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4王物語  作者: 斉藤
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第四節 翔璃と“声”




第四節 翔璃と“声”


その夜、翔璃は久しぶりに眠った。

ほんの短い時間だった。アーマイア・コアの作戦室に隣接する仮眠室。仰向けになり、眼を閉じたのは、計算ではなく反射だった。


ノイズのような静寂。

暗い意識の底に沈んでいく。

夢を見たのは、帝国を築いてから初めてのことだった。


最初は何もなかった。

ただ真っ白な世界に、一人立ち尽くす自分がいた。

武器もなければ、塔もない。誰の声も聞こえない。


──いや、違う。


**一つだけ、“声”があった。**


> 「お前は、王になっても満たされない」


どこからともなく響いたそれは、自分自身に似ているようで、違っていた。

冷たくもあり、静かでもあり、怒っているようでも、哀しんでいるようでもある。


翔璃は眉を寄せた。


> 「破壊は創造にならない」

> 「お前が築いているのは国ではない。罰だ」

> 「お前は、王ではなく──**災厄だ**」


その言葉に、翔璃の視界が崩れ始めた。

真っ白な世界に、黒いひびが走る。

誰かの手が、肩を掴む感覚。

振り向けない。見えない。

だが確かに、**“誰かがいる”**。


翔璃は叫ぼうとした。


──その瞬間、目が覚めた。



喉が渇いていた。

息が荒い。手のひらが濡れている。

汗だ。久しく感じていなかった“人間の症状”だ。


翔璃は静かに起き上がる。

部屋の端に置かれたタブレットが、沈黙のまま佇んでいる。

いつもなら、目をやれば自動で光り、次の通知が届いている時間だった。


だが今日は何もない。

それが、逆に不気味だった。


翔璃は額を押さえながら、呟いた。


「……誰だ。俺の中で喋ってるのは──」


誰かが自分の内部から語りかけてきた。

それは妄想でも幻想でもないと、直感で分かる。

この“帝国”を築いて以来、常に明晰で合理的だった自分の思考に、

今、\*\*“異物”\*\*が混ざり込んでいた。


記憶にない言葉。

知らない感情。

自分のものではない“意志”。


それは、**翔璃の王としての存在を疑わせる声**だった。



「満ちていないのか?」


彼は無意識に、自分自身に問いかける。

これほど完璧に帝国は機能している。

都市は沈黙に包まれ、情報は掌握され、流通は最適化され、国民は逆らえない。


だが、それが「正しさ」だと、誰が決めた?


──そんな疑問すら、翔璃にとっては異常だった。

だが今、それは確かに芽生えてしまった。


> 「王ではなく、災厄──」


その言葉が、内側で繰り返される。


「……ふざけるな。俺は誰よりも冷静に、合理的に、正確に国を作っている。

感情も、伝統も、幻想もすべて捨てた。俺こそが“正解”だ。」


彼はそう言い聞かせる。

だが、その声に対して反論している自分の姿こそが、すでに動揺の証だった。



その夜以降、翔璃の中には常に**微かな囁き**が残るようになった。


かすかに聞こえる、もう一人の思考。

彼と同じ口調、同じロジック、だがまるで“鏡”のように反対の価値を語る存在。


> 「恐怖は支配じゃない。依存だ」

> 「お前の秩序は、誰も守らない」

> 「王とは、立場ではなく責任だ」


声は時に遠く、時に近く、まるで意識のすき間を縫うように現れた。

だが誰にも気づかれない。

副官たちにも、ジャッカルにも、声の番人にも。


それは、\*\*翔璃だけに聞こえる“内部の敵”\*\*だった。



そして彼は知らない。

この囁きが、やがて一つの人格へと変化していくことを。


今はまだただの“気配”。

しかし、**第二王の影**は、翔璃の内面という土壌に根を張り始めていた。


それは忠告か、破滅か、あるいは希望か。

翔璃自身にも、まだわからない。


だがこの夜を境に、彼は眠るたびに、**“夢”に問われることになる。**


──王とは何か。

──支配とは誰のためか。

──この帝国の終着点に、何があるのか。


そして、**翔璃自身の本当の正体**に近づいていく。



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