ヒロインとの邂逅
あれから、ユリーシア様のアイドルレッスンは滞りなく進んでいた。というか、ユリーシア様のポテンシャルが高すぎてゲーム知識しかない私が技術面で役に立てることがほとんどないのだ。
歌や振りを覚えていると言ってもオタ芸仕込みで、専門的な指導が出来るわけがない。
ならば触れ込みだ。目新しさを大事にしたいので内容を詳しく説明は出来ないけれど、三週間後のグラシュー侯爵邸でなにかとっても楽しいことをするよ! 来てね! という宣伝をする。まずは私のお友達から声を掛けて、お友達のお友達も大歓迎だから連れてきてね、と芋づる式に参加者を増やすのだ。
そうしてあの無礼な小僧どもの誰か一人にでも繋がれば良い。
もし奴等が来なかったとしても、ユリーシア様を大大大人気者にしてしまえば今のような扱いは出来ないだろう。今だってあの理不尽な弾劾を咎めたいと思う人は居るはずだけれど、高位貴族の顔触れに二の足を踏んでいる。そして彼らは公爵家には及ばなくても名だたる貴族家子息の集まりだからこそ公爵令嬢のユリーシア様にあんな態度が取れるらしい。
けれど、もし矢面に立たされているのが自分の推しだったら? 人間、推しの悲しい顔は見過ごせないものなのだ。きっとたくさんの人が奴等に苦言を呈する。一人二人の声なら家の力で潰せても、それが多数となればそう簡単にはいかない。
やつら同様、数の力で押し切ってしまえばいいのだ。
……いいのだ、が。
生憎私には特別親しいお友達というものがいない。いや、お友達というものがいないわけではない。お友達は居る。一人行動が好きすぎて舞い込むお誘いを断りがちだったのが災いして、浅いお付き合いしかないのだ。
言っておくがいじめられたり仲間外れにされたりなどはしていない、断じて。
ただ、多分付き合いの悪い人だと思われている。
例え嫌われてはいなくとも、普段自分からの誘いに乗らない人が急にパーティーするよ! 来てね! なんて言ってもじゃあ行くか〜なんてなる人は少ない。はっきり断られることこそなくても、「行けたら行くね」のような社交辞令的な返事が殆どだ。
レッスンに続き、力不足を痛感する。
オタク知識だけでどこまでユリーシア様を導けるか。柄にもなくちょっぴり落ち込み始めてしまったのだが、立ち止まっている時間もないのだ。
人間いつ死ぬかわからないのだから、やりたいことがやれるチャンスは逃してはいけない。
クレイスくんに渡す譜面の続きでも書くか、と中庭の端っこの背の低い木が並んだ場所へ行こうとすると、この先には行かせまいと言わんばかりに仁王立ちで立ちはだかる女の子が居た。
シュシュちゃんだ。
「あ、どうも〜。こんにちは」
「えっ? あ……これはこれは。こんにちは」
おお。会話は和やかだけれどやっぱり地声が低いんだね。これはこれで魅力的だし、いつもの甲高い声じゃなくても地声の方が心地良いのに。会釈しながら挨拶をして、そのまま横を通り過ぎようとしたら肩を掴まれた。
「……って、ちょっと! なんでスルーしちゃうの!? 私とお話したくないの!?」
いや、別に。少なくとも今はシュシュちゃんと楽しく談笑するって気分でもないんだけど、なんで私の周りはこう自信過剰が多いかな。
「可愛い女の子は好きですよ。でも、いつ何時でもお話ししたいと思えるほど貴女に崇拝や恋愛感情とかいったものは抱いていないので……それに、私も貴女と同じくらい可愛いですしっ」
「違う違うちっがーう!! 確かに貴女も可愛いけど……そうじゃなくって、あなた!! あの歌を知っていたってことは日本人でしょ!!」
ああ、そっちね。あの時点でヨッおめえ転生者なんか? 実はオラもだ! くらいのノリでお互い認識したものだと思っていたのだが、今更確認されるとは。それに、元日本人だが今は日本人じゃない。
「違いますね」
「えっ……」
あっ、しまった。クレイスくんの言葉足らずが移ったかもしれない。あの子、怖がりだからビビってる時はやたら饒舌だけどそれ以外の時は必要なことすら喋らないんだよな。
「ごめんなさい、今は日本人じゃないので」
「あっ、私こそごめんなさい……?」
よくわからないけどお互い謝り合う。日本人あるあるだ。
「何のご用ですか? 同担拒否ですか? 私は同担大歓迎ですけど……どちらにせよ貴女があの日歌っていた曲のあの子は担当じゃないので大丈夫ですよ。箱推しは箱推しだけど将来を誓った最推しが居るので……」
誓い合ってはいない。勝手に私が誓っただけだから。
「……っ、貴女っ! なんでそんなにズレてるの!? 別に推しも何もないわよっ。耳に残っていた曲をなんとなく口ずさんだだけなんだからっ。それより貴女……貴女のせいで私の計画が台無しなんだけどっ」
計画、とは。スタンダードなところで行くと王族や高位貴族へのお嫁入りかな。王族目的だとしたら取り巻きたちは足掛かりか。可哀想だがユリーシア様にあんな態度をとった奴らなので同情はしない。
シュシュちゃんの計画とやらを邪魔した覚えはないのだけれど、もしかしたら悪役令嬢の役割がユリーシア様から私にチェンジしたのだろうか。ユリーシア様が謂れのない罪で責められてしまっているのには同情してしまっても、それが自分の立場となるとなんだかちょっと楽しそうな気すらするのでそれならそれで構わないのだけれど。
でも、あのダル絡みがなくなったとしてもユリーシア様にはアイドルデビューしてほしい。そして見届けたい。途中で何かを投げ出すような方ではないと感じているので、彼女達のターゲットがユリーシア様ご自身でなくなったとしても、少なくともデビューの舞台までは付き合ってくれるだろうが、その時私が傍に居て観られなければ意味がない。
「まあよくわからないしなんでも良いんですけど……少なくともあと二週間くらいは追放とかはやめてくださいね」
「よくわからなくないっ。貴女、この世界が乙女ゲームの世界だからって私が男の子を侍らして良い気分になってるって思ってるのっ!?」
実際そうではないのか。本命が居るからあとはオマケとかそういう話かな。それにしたって彼女の取り巻き達とは接点がない。あと、やっぱり乙女ゲームの世界だったんだね。タイトルを聞いても分かりそうにないが。
「私っ、……私はっ……!! クレイス様と仲良くなりたいの!!」
なんかクレイスが私に乗り移ったのかクレイス視点の怖い夢を見てしまいました。なんてこった恐ろしい。
本日はあと何回かアップしたいなと思ってます。
お付き合いくださる方へ私の愛と感謝が届きますように!




