中庭の邂逅
午前の授業を終えてお昼休み。私は中庭の端っこでしゃがみこみ、背の低い木に体を半分隠していた。ここから去る時には頭は葉っぱだらけだろうが仕方ない。
本来ならこの時間もランチミーティングとして使いたいのだが、あの超キラキラのエール姉弟ととびきり可愛い私が一緒に居たら普段の何倍も視線を集めてしまう。
やましいことをしているわけではないが、やはり新鮮さは大事にしたいのでライブ当日まで今回の計画は密やかに進めたいものだ。
昼食は片手で食べられるサンドイッチで手早く済ませて、残り時間は譜面の書き起こしにあてる。
朝会った際にユリーシア様がお気に召した曲を教えてくださったので、羊皮紙に羽根ペンでがりがり書き殴っていく。……前世の習い事、もっと真面目にしておくんだったな。これで良いのかところどころ不安になってきた。
……いや。好きなことをしているんだ。不安になっても仕方ない。楽しもう!!
今回私が譜面を用意しなければいけないものは二曲。一曲は私が決めた。二曲目は朝ユリーシア様が気に入ったと伝えてくれた曲。しかし、ユリーシア様が口にした曲は意外なものだった。しっとり系のバラードやかわいらしい曲もあったのだが、彼女が選んだのは低い声で力強く歌い上げるもの。前世での私の最推し……ボーイッシュな女の子の持ち歌だった。
個人的にはこの曲を選んでくれて嬉しいのだが、まだユリーシア様の歌唱力も確認していないため不安もある。なにしろ私の最推しは最高に歌が上手かったのだ。
今回はユリーシア様の『かわいい』に焦点を当てるつもりでいるので、歌唱力の方は一般人の中で上手いと言われるレベルならば充分ではあるのだが。何もプロと同じくらいとかそんな水準である必要はない。けれど、もし音痴……、いや、歌唱が苦手ならば本番までに形になるよう一緒に練習しなければ。
そのあたりは放課後エール公爵邸で確認しよう。他に進めておけそうなことは、衣装の方向性だ。
まずは一曲目。大変不本意だが、通称物の怪パーティーと呼ばれるあのお茶会。
あの時に私が披露した曲を歌ってもらう。そちらは可愛い系だ。二曲目は私の最推しの持ち歌でかっこいい系。
衣装はどちらかに寄せたひとつにして、衣装と曲のイメージが合わない方はあえてギャップ萌えを狙ってそのまま歌ってもらうか、二曲目に入る前に着替えてもらうか。
着替えてもらうとしたらその間どうやって場を持たせよう。私が司会をするか、クレイスくんにオタ芸でも仕込んでやらせるか……。
「んんんん、悩ましいっ!!」
どの案も楽しそうだし迷ってしまう。どうしたらユリーシア様を一番輝かせることが出来るかな。
頭を抱えて木の枝の中でばっさばっさとやっていると、微かに歌声が聴こえてくる。ずっとずっと昔にも聴いた、懐かしい曲。私の最推しとユニットを組んでいたちょっと影のある女の子の持ち歌だ。
けれど低い声でアンニュイに歌うその声は、微妙に……というか盛大に音がずれている。
それでも決して上手ではないけれど楽しそうなその歌声に、つい私も音を乗せてしまった。
ところどころズレたりハモったり、もし今この歌を聴く人が居たら耳障りだと言うかもしれない。けれどこの時間が何よりも楽しくて、一曲まるまる歌いきってしまった。
「はぁっ、楽しかったぁ〜」
きっと声の主も同じ気持ちだろう。確信を持って茂みから這い出ると、そこに居たのは思いもよらぬ人物だった。
「シュシュちゃん」
「あなた、昨日の……」
こちらを見るや否や、うげぇとでも言いたそうな低い声で私を睨んで走り去ってしまった。
そんなに嫌われる覚えはないのだが、直接話したこともないのにちゃん付けなんてしたから気に入らなかったのだろうか。
首を捻っても答えは出ないし、なんとなく伯爵小僧の無礼ぶりに比べれば許せると思ったので気にしないことにした。
あと少しで予鈴が鳴る。それまでに放課後の準備を終わらせてしまわなければ。
それにしても、やっぱりシュシュちゃんの地声は低かったな。
ある程度の作業を終わらせて教室に向かう途中、クレイスくんと出会った。
「頭に葉っぱがついてる」
そう言って、私の髪に付いていた葉っぱちゃんたちを回収してくれた。
女子に軽々しく触れるんじゃない、と思ったがどうせ下心などないのだろうから有難くお世話されておく。
「ありがとうお母さん」
「きみの母君になった覚えはない!!」
お父さんの方が良かったのか、少し赤くなって怒ってしまった。
思春期の男子とは難しいものである。
読んでくださってありがとうございますっ。
もりもり続きも書いていきます!
お付き合いくださったらとっても嬉しいです。




