表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4王物語  作者: 斉藤
6/27

4. 背景に潜む異常

4. 背景に潜む異常


夜が更けていく。だが翔璃の目は、冴え続けていた。

玉座なき玉座、旧ルストリア王宮の一室。かつて国王が国法を記した書斎は、今や彼専用の作戦室へと変わっていた。


壁にかかる地図、無線機、試作中の発電設備──その中で、ひとつだけ異質なものがあった。


翔璃の手の中にある、それは漆黒の板。

どこにも接点がない。発光もなければ、素材の種類も不明。

けれどそれは、彼の指先が触れた瞬間に応える。


「──Welcome to JACKAL」


異界の声が、無音の空間に響いた。


タブレットの画面が、にじむように浮かび上がる。

検索バー。カテゴリ別表示。無数の武器名、兵器名。

そして、その横に並ぶのは──この世界の者には到底理解し得ぬ言語と、奇怪な価格表記だった。


■おすすめ商品

・自動小銃(5,000発付き)……金貨800枚/魔石50個/

・ポータブル火砲(折り畳み式)……金貨1,200枚/

・戦術AI・中級型(多言語対応)……金貨3,000枚/魔石150個/


翔璃は眉一つ動かさず、画面をスクロールしていく。

その目は獣のようでいて、どこか機械的でもあった。


「ようこそ、ジャッカルへ。ご希望の商品は?」


表示されたその声は、まるで誰かの囁きのようでありながら、確かに彼だけに届いていた。

ここには、他の誰も立ち入れない。


翔璃だけがこの「通販」を知っていた。

いや、正確には──彼にしか“見えない”のだ。


他の者がこのタブレットを手に取っても、ただの黒い板にしか見えなかった。

触っても、何も起きない。

兵士たちは「王の魔道具か」と噂したが、翔璃は否定も肯定もしなかった。


なぜ彼だけが使えるのか。

なぜ世界の理を越えた兵器を取り寄せられるのか。

それはまだ、語られていない。


翔璃自身もまた、その答えを知らないのかもしれない。


最初にこのタブレットが現れたのは、彼がこの世界に落ちてきて間もない頃。

気づいた時にはポケットに入っていた。起動方法も、支払い方法も、最初から「知っていた」気がした。

まるで、それこそが“本来の自分”であるかのように。



だが異常はそれだけではない。


翔璃が使用しているその通販サイト「JACKAL」は、ただの武器商人ではない。

それは明らかに、世界の理の外側にある。


ときおり、検索画面の片隅にこういった文字が現れる。


「New Arrival:世界崩壊セット(限定1)/推奨使用レベル:管理者」


「魂スキャン完了:翔璃個体、適合率92.4%。試験継続中」


「次回配送予定:72時間後 ※干渉レベル中位に達します」


意味はわからない。だが確実に、これは何かを“観察”している。

翔璃だけを。


彼はその異常さに気づきながらも、黙って受け入れていた。

目的はただ一つ。勝つこと。

それがどんな形であっても、構わない。


翔璃の支配は、外見こそ武力による制圧だったが、裏ではこの異常な力との“共犯関係”によって成り立っていた。

彼が「戦争のルール」を壊せたのも、ジャッカルが提供する兵器あってこそ。


だが、彼はそれを決して口にしない。

この力の正体を探ろうとすることすら、危険だと本能が告げていた。



それでも、翔璃の瞳には常に“未来の火”が灯っていた。


焼け跡の上に都市を築く。

瓦礫の中に秩序を作る。

従属と技術、恐怖と快楽、支配と教育。

矛盾するあらゆる価値を一つの意思にまとめあげ、押し通す力。


「火」は消えない。

なぜなら、それこそが翔璃自身なのだ。



夜、タブレットの画面がひとりでに変わった。

何の操作もしていないのに。


「次の注文を。

君の“国”に必要なものは、なんだ?」


翔璃は、それをじっと見つめた。


そして、口元に笑みを浮かべた。


「……じゃあ、次は“教育システム”でも頼むか。」


彼は今、“国”を作ろうとしている。

血で得た王座ではなく、知で築く帝国。

だがその根本には、説明不能な力が存在していた。


それはまるで、“誰かの意志”が彼を王に仕立てようとしているようでもあった。


翔璃はまだ知らない。

このタブレットが、どこから来たのか。

そして、それが何を目的としているのかを。


彼の支配の裏には、明らかに──異常が潜んでいる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