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1 再会は想定外

「Life of this sky」シリーズ2作目


名前はどういう字を書くの?

 彼女は白い指先を上に向ける

 ・・・ひと文字です カラとも読みますね

 (カラ)っぽの(ソラ)

 彼女は誰に

 どのように

 愛されるのだろう


 空を満たすものは何?


 5月も中旬になり、GWの大混雑も終わった成田空港。

 桜のシーズンはもうとっくに終わったが、日本は新緑の季節だ。様々な花々がそこに彩を添える。

 エアポートには多くの人々が、それぞれの目的を抱えて歩いている。

 そんな中、1人の女性が黒い大型バッグをカートに乗せ、到着ロビーへと入っていく。

 黒い髪、黒い瞳、似合わない古着のネルシャツとジーンズに身を包んだ彼女の名前は、ソラ・リセリ・キクチと言う。大型バッグの中には、彼女の両親の遺骨が入っていた。


 無表情でカートを押すソラに、注目する人は誰もいなかった。けれど、俯きがちに歩く彼女の顔を覗き込む人がいたら、その整った顔立ちと肌の綺麗さに少なからず驚いたことだろう。けれど、どれほど美人でも着ている服によっては眼を引かないのが社会の常だ。

 通路に添って到着ロビーに入ったソラは、急に足を止める。

 視線の先に立っていたのは、2人の男性。

(・・・何故ここにいるのでしょう?)


 それは去年の11月半ばから3か月間、臨時のチームとして一緒に活動した仲間、ヒロこと高木博之と、シンこと山口真治郎だった。

(・・・アンジーが連絡したのかもしれませんね)

 

 アンジーは、ソラにとっては恩人で一番親しい女性だ。ヒロにとっては元恋人でプロポーズ寸前までいった相手でもある。

(何にしても私は、する事をするだけですから)

 一度は止まった足を、再び前に進める。ヒロとシンは結構長い時間そこで待っていたようだが、そんな気配も見せずソラの方へやってきた。

「お久しぶりです」

 先にそう言って頭を下げたのはソラの方だった。



 数時間前、ヒロのスマホにアンジーからの電話が入った。

「ソラが日本に向かったわよ。多分、彼女は連絡をしてないと思ったから こっちからしたんだけど」

「ああ、アンジー。それは助かります。ええ、ソラからの連絡は無いです」

 かつては恋人同士だった2人だが、今は親友で戦友でもある。

「やっぱりね。彼女、辞表を出してたのよ。日本に行くって私のデスクに言いに来た時は、そんな気配も無かったから 貴方にも連絡するものと思ってたわ。辞表はさっき、私の手元まで届いたんだけど」

 アンジーは犯罪捜査組織FOIの人事部長だが、ソラが来た後、生憎丸一日出張に出ていたのだという。

「・・・そうでしたか」

 ヒロは、最後に空港でソラに言った言葉を思い出した。

『日本に来るときは連絡をください』

そんなヒロの言葉に ソラは淡々と返したのだった。

『それはご命令ですか?』と。


 辞表を出せば、上司と部下という関係は無くなる。その時点で、命令を実行する必要もないとソラは考えたのだろう。

 それでムッとして迎えに行かないのが普通かもしれないが、その程度で変わるような浅い思い入れではないヒロは、アンジーが調べてくれた、ソラが乗ったと思われる飛行機の到着時刻を聞く。そしてシンに連絡を入れ、とにかく空港までやってきた2人だった。


「おう、久しぶり。2か月ぶりだよな。元気だったか?」

 そう言って屈託のない表情で、先に返事をしたのはシンの方だった。

「それがご両親の遺骨だろ?これから埋葬先に行くんなら送ってくよ。そのつもりで来たんだ。車、回してくるから待っててくれよな」

 返事も待たず駆け出していくシンの背中を ソラは無表情のまま眺めていた。


 シンが車を回してくるまでの間、ヒロとソラの2人は外のベンチに座って待っていた。

「あれから何か、変わったことはありましたか?」

「・・・いいえ」

「無事に手続きも終わったようですね」

「・・・はい」

 連絡を寄こさなかったことなど何も気にしていない風情で優しく問いかけるヒロだが、ソラの返事はどこか緩慢で素っ気ない。視覚障碍者であるヒロは、サングラスに取り付けたアイカメラをソラの方に向けてスイッチを操作する。

