プロローグ
プロローグ:語り(継王の独白)
―この魂は、四度生まれ、四度死んだ。
それでも私は、一人の王である。
名も形も変わろうと、私の本質は変わらない。
時の海に沈んだ記憶が、たとえ朽ち果てても、魂は覚えている。
私は王だ。そう在るように定められた。
一度も望んだことはない。だが拒んだこともない。
最初の生では、破壊者だった。
燃える天と地の下で、私は世界を焼いた。
言葉は力を持たず、剣と炎こそが真理だった時代。
理想の名のもとに、あらゆるものを壊した。
王座とは焼け跡に築かれるものと信じていた。
その信仰が、どれほど多くを奪ったのかは、灰になってから知った。
二度目の生では、策謀家となった。
影から世界を操り、民衆を欺き、王たちを操った。
善悪を超えた秩序を築くためには、嘘と裏切りもまた必要だと信じていた。
一度も剣を振るわず、言葉だけで血を流させた。
民は平穏を得た。だが、私は永遠に信じられぬ者となった。
孤独が玉座を蝕み、やがて私は自ら毒を仰いだ。
王が信を失えば、その支配は死より脆い。
三度目の生では、知を追い求めた。
争いも権力も捨て、ただ真理と向き合った。
世界中を巡り、語り継がれるべき知を集め、学び舎を築いた。
そこでは誰もが等しく問い、等しく学べた。
私は教師であり、学者であり、民の一人だった。
しかし、王ではなかった。
知は力を持たぬ。王無き世界に秩序は芽吹かなかった。
そして四度目の生。
私は再び王となった。
破壊の記憶も、策謀の罪も、知の徒の憂いも、すべてを抱えて。
それでも王であることを選んだ。
力を振るうでもなく、陰謀を操るでもなく、教壇に立つわけでもなく。
ただ「在る」ことで、国を成す。
それが、この魂の終着点であり、新たな始まりだった。
王とは何か。
力か、知か、あるいは民の意志か。
私はその問いに、四つの命を賭けて答えようとした。
いまだ正解などわからない。
だが、一つだけ確かに言える。
――王国とは、私そのものである。
それが破滅であれ、栄光であれ、罪であれ、救いであれ。
この身を通して語られるもの、それがこの物語だ。
ここに記すのは、私という「王国」の記録である。
それは一人の王の物語であり、同時に、あなたの物語でもある。
なぜなら、王が生きたということは、民がいたということだから。
さあ、始めよう。
これは、継がれし王の記憶。
生と死を超え、なお残った“何か”の真実。
あなたが読み終えるころ、それが何であったのかを知るだろう。