第二節:「文化は、国の記憶である」
第五章:生きる理由を取り戻す国
第二節:「文化は、国の記憶である」
1. 政令:記憶博物館の創設
中川芳郁は政令を出す。
「過去の戦争・革命・支配・民衆の声を記録し、“国民の物語”として保存・公開する」
「名もなき兵士、農夫、母親、子どもたちの手紙を国家資産とする」
「記録こそが、国家の魂だ」
その名も――「記憶の砦」
誰もが自由に出入りでき、戦場の記録、詩、絵、無名の墓標が展示される。
中には、翔璃・依柊時代の罪も、飾られている。
「過ちを“忘れさせる”のではなく、“覚えていても生きていけるようにする”」
――中川芳郁
2. 民衆祭の復活:「灯火の宵」
芳郁は王国全域に指示を出す:
「各地に、“命の重み”を祝う日を設けよ」
「祭の名は【灯火の宵】――亡き者の名を呼び、生きる者が語り合う夜とする」
この日は王宮からの命令で灯を一切消し、
町中が手作りの灯火だけで照らされる。
語る。歌う。泣く。笑う。
普段は言葉にされない感情が、火とともに揺れる。
芳郁はこの祭を「国家が民を忘れない日」と定めた。
3. 新たな法廷:詩による最終弁論
ある日、裁判所で起きた事例。
被告人は盗みを働いた少年。母の薬代のためだった。
芳郁の発案で、判決の前に一度だけ「詩」で自らを弁護する権利が与えられた。
少年は震えながら、短い詩を詠んだ。
「奪ったのは、罪ですか。
それとも、母の冬を延ばした指先ですか」
判事は黙った。
判決は懲役から、奉仕活動+生活支援に変更された。
以降、この制度は**“言葉の救済”**と呼ばれ、法の中に静かに根付いていく。
4. かつての兵士たち
戦場で生き残った古兵たちが、「記憶の砦」で翔璃時代の写真を見ていた。
「あの時の俺たちは、何のために戦ってたんだろうな」
「今?……生きてる理由か?知らん。でも、もう怖くねえ」
その中の一人が、手紙を書いた。
「俺の孫が、灯火の宵で“じいちゃんって誰?”って言ってくれた。
ああ、これでよかったんだなって、やっと思えた」
芳郁はこの手紙を、砦の中央に展示させた。名札も階級もつけずに。
ラスト文:記憶に支えられた国家
剣も秩序も、この国を支えた。だが今、声と記憶がその芯を担う。
中川芳郁は、国を“動かす”のではなく、“息づかせる”ことを選んだ。
トーカイハットウミ王国は今、静かに“生き始めている”。