『カクニン ソラ ヨコガオ ウツムイテイマス ・・・』

 極小の音声が高速で響く。周囲には聞こえないくらいの音量で、6倍速くらいの速さだ。けれどヒロは、それを充分感知して理解する聴力を持っている。

「ソラ、今日も美人ですね。僕のアイカメラがそう言っています」

 微笑みながら言うヒロの言葉にも、ソラの返事は簡潔で短い。

「・・・そうですか」

 そこでヒロは、ソラが話をしてくれそうな話題を投げかける。

「ビートは?連れてこなかったんですか?」

 ソラのパートナーであるビートは、彼女の聴覚障害を補佐する賢いヨウムだ。誰よりも長い時間、彼女の傍で過ごしてきている。

「・・・鳥インフルの影響がありまして・・・置いてきました」

 あ、そうかとヒロは思った。昨今、鳥類の輸送は色々と厳しい制約がある。

「そうでしたね。でもビートなら、きっと良い子で待っているでしょうね」

「・・・ええ、きっと・・・」


『ソラ ウエノホウヲミアゲテイマス』

 アイカメラから届くAIの音声。

 ソラは遠くの空に視線を投げ、残してきたビートの事を考えている。

(・・・ごめんね・・・ビート)

 そんな彼女の心の声を感じ取ることなど、ヒロにはできない。

 やがてシンの車が目の前に停まり、3人は空港を後にした。


 車内はまるでお通夜のようだった。確かに骨壺を2つ運んでいるのだから当たり前かもしれないのだが、ハンドルを握るシンですら一言も口を利かない。最初に行き先を確認すると、黙ってハンドルを握っている。目的地は、江戸川の河川敷に面しているS院という仏教寺院だった。


 ここが、A国でソラの両親の遺骨を預かっていた日本寺から紹介された寺なのだろう。事前に連絡されていたようで、門を入ってすぐ横にある拝観受付で話を通すと、直ぐに住職が出てきてくれた。必要な費用などは全て送金済みで手続きも終わっているようだ。住職の案内で1つの墓所の前に来ると、納骨の法事が始まり、やがて滞りなく遺骨は収められた。

 少し離れた場所で待っていたヒロとシンは、墓石を見つめて立っているソラを見ていた。そこに、親切そうな住職が2人を誘う。

「色々と積もる思いも おありになるのではないですかな。お1人にして差し上げてはいかがでしょう。お待ちになる間、良ければ粗茶などいかがかな?」

 住職は、少し離れたところにある縁台を示した。そこなら、戻ってくるソラを待つのに都合が良さそうだ。ヒロとシンは、藤棚の下にある縁台に腰を下ろすと 運ばれてきたお茶をいただきながら漸く話をしだす。

「シン、急に呼び出しましたけど仕事の方は大丈夫だったんですか?」

 日本に来てからも、何となくお互いを『シン』『ヒロ』と呼び合っている腹違いの兄弟だ。

「ああ、小夜子に頼んできた。ついでに有休申請も出しといてくれるってサ」


 シンは帰国後、警視庁に戻っている。研修前に喧嘩別れした小夜子と無事仲直りし、同じ職場の同じ部署で刑事として日々を過ごしていた。以前と変わっているのは、小夜子と電撃婚約し 更に電撃入籍までしてしまっていることだ。

 これはシンが、研修中に学び成長したことが要因なのだろう。

 真摯に、後回しにせず、逃げ出さず、自分に正直に。

 その結果、一気に関係が加速し 現在妻帯者になっているシンである。

「それは良かったです。小夜子さんとも仲良くやっているようで何よりです」

「まぁナ。相変わらず意見の対立はあるけど、喧嘩にまで発展しなくなったしな。とりあえず今は、早いトコ新居を探さねぇとって言ってるところだ」

 なかなかいい物件が見つからず、とりあえず一緒に帰国したヒロが事前に準備していたマンションに居候している形のシンなのだ。仕事の関係ですれ違いが多く、あまり話をするような時間はないけれど。

