第二章:帝国構築 第一節 供与と服従
第二章:帝国構築
第一節 供与と服従
征服から一月後。
かつてのルストリア王国は、地図上から名前を失っていた。
その跡地に広がるのは、鉄と規律で再編された“区画”。
水路が引かれ、兵舎が立ち、発電機の轟音が街の心臓になった。
この国はもう「国家」ではない。
それは──**翔璃の“実験場”**だった。
征服した国を殺して終わりにしない。
焼き払ったあとに新しい構造を植え付ける。
文明ではなく、システムを。
その中心に据えられたのが、「制御付きの武器供与」だった。
翔璃は、旧ルストリアの兵士たちを一人ひとり呼び集めた。
背景や忠誠心、戦歴や思想までを調査し、選別する。
選ばれた者たちに、彼は新たな“装備”を手渡した。
それは銃──この世界の者たちには「黒い魔道具」と呼ばれるものだった。
だが、それはただの武器ではない。
「お前たちが使えるこの銃は“貸し出し”だ。」
翔璃は宣言した。兵士たちの前で、まっすぐに。
彼らの瞳は、未知の力に怯えながらも、期待の色も含んでいた。
「これは契約兵器だ。引き金はお前の意志で引けるが、裏切った瞬間に銃がお前を殺す。爆発するか、逆噴射するか、どんな死に方かは日替わりだ。」
ざわめきが広がる。だが誰も声を荒げない。
「信じるかどうかは任せる。ただ、試したやつは全員死んでる。」
翔璃の目は、冗談を言う人間のものではなかった。
実際、最初の週に裏切った兵士は5名いた。
そのうち2名は射撃演習中に爆発四散し、1名は夜中に銃が発火。残りは朝起きたら頭に銃口が向いていた。
兵器はもはや、兵士の“道具”ではなかった。
逆だった。武器が兵士を制御していた。
翔璃が作ったのは、「契約と制御による武装」──忠誠心を可視化する兵器ネットワーク。
信じた者には圧倒的な力を与える。
だがその力は、王への服従が前提となる。
翔璃はそれを「ルール」と呼んだ。
「お前たちには選択肢がある。
剣を持って滅びるか、銃を持って生き延びるか。」
ルストリアの元兵士たちは、選んだ。
服従を。
そして“火力”を。
やがて彼らは、翔璃の名を掲げた「再編部隊」となり、周辺の村々や残党を平定していった。
伝統的な剣や弓では、もはや彼らには勝てなかった。
◇
噂は国境を越えて広まっていった。
「満木翔璃に屈すれば、力が得られる」
「逆らえば、国ごと焼かれる」
それは幻想でも、誇張でもなかった。
現に、隣国ハーディアは、ルストリアの敗北から半月で降伏文書を送ってきた。
その王はこう語った。
「我が民が生き延びるために、貴君の秩序に従うことを望む」
「剣は捨てよう。代わりに、我らにも“それ”を与えてくれ」
彼らが欲しがったのは、銃でも、技術でもない。
“生存権”だった。
翔璃は迷わなかった。
「銃は渡す。ただし、契約もな。」
ハーディアの兵にも、制御付き銃器が供与された。
同時に、教育用ドローンと語学学習ソフト、夜間監視装置、そして“契約管理チップ”が配布された。
軍隊は軍隊でありながら、データ管理された“端末”でもあった。
そして、それらすべてが「ジャッカル」経由で届くのだ。
翔璃のタブレットは日々更新され、新たな拡張パックやモジュールが追加されていく。
■新着:
・遠隔制裁機能(不正行動時のリモート殺処理)
・感情同期式識別バイザー(逆意検知)
・補給用ナノ食糧パック(200日分)
世界は変わっていた。
誰も気づかないうちに、“王権”の形が変わっていた。
◇
そして、その中心に立つ男──滿木翔璃。
彼は王冠をかぶらない。
玉座にも座らない。
だが、誰よりも王だった。
「支配とは、握ることじゃない。
選ばせてやることだ。“従え”と命令せずとも、服従させる状況を作る。それが帝国だ。」
やがて人々は、その政治形態をこう呼ぶようになる。
──翔璃帝国。
それは明確な国境を持たない。
だが、武器と契約が届く範囲には、すでにその“支配”が浸透していた。
力と恐怖と知の複合体。
魅力と破滅の境界に立つ王。
翔璃帝国の輪郭が、今、世界の地図に焼き付けられようとしていた。




