第五章:生きる理由を取り戻す国
第五章:生きる理由を取り戻す国
第一節:「教える」のではなく、「育つ」を設計する
1. 芳郁の初政令:「感性育成省」設立
中川芳郁は、即位から1ヶ月後、驚くべき命令を出す。
「旧教育省を解体。
新たに、“感性育成省”を創設する」
制度派官僚たちが一斉に困惑する。
「……感性?何を教えるというのですか?」
「知識や技術では国家を支えられません」
芳郁は柔らかく、だがはっきり答える。
「制度は国家を動かす。
だが、“文化と感性”がなければ、そこに人間はいない」
2. 学びの形を変える:「答えのない学習」
新教育法の骨子:
試験制度の大幅な緩和、記述式・創造式へ移行
5歳〜15歳に「対話」「物語創作」「演劇」「即興音楽」などを必修化
学年制度を廃止し、“感性レベル”に応じた学びに再編成
教師の役割は「答えを教える者」から「問いを導く者」へ
「君たちが答えを知っている必要はない。
君たちが“どう生きたいか”を考え続けてほしい」
3. 学びの現場:変わりゆく教室
教室では、子どもたちが“先生”に質問する。
「どうして空って青いの?」
「死んだ人は、どこに行くの?」
「魔法は、存在しないのになんでみんな信じるの?」
先生は言う。
「分からない。でも、それについて一緒に考えよう」
静かだった教室に、笑い声が戻り始めた。
子どもたちの絵は、まっすぐに世界を描き、
音楽は“規律”から外れて、生き物のように響いた。
4. 大人たちの戸惑いと、感動
都市部では「こんな教育では国が弱体化する」と一部から批判の声も上がる。
だが、地方のある町で“読み聞かせ会”を始めた教員が、王宮へこんな報告を送った。
「あの子たちは今、未来を想像するようになりました」
「自分の夢を“役職名”ではなく、“物語”で語ります」
「たとえ国が滅びても、子どもたちが“何かを信じて生きていける”のなら──私はこの改革に意味を感じます」
芳郁はその手紙を、王座の前に額縁にして飾った。
5. 旧体制派の元老会、来訪
元・依柊政権の残党数名が、非公式に芳郁に問う。
「このような“非合理な教育”が長続きするとは思えない」
「どうか、現実的な基盤へ戻していただきたい」
芳郁はにこやかに言う。
「合理だけで人間を作れるなら、依柊が永遠の王だったでしょう」
「私は“人としての重さ”を教えるだけです。数字では測れない重さを」
会議の最後、元老たちは黙って帰った。
その帰り道、1人が呟いた。
「……あれが本当の“王の声”かもしれんな」
ラスト文:新時代の風
第三王・中川芳郁、民の“生き方”に国を預ける。
知と秩序の上に、物語と感性が芽吹き始めた。