 そんな文字通りの茶飲み話がひと段落すると、シンは空になった茶碗を置いて立ち上がる。

「ちょっと遅くないか?見てくるわ」

 そう言い残して墓の方へ行ったシンは、直ぐに慌てて駆け戻ってきた。

「ソラが居ない!」


 二人は手分けして寺の中を探し回る。目が見えないヒロも、アイカメラを駆使してソラの姿を探した。けれど、どこにもソラの姿は無かった。

「シン、スマホのGPSは?」

「ちょっと待て・・・え?・・・車の中じゃねぇか」

 ソラは持っていたショルダーバッグを、シンの車の中に残したままだった。

「どこ行っちまったっていうんだよ。行くトコあったのか? 何も持たずにサ」

「・・・何だか嫌な予感がします。空港からここまでのソラの様子は、何だか少し・・・いえ、かなりおかしかったと思いませんか?先ほど受付で話をしていた彼女の声も、以前のような響きが感じられませんでした」

 元々無口なソラではあったが、帰国前にはそれなりに楽しく会話もできていたのだ。しかし車の中でも、ソラは一言も話さなかった。

「会話を拒否しているというより、何だか別の事で全てがいっぱいになっているような・・・それでいて、怖がっているような諦めているような・・・雰囲気がそんな感じだったように思います。単なる思い過ごしであればいいのですが・・・」

 見えない分、人の気配や雰囲気には敏感なヒロである。彼がそう言うなら、間違ってはいないのかもしれない。シンは焦りだした。

「ナンか、手掛かりみたいなものは無いのか」

 ヒロは黙っ、先ほどお茶を飲んでいた縁台に向かった。

 もう一度藤棚の下に座り、周囲をアイカメラで探ってみる。

「ここから見えない場所を通ったはずなので・・・」

 そしてソラが立っていた場所に移動して、再度アイカメラで周囲を探る。

「表門や裏門に行こうとすれば、藤棚の下にいた僕たちには解る筈です。そうすると、あの方向から出て行った可能性が高い」

 ヒロが指さす方向には、低い生け垣が続いている。

「あの高さなら、ソラなら普通に飛び越えられるナ」

 おそらく助走も付けずに、軽く。

 生け垣の向こうは、江戸川の河川敷に添う道路がある。

 2人はとりあえず、急いでそちらに行ってみた。


「川の匂いがしますね」

 2車線の道路を渡ると、そこは土手になっている。階段は先の方にあるが、二人はそのまま土手を登った。そろそろ夕刻で太陽はかなり傾き、西の空が少しずつ赤みを帯びてきていた。

「夜になったらヤバいよな。格段に見つけづらくなる。できれば応援でも頼みたいところだが」

 所轄に連絡して頼んでも、動いてくれるか怪しいところだ。相手は子供でもないし、見失ってからそれほど時間は経っていない。

「せめて、どっち行ったかだけでも解りゃいいんだが・・・」

「シン、下流はどっちですか?」

「え、南・・・こっからだと左方向だな」

「では、そちらを探しましょう。ソラが、今僕が考えるような状態ならそっちに向かって歩くと思います。左程早くは歩いていないはずなので、日が落ちる前に見つけましょう」


 ソラは基本的に礼儀正しく行動する。納骨が終わったあと、いつもなら自分たちに頭を下げるくらいはするはずだ。車で送ってもらったことでもあるのだし。

 それもせずに、黙っていなくなったということは 彼女の精神状態が普段とは違っていたということになる。ヒロはそんな風に推測していた。



 ヒロとシンが縁台でお茶を飲んでいた頃。

 納骨を済ませた墓の前で、ソラは小さく呟いた。

「・・・やっぱり、何も思い浮かびません」


 ずっと長い間、折に触れては考えていた。

『目標を達成した後、自分はなにをするのだろう』と。

 そしていつも頭には何も浮かばず、最後は

『そのうち思い浮かぶだろう』

 で思考を終わらせていた。

 そして『そのうち』は『目標を達成した後なら』に変わったのだ。

 けれど結局、納骨を済ませた今になっても、頭には何も浮かんでこない。


 ソラには『する』ことが何も無くなっていた。

 今までずっと『するべきこと』や『したいこと』は、『すること』に付随するものだった。

 父親の借金返済と、遺骨を日本に埋葬すること。これらを『する』ために働き、効率よく金銭を得るために必要だと思えることが『するべきもの』『やりたいこと』になっていた。

