第二章・終幕 「譲位文書」
第二章・終幕
「譲位文書」
アーマイア・コアの執務室、深夜。
蝋燭の光が揺れる中、翔璃は机に向かっていた。
目の前には、一枚の文書。
【政務及び軍務の全権を、新井依柊へ正式に委譲する。】
【満木翔璃は、以後、帝国の戦略及び行政には関与しない。】
手は震えていた。
何時間も前から、この文書の前に座り続けていた。
独白
「……最近、気づいてたんだ」
「俺は、寝て起きたら街が作られてた。知らぬ間に連絡網が整備されてた」
「反乱軍が壊滅してた。自分が命令を出した記憶もないのに──完璧だった」
「なのに、誰も文句を言わない。むしろ、俺を褒める」
「だが、俺はもう“俺が何者か”を証明できない」
「自分の手で王国を築いたと思っていた。だが今、俺の背後に誰かがいる」
「そいつは俺を“装って”、俺より上手くやってる」
「……俺は、それに、負けた」
翔璃はペンを手に取る。
手の震えは止まらない。だが、署名欄の上にペン先を置く。
そして、書く
「滿木翔璃」
筆跡は不安定だった。だが、確かにその名が書かれた。
書き終えた瞬間──ふっと肩から何かが抜け落ちるような感覚。
力が抜けた。視界が霞んでいく。
「あとは……頼む。俺には……無理だ」
彼は静かに崩れ落ちた。
椅子に凭れたまま、まるで糸が切れた人形のように。
静かに、第二王が目を覚ます
室内の蝋燭の炎が、ひときわ強く揺れた。
沈黙の中、翔璃の体がわずかに動く。
だが、もうそこに翔璃の意志はなかった。
代わりに、姿勢を正し、目を開ける。
ゆっくりと、文書を見下ろし──口元に、うっすらと笑みを浮かべた。
「……良い判断だった。満木翔璃」
「ここからが、“王国”の始まりだ」
その声は、翔璃ではない。
冷静で、計算され尽くした声だった。
最後の一文:章のエンディング
満木翔璃、退場。
新井依柊、即位。
帝国の支配は、今、次の形へと進化を始める。