第二章・終節:王の中の「声」
第二章・終節:王の中の「声」
1. 眠れぬ夜、異常な夢
アーマイア・コアの最上階。
翔璃は寝床で、何度目かの悪夢から目を覚ました。
炎の中を歩く自分。
何百もの目が、血を流しながら翔璃を睨んでいる。
しかし彼はその視線に、何も感じない。
──ただ一人、声を上げる少女の幻影。
「それでも、王なの?」
目覚めた翔璃は、胸に手を当てる。
「……心臓の音が、聞こえねえ。いつからだ?」
2. 狂わぬはずの合理が、狂う
会議中、部下が何かを言いかけた瞬間、
翔璃は突然、その男の喉元にナイフを突き立てた。
静まり返る部屋。
「……貴様、俺に嘘をついたな」
「い、いえっ……!報告はすでに──」
翔璃の目は冷えていた。だが内心は違う。
(なんで、こんなことで殺そうとした?)
(こいつは反逆者じゃない。おれは、分かってた……)
(なのに“もう一人の自分”が殺そうとした?)
3. 鏡の中の「別の男」
深夜、翔璃は王室の鏡の前で立ち尽くしていた。
映るのは、自分のはずの男。
だが、その目は──他人のように冷たい。
「お前のやり方は、もう古い」
「力では国は続かない。統治には“構造”が要る」
「この国は次に進む。そのために、お前は不要になる」
翔璃は拳で鏡を砕いた。
「誰だ……俺の中で、王を名乗るのは……!!」
砕けた鏡の破片に映った「自分の顔」は、確かに笑っていた。
だがそれは、翔璃が知る自分の笑いではなかった。
4. そして、ひび割れ始める
翌日から、翔璃は時折“時間の飛び”を感じるようになる。
気づけば兵を動かしていた。
いつの間にか命令を出していた。
記憶がない。なのに、戦略は完璧だった。
部下の一人がささやく。
「最近の陛下は……何か、違う」
別の兵が答える。
「いい方向に変わったって言う奴もいるが……俺は、あの目が怖えんだ」
翔璃の精神は、静かに崩れていた。
だが彼はまだ、それを「異常」とは認めない。
彼はまだ、王であることをやめていない。
たとえその「王」が──もう自分一人でなくても。
章のラストシーン:
翔璃がベッドに横たわりながらつぶやく。
「……俺は、王だ」
「ずっと……そうだった」
「……なのに、なぜ……俺の中に“もう一人の王”が……?」
意識が薄れていく中、耳元で聞こえる。
「翔璃……ありがとう。ここからは、私が引き継ぐ」
そして、静かに闇が翔璃を包む。