 例えば補聴器をカスタマイズすることや、対人関係のためのスキルを身に着けること、社会の一般常識やTPOを学ぶことなどがそれにあたる。

 けれど今は、それらが全部無い。


(私はやっぱり変わり者なんですね。普通は『する』ことが無くてもこうはならないでしょうから)

 そんな事が頭に浮かぶが、妙に現実感が無い。

 そして浮かんだ考えは、直ぐに霧散してしまう。


 川の匂いがしたので、何となくそちらの方に行ってみる。

 川面が見えたので、流れる川に沿って歩き出す。流されてゆく水が何となく自分のように思えた。

(2人にお礼を言わなかったけれど、バッグを置いてきましたから・・・)

 タクシー代として用意していたお金が、多少だけれど入っている。それをお礼として受け取ってくれれば良いのですが、とソラは思う。

 けれど、そんな考えも直ぐに頭の中から消えていった。


 日本に来る前に、FOI捜査官の身分も捨てた。

 ビートとも離れてきた。

 身の回りの品も全て売り払って、足りない費用を補った。

 そうやって、いっそ何もかも白紙にすれば、目標を達成した後に何か『する』ことが見つかるかもしれないと思った。

 そんな崖っぷちの賭けのような気持ちでここまで来たけれど、やはりダメで頭の中は空白だ。


 前方からスポーツ部員らしい若者が掛け声とともに走ってくるので、河川敷に降りた。

 夕方の広いグランドには、もう誰もいない。

 遠くに鉄橋が見える。夕日を浴びて、列車が走って行った。

 目や耳から、情報は入ってくるがそれだけだ。

 ソラは、ぼんやりと ただ歩いていた。



 ヒロは土手の上の遊歩道を歩き、シンは河川敷まで降りて幾つも並んでいるグランドを走り回る。

 アイカメラを使いながら歩くヒロの耳に、前方から近づいてくる大人数の足音と掛け声が届いた。急ぎ足で近づき、先頭の若者に聞いてみる。

「すみません、1人で歩いている女性を見ませんでしたか?」

 手短にソラの服装などを話して尋ねてみると、若者は足踏みをしながら答えた。

「ああ、見ましたよ。向こうの鉄橋の方だったかな。土手を降りて河川敷に降りて行ったけど」

 その先は解らないと言う若者に礼を言うと、ヒロは遠くグランドの端まで行ってソラを探すシンに、スマホでもっと先ですと伝える。

 2人は、鉄橋を目指して急いだ。


 何故歩いているのかも解らず、無表情でゆっくり歩を進めるソラは、どう見ても無防備で頼りない存在だった。鉄橋の下にたむろし、悪ぶっているはみ出し者たちにとっては 憂さを晴らすには持って来いの相手になる。

 けれどソラは、そんな男たちに眼も止めずぼんやりと歩く。

「彼女ぉ~ドコ行くの~~」

 1人の男が近づいてきて、無遠慮にソラの腕を掴んだ。

「ねぇ、イイことしない~~」


(・・・そちらにとってのイイこと、ですよね)

 反射的にそんな事を思ったが、それすらもどうでも良い気がした。


 自分に都合のいい考え方と行動で、日々を過ごしているらしい若者たち。

『こんなところを一人でふらふら歩いてるんだから、訳アリなんだ』

『着ている服もお粗末だから、大丈夫ダロ』

『何も持ってねぇみたいだし、体1つで歩いてるならそーゆーコトだよナ』

 今はその程度のことしか考えていないのだろう。


(・・・4回目、ですか)

 この後そういう方向に展開されるのは、容易に想像できる。

 今回は思考が続いているらしく、頭の中に様々な事が浮かんできた。

(1、1、4、今度は・・・6?)

