃあ、良い」


「わたしはあんまりよくないのですが……」



 さっきから間近で喋りかけられるものだから、クレイスくんが言葉を発する度に吐息が耳にかかる。

 緊張して呂律が回らなくなって、まるでシュシュちゃんみたいな舌っ足らずな喋り方になってしまった。


 怖くないなら離してよぉっ。



 そして、効果的な方法があることに気が付いた。



「ングォッフォン!!!」



 いつでも楽しく執筆してますがこの辺は特に楽しく書かせていただきました。


 このお話を追ってくださっている方もいるようで、感謝の気持ちでいっぱいです。


 もりもりお話を進めたい気持ちもありつつ、ここからは一日一投稿になってしまうかなーと。


 この作品を読んでくださったこの時間が楽しいものとなれば幸いです。

 これからもどうぞ宜しくお願いいたします。

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