第六章:継ぐ者
第六章:継ぐ者
第三節:「王子に点数はいらない」
1. 教育府改革:点数主義の完全廃止
継王・中川介秀は、かつて依柊が作った制度の根幹の一部を、自らの意志で撤廃する。
「試験成績の優劣は、人間の可能性を狭める」
「点数は“支配の便利な道具”に過ぎない。
人を分類するための罠だと、私は知っている。かつての私たちが使っていたからだ」
王子・翔には、一度も点数が与えられなかった。
成績表もなく、評価もなかった。
だが、彼は誰よりも“学ぼうとした”。
2. 教育の三系統:生き方の選択制
新しい教育体系は、三本の柱に再設計された。
① 天才教育(創造と突破の型)
試験ではなく「問いの提出」が条件
論文、発明、芸術など“枠を壊す者”の道
評価は“社会への問いかけの重さ”
「君の役目は、世界を変えることではない。
“なぜ変えたいのか”を語れるようになることだ」
② 普通才教育(共に支える型)
実技と生活に重点。農業、商業、物流、家政などを尊重
成績でなく“継続・責任・協力”を評価軸に置く
「この国が動いているのは、“普通”の人たちの積み重ねのおかげだ。
君たちは、国家そのものだ」
③ 支援者教育(人を育てる型)
教師、医師、相談員、行政の素養を重視
評価は「人に寄り添う能力」
「知識を持つ者より、孤独を抱えた者の手を取れる人が、社会を治す」
3. 王子・翔の学び方
王子・翔は、三つの教育すべてを巡った。
だがどこでも特別扱いされなかった。
誰も彼に「君は王子だ」と言わなかった。
誰よりも学び、誰よりも黙って聞いた。
ある日、農業実習で指を切った少年を手当てした後、彼は言った。
「“王”って、誰かを見下ろすことじゃないんだね。
目の高さを合わせられる人のことなんだ」
介秀は、その言葉を聞いて静かに頷いた。
4. 教育理念:徳治へ
王子の学びはやがて、“法を超える思考”に至った。
継王が教えたのは、最後にひとつだけ。
仁・義・礼・智・信
「法がすべてを守れると思うな。法は抜ける。曲がる。
だが徳は、誰にも抜け道を許さない。
徳がある者は、道を迷っても戻ってこられる」
「君が王になるとき、“法の不備”を徳で補える者であれ」
5. 現代教育からの継承と断絶
継王は明言した。
「現代教育の良い点、つまり論理性・言語能力・倫理の教育は継承する。
だが“競争による序列づけ” “平均点を目指す集団管理” “点数化による人格の切り取り”はすべて廃止する」
この宣言に、世界各国の知識人が視察に訪れた。
王子の通う学校には、制服もなかった。
だが、そこには「個性」と「責任」と「尊重」が生きていた。
ラスト文:王を作らない教育
中川介秀は、王子を“王にする”教育を施さなかった。
代わりに、“人として立てるようにする”教育を与えた。
この国の未来は、もう一人の王ではなく、“一人の人間”がどう生きるかに託された。
そこに宿命はない。あるのは、選ばれた自分の意志だけ。