 回数が増えるごとに相手の人数が増えていくようだが、こういう記録更新は嬉しくない。そもそも行為じたいがありがたくも無い代物なのだから。

(それにしても・・・)

 4回目ともなると、運が悪いでは片づけられないような気がする。自分の方に隙があるのかもしれない。確かに今は、隙だらけなのだが。

 ソラがそんなことを考えているうちに、6人に取り囲まれ 橋脚の傍に連れてこられた。しかしソラには、逃げ出そうとか相手を行動不能にしようという気持ちが起きない。その気になれば、6人とは言え素人なのだから比較的簡単に実行できるはずなのだが。

 自暴自棄、とは違う。投げやり、とも少し違う。

 どうにでもなれ、という気持ちでもない。

 ただ、空っぽなだけなのだ。


「・・・・・・ッ!」

 急に石ころだらけの地面に倒された。

 背中に感じる痛みだけが、やけにリアルだ。


「ここなら見えねぇし、サッサとヤっちまおうぜ」

「暴れそうもないしナ・・・つぅか、コイツなんかおかしくね?」

 抵抗もせず連れてこられ、喚くでもなく泣きもしない。恐怖で動けない、という感じでもない。

「確かにナ、頭おかしいのかもナ・・・あ、でも顔は美人だぜ。ラッキーじゃん」

 最初を声を掛け腕を掴んできた男が、仰向けに倒された体の上に馬乗りになる。

 早速ネルシャツのボタンに手をかけるが、焦っているようでなかなか上手くいかない。

「ンだよ、ビビッてんのかよ」

 仲間の揶揄に苛立ち、男はソラのシャツの前立て掴むと思い切り開く。

 ボタンが幾つも弾け飛んだ。

 そのままブラジャーにも手をかけ、引きちぎる。

 白い胸が露わになった。

「ナンだよ、けっこうデカいじゃねぇか」

 大き目な古着の上からでは解らなかったが、どうしてコイツはイイ身体をしているじゃないか。

 男たちはゴクリとつばを飲み込んだ。

 そして、男の手が、ソラのジーンズにかかり 下着ごと一気に引き下ろされる。



「ナニやってんだ コラァーーー‼」

 怒鳴りながら、凄い勢いで飛び掛ってきたのは、河川敷をずっと走り続けてきたシンだった。


 夢中になっていた6人は、全速力で駆けてきたシンに全く気付かなかった。不意を突かれて、1人は襟首を掴まれて後ろに放り出され、残る5人は尻もちをつく。シンは起き上がろうとする男たちを次々と引っ掴んでは転ばせ、ソラから遠ざける。

 服の様子は酷いが、最後までコトは至っていないと判断し、シンは素早く警察手帳を出した。

「警察だ、婦女暴行の現行犯で逮捕する!」

 半分は脅しでそう叫ぶと、案の定 男たちは大慌てで立ち上がって逃げ出す。

 そこに遅れてヒロが到着した。

 遊歩道の平坦な道を出来る限りの速さで進み 鉄橋近くで土手を滑り降りたらしい。視覚障碍者とは思えない速さだ。ヒロは土手を登ろうと半分転びながら逃げてくる男たちの前に立った。

 脇をすり抜ける男に左肘でひと突きし、前から来た男を白杖で引っ叩く。

 地面に転がった2人を残し、あとの4人は河川敷を必死に逃げていった。


「おい、ソラ! 大丈夫か!」

 逃げてゆく男たちは放っておいても良いだろう。とりあえず未遂だし、未成年のようでもあった。一応顔は覚えたので、後でしかるべき処置をとろう。そう考えて、シンはソラを助け起こしにかかる。

「・・・はい・・・」

 ソラはゆっくりと起き上がり、自分の衣服の状態を見て取ると、先ずはジーンズを穿きなおす。途中で妙に引っかかったのは、ショーツが破けてしまったせいだろう。その動作は緩慢で、生活習慣のような反応のようだった。

 そこにヒロが近づいてくる。叩きのめした男たちは、放置するつもりだ。失明してから10年。ブランクはあったものの、それ以前は現場で活躍するFOI捜査官だった。今でも、当時の実力はそれなりに残っていた。

「ソラ、立てますか? シン、車をこっちに持ってきてください。とりあえずソラを連れて帰ります」

 アイカメラでソラの状態を確認すると、ヒロは落ち着いて指示を出した。



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