表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

散歩

作者: 遠藤信彦

白のスニーカーが音を鳴らす。


ザク、ザク、ザク


君とじゃり道を歩いている。

僕のブーツも音を鳴らす


ジャッジャッジャ


僕の音の方が鈍くて品がない。

『きっと足音にはその人の品性が現れるんだと思う。』

君はそう言って舌を出して逃げるように走る。僕は全力で追いかける。足音がもっと下品で大きな音をたてる。君は噴水の前まで走ると急に振り返り、もう会えない、そう宣言する。


就職のために地元を離れ、君は大阪に行く。僕とは離れ離れになる。君が選択したのは別れだった。僕は頷く。僕が選択したのも別れだった。なんども君と散歩したこのじゃり道を明日からは僕は1人で歩くことになる。


『あなたは私のことを忘れるだろう。それは10年後かもしれないし、20年後かもしれない。』

僕は首を振る。彼女は涙ぐんで続ける。

『私よりもずっとかわいい、素敵な彼女ができるかもしれない。それが明後日で、1ヶ月後には私のことを思い出さないかもしれない。』

僕はニコッと笑って頷く。僕の人生も捨てたもんじゃないのかもしれないと返事をする。

『君は将来元気が取り柄の女の子と恋に落ちて結婚する。2人の子供を授かり、お腹は出て、毎日生え際の後退を気にするだろう。』

素敵な人生だと思う。僕は本心からそう伝えた。

『そう、それ以上に幸福な人生なんてないの。君は素晴らしく素敵な人生を送る。そしてあなたは私のことを思い出さない。』

彼女の目から大粒の涙が溜まる。それは数秒後に目尻から垂れ落ちて頬を伝い、顎まで到達するだろう。ひと筋の涙の跡が我々2人の間の境界線のようにクッキリと二分する。

『きっと思い出す。』

約束すると言った。彼女は微笑んで小さく首を振る。

『私の人生だって捨てたもんじゃないのよ。給料は少ないかもしれないけど、愛嬌とユーモアがある年下の男の人と恋に落ちて結婚するの。そして男の子一人と女の子を二人産んで、でっぷりと太って、洗濯物がしんどいが口癖になるの。最高の人生になるわ。』

素敵な人生だねと相槌を打つ。


『あなたを思い出せないくらい忙しくなるのよ。』


僕はうん、と頷いて彼女の手を取り、歩きだした。


来た道を戻るのはやめようと彼女が提案した。私たちは未来に向かって歩き出しているのだ。過去を振り返り、来た道を戻るようなことはやめようと言った。


ふたりで何度も歩いたこの公園の散歩道、まだ通っていない道が一本あった。あの道を通ってみよう。


きっとその先には素敵な何かが待っているのだ。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