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エール邸の食事



 エール邸の晩餐にお邪魔することになり、着席して数十秒。私は固まっていた。


 貴族の最高峰たる公爵家に萎縮してしまったわけではない。ご両親はお仕事で遅くなるのが常ということで、私達三人だけでの食卓だ。ご挨拶の準備もしていたので肩透かしだったが、流石に公爵様相手に普段の調子ではいられないだろうと緊張していた部分もあったのでむしろ気楽だった。



 うん、問題はそこではない。

 


 立派な長テーブルに美しい所作の侍女さんたちが運んでくれた食事。


 問題はこちらである。



「玉子焼きにナスの揚げ焼き、松茸ごはん……?」



 ものすごく馴染みのある顔ぶれである。



「あら、知っているの?」



 そう。馴染みがある。いや、流石に松茸ご飯は馴染みがあるとは言い難いけれど。よーく知っている。



「公爵家の領地のね、特産品で作っているの。大体の人は馴染みがないものでしょうからスタンダードなものも用意したんだけれど、抵抗がなければこちらも食べてちょうだいね」



 和食の奥には、これまた馴染みのある丸パンにローストビーフ、ポタージュにサラダなどなど。見慣れたメニューだがきっと我が家で出るものより品質は上だろう。



「……好きです、どちらも」



 マナーとして不適切とは想いつつも、和食を前についいただきますの合掌をしてしまう。

 クレイスくんもユリーシア様も不思議そうな顔をしていたが咎められることはしなかった。



 フォークとナイフで玉子焼きを切り分けるなんて始めての経験だったけれど、口に運んで咀嚼すると色んな気持ちが溢れてきた。


 しょっぱい系の玉子焼き。


 前世は前世って割り切って大好きだったゲームのこと以外はあまり思い出そうともしてこなかったけれど、きっと私の人生は半端で終わってしまったんだろうな。

 家族や仲の良い人を残して。やりかけの仕事とかもあったのかな。



 ちょっぴり悲しいような寂しいような気持ちでしょんぼりしていたら、大きな掌が視界を遮った。



「クレイス。はしたなくってよ」


「……心配だろう。ぼうっとしてる」



 クレイスくんが私の反応を窺うために差し出した掌だったらしい。


 心配とかしてくれるんだ。友達だから気にかけてくれたのかな。普段は失礼なやつだけれど優しいところがあるんだな、と感心する。



「……あ、大丈夫だよ。他で食べたことがあってね、懐かしいなあって思っただけ」



「気に入ったならたくさん食べるといい。毎日食べていってもいい」



 毎日はちょっと……と言いかけたが、クレイスくんは変わっているので冗談なのか本気なのかすらわからない。

 領地の特産品なんて言っていたし、アイドルのことも知らないみたいだから二人はきっと転生者というわけではない。けれど、この場合でこの食事とまた出会えたことに心の底から感謝してしまう。

 家のごはんももちろん美味しいけれど、やはりこちらは……和食は、心に馴染む味だ。



「美味いか?」



「うん。すごく美味しい」


「いっぱい食べてね」


「はい」






 あまりにも懐かしくて、美味しくて、調子に乗って出されたものをすべて平らげてしまった。私を見守る二人の雰囲気が優しくて心地よくて、だからといって好き放題してしまった……と反省した時にはもう遅かった。ユリーシア様とクレイスくんは食後でも優雅だけれど、私ときたら懐かしの和食はもちろんパンやローストビーフの方まで美味しく頂いてしまったので、食べ過ぎで苦しい。テーブルに突っ伏したいくらいだがいくらなんでもそんなお行儀の悪いことは出来ない。

 前世の女子高生時代ならやったかもしれないけれど。今の私は侯爵令嬢なのだ。



「……あのっ、なんて無礼と失態を……」



 人様んちでがっついて食事を喰らいつくし、あまつさえ途中から公爵令息にタメ口をきいていた気がする。いくら友達相手とはいえ淑女としてあり得ない。

 次からはきっと妖怪令嬢改め大喰い無作法令嬢なんて呼ばれるのだ。きっとそうだ。



「そんなに気にしなくて大丈夫よ。また食べていって」


 優雅に口元をナプキンで拭いながらユリーシア様が微笑んでくれる。……優しい。



「お言葉に甘えても良いんですか……?」



「さっきも言ったが、毎日でも大丈夫だ。あと、敬語は使わなくていい。さっきみたいに」



 クレイスくん。きみは無礼失礼少年だが友達には甘いんだな。でも、そういうわけにはいかないだろうよ。



「そちらは遠慮しますね」



「あら……」



 なぜかユリーシア様が少し残念そうな顔をして、クレイスくんは相変わらず何を考えているのかよく分からなかったが大して気にしていないだろう、多分。


 いただきますの合掌をしたからにはごちそうさまもしないと終われなくて再度掌を合わせたのだが、その動作をもう二人が気にすることはなく食事は終わった。




 そして、この時の私はまだ知らなかったのだ。



 この食事が、後にあんな大事件を引き起こすことを。



 

 昨日から読んでいただける方が増えていてとても嬉しいです。


 もしこの作品を気に入ってくださった方がいらっしゃいましたら評価やブクマ、感想にリアクションなどなどなにかしていただけたなら飛び跳ねて喜びます。


 以前してくださった方ありがとうございます。飛び跳ねて喜んでおりますのでこれからもお付き合いいただけましたら嬉しいですっ。